神様と作者との対話 その2
「神様、人間はどうして、この地上に生まれてくるんでしょうね。神様のままだったら、自由に生きれるとおもうのですが」
「お前は、将棋が好きかな?」
「まあ、少しできますけど。コンピュータ相手に指すこともありますよ」
「そうか。いいところで、負けてしまうと、悔しがったり、残念に思ったりするだろう。また、勝つとまた、次も勝てると思うだろう。」
「まあ、そうですけど。」
「たとえば、ここで、ベボ将棋をやっている二人がいるとしよう。ちょっと、見ているのもイライラするくらいヘボだ。自分は、ただ見ているだけ。もう、あまりのヘボなので、俺に替われといいたくなってしまうだろう。今のわしの気分が、そんな気分だ。」
「つまり、ヘボ将棋をしているというのが、僕というわけですか」
「まあ、例えだ。今の現状は、そうだが、これをお前の生まれる100年ほど前に移してみると、なぜ、お前がこの地上に生まれたかったがわかるぞ。」
「このヘボ将棋でも、やるには順番がある。みんなへたくそだ。神様になれば、自由でパワフルで、なんでもできる。なぜなら、時間、空間が存在しない、意識の世界だ。意識の世界は高速で、なんでも行うことができる万能の世界というべき世界じゃ。ところが、地上は、恐ろしく低速で、ノロマで、神様の世界にからくらべれば、速度的に100万分の1、100億分の1という感じの低速になってしまう。行動も、思考も、成長もだ。ありとあらゆるものが、低速化する。その低速化は、人生50年、80年といった時間を生み出す神のシステムである。こちらの世界に来てみると、時間という概念は存在せず、すべては、瞬間に成就してしまう。」
「そちらの世界は、そんなにすごいんですね」
「だから、このノロマで、低速な世界のヘボな生き方をみていると、ぼくなら、ちゃんとやれると誤解してしまうんだな。」
「まさか、ぼくなら、ちゃんと上手にやれますといって、生まれてきたというのじゃありませんよね。」
「いや、おまえは、今が絶好のチャンスだから、どうしても、僕を地上に送り出してくださいと、騒いだこと、騒いだこと。その勢いをだれも、止めることはできなかったんで、お前は、今、地上に生きているんだぞ」
「そうなんですか。そんなに、言い張りましたか。だだっ子みたいにですか?」
「そうだ、だだっ子みたいだったぞ」
「僕は、どうしても、生まれたいといったという、その絶好のチャンスとかは、うまく掴んだのでしょうか?」
「まだ、人生半ばだから、なんともいえないな。人生を終えて、こちらの世界に戻ってきてから、自分でよく考えるんだな」
「この地上は、恐ろしくノロマで、低速な世界だ。それ故に、それぞれの魂は、50年、80年という時間をかけて、自分を試すことができる。つまり、将棋というゲームをやってみることができるわけだ。こちらの世界では、絶対できないぞ。もし、やったとしても、将棋の勝負は、一瞬で終わってしまって、何があったのか、まったくわからないという感じじゃ。しかし、この地上では違うぞ。何時間も何日もかけて対戦してもいい。すると、ヘボな手や、へんなことがたくさん起きる。しかし、これが大事じゃ。超低速で、ノロマな世界なのだから、どうして、それが起きてしまったのかを、よく考えればわかるようになっている。オリンピックの体操の演技で、くるくる回って、ひねっていたりすると、いったい、何が起きているのはよくわからないが、それを、スローモーションで再生して、解説をすると、こうなっているのか、わかる。それと同じように、こちらの世界にいれば、一瞬でおわってしまうことを、50年、80年に引き延ばして、実体験できるのが、この地上の人生だ。しかも、その生きた記憶は、すべて保存され、何度でも何度でもみることができるようになっている。」
「そうなんですか」
「しかし、地上に生きていると、超低速,ノロマな世界も、みんな同じように生きているので、超低速、ノロマだと誰も不思議に思わないがのう」
「それって、神様の世界とこの地上の世界を比べることができないからですよね」
「まあな。あまりにも、神様の秘密がわかりすぎてしまうと、答えを知っているのに、テストをうけるようになって、地上に生きる意味がなくなってしまう。」
「すると、どうなるんです。」
「神様の世界とこの世界が、調和されて、ユートピアという状態になってしまうと、人間は不思議なもので、冒険がどうしても、したくなるんじゃ。すると、未開のまだ、ユートピアになっていない星に、みんなで、冒険の旅にでてしまうんだ。そうやって、何億年も前にこの地球に、わし達がやってきたというわけだ。」
「え!。この地球に来て、何億年もたっているんですか?」
「まあ、そうなるな」
「まさか、恐竜といっしょに生きていたなんてことはありませんよね」
「実は、恐竜ともいっしょに生きていた時代もあった。」
「ありえないと思いますが」
「ほんとうじゃ」
「ふーん」
「神様の世界には、時間も空間もない、魂の世界じゃ。人間が観測している宇宙は、135億年の歴史があるといっておるが、宇宙はもっと、広大で、100億年、200億年という、そんな短い単位の時間軸でははかれないんだよ。おまえは、仏教のいうところの時間と空間が、途方も無く、大きいのを知っているか。その途方も無い時間と空間より、本当の世界は、その何百万倍も何億倍も大きいのじゃ。よく考えてみると、時間と空間がないのだから、それを比較したり、計ったりすることはできないのだが、なんとか、表現しないと、困るので表現しているにすぎないのだ」
「なんだか、途方もない話になってきましたね」
「まあ、とにかく、超低速、ノロマで、混乱している世界を生き抜くのじゃ。その超低速、ノロマの時間があるということが、人間の秘密をスローモーションでみることを可能にし、世界の秘密、人間の秘密、実は神様の秘密をみつけだす、唯一の方法でもあるのだよ。これは、人間の秘密を自分が捕まえることができる、めったいないチャンスなのだ。」
「その絶好のチャンスに、僕が生まれたいと、だだをこねたといわけですね」
「そうだ、だだをこねて、他の人の順番まで、奪ったのだぞ。」
「そうですか。その人にごめんなさいと伝えておいてください」
「伝えておくぞ。その順番を奪われたのは、実は、わしなんだ。ほんとうは、わしが、先にこの地上に生まれる順番だったのだが、おまえがどうしてもいうので、譲ってやったのじゃ。」
「それは、どうもありがとう。僕は、あなたの分も頑張らないといけないわけですね」
「そうだ。頑張りたまえ」




