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6.夢での邂逅~白兎のぬいぐるみ~

本日一回目の投稿です。いつもの時間にもう一話投稿します。

「きゃぁああぁ♪ くーちゃんは実体化しても可愛いわねぇ」



 テンションの高い声に呼び覚まされるように目を開けると、ゲームではなじみのある部屋にいた。

 この部屋は私の部屋じゃなくて、ゲームで仲良くしていたきゅーさんの部屋だ。

 私が知っているのはパソコンの画面で見た部屋だけど、きゅーさんに頼まれて、木工スキルで私が作った家具があるので多分間違いない。

 きゅーさんは私がゲームを始めた頃からのフレンドで、ゲーム初心者の私に色々と教えてくれた師匠でもある。

 もう一人、きゅーさんのリアルの友達だという戦士のフーテンさんと一緒に、狩りに行ったり、レベル上げを一緒にしたり、素材を集めたり、かなり長い時間を一緒に過ごした。

 小さい子供のキャラは珍しかったからか、可愛いものが好きなきゅーさんには、随分可愛がってもらっていて、一緒に遊ばない日も、ログインしたら必ずチャットで話をしていた。

 特に遊ぶわけでもなく、景色の綺麗な場所を見つけたからとか、何かと理由をつけては連れ出してくれたりもして、ただチャットでおしゃべりをして過ごすということもあった。

 大人のプレイヤーさんだったので、課金もかなりしていて、アイテムがかぶったからと言っては、格安で譲ってくれたり、私が持っている不要なものと交換してくれたり、かなり甘やかしてもらっていたと思う。

 ちなみにくーというのは、私のプレイヤーネームだ。

 一緒にいることが多い上に、くーときゅーで名前も似てるので、よくコンビ扱いされていた。

 

 

「実体化って? きゅーさん、これって夢?」



 可愛い可愛いとぎゅっとハグされながら撫でられて、夢のはずなのに、やけに現実っぽくて驚いてしまう。

 首を傾げながら見上げると、綺麗な顔をほんのりと赤らめて、「きゃ~♪」と、きゅーさんが悶えた。

 波打つ金髪と晴れた空の色を写し取ったような綺麗な瞳の美人さんなのに、きゅーさんは行動が残念過ぎる。

 でも、そこが親しみやすくもあるけれど。

 きゅーさんが暴走すると、止められるのはフーテンさんだけだった。

 リアルのご夫婦なのかな?って思ったこともあったけど、フーテンさんは別の女性と結婚していて、子供もいるという話だった。

 きゅーさんとは幼馴染のようなもので、昔から振り回されているらしい。



「そうね、夢といえば夢で、現実でもあるわ。それより、くーちゃんはアイテムボックスが使えなくて困っているんじゃないの?」


「どうして知ってるの!?」



 伺うように首を傾げるきゅーさんに、思わず詰め寄ってしまった。

 アイテムボックスが使えるなら、ルーファスさんに必要以上に迷惑を掛けなくて済むから、使えるようになりたい。



「どうして知っているのかは、今は内緒。いつか、すべての条件が満たされた時に教えてあげるわ」



 内緒と、悪戯っぽく微笑むきゅーさんは、綺麗なのに可愛らしくて、それ以上追求できない雰囲気も纏っていた。

 何かずるい。

 大人の女の人のあざとい可愛さを見せつけられた気がする。

 でも、今はって言った。

 条件が何かわからないけれど、時がきたらちゃんと教えてくれるってことだと思う。

 今まできゅーさんは、話せないことを誤魔化したりはしても、嘘は絶対つかなかった。

 だから、いつか話して貰える日が来るのを信じて、待つことにしよう。



「じゃあ、アイテムボックスの使い方は? スキルとかも使える?」



 問い詰めるのは諦めて、この世界にきてから知りたかったことを尋ねると、きゅーさんの手に白兎のぬいぐるみが現われた。

 これは、ゲーム時代のアバターの中にあった、背中装備の白兎だ。

 リュックにもなるし、ぬいぐるみとして手にも装備できる、ただ可愛いだけの無駄アイテムだった。

 特に性能がいいというわけでもないけれど、課金アイテムじゃなくて、イベントの時に簡単に手に入るアイテムだったので、持っている人も多かったはずだ。



「これをどうぞ。これの背中のファスナーを開けると、そこからアイテムボックスに繋がってるわ。もちろん、ぬいぐるみよりも大きなものも出し入れできるし、それに、ゲームと同じで譲渡不可で破壊不可だからね。くーちゃんから10メートル離れると自動的に戻ってくる素敵仕様になっているから安心して。ついでに、状態保存も掛かっているから、いつまでたっても真っ白なままを保ってくれるわ」



 はい。と、ぬいぐるみを差し出されて受け取ると、今の小さな手にしっくりと馴染んだ。

 ふわふわで肌触りもよくて、思わずぎゅっと抱きしめてしまう。



「あぁっ! もう、くーちゃんってば、何て愛らしいのっ。白兎がよく似合うわ。ゴシックドレスは、白兎を持つならやっぱり黒よね。白兎とあわせるならゴシックドレスが私の中ではジャスティスだけど、でも、意外とミニチャイナに白兎もあうかもしれないわー。その場合、靴はどれがいいかしら? どうせなら髪飾りも兎で作っておけば……」



 くぅ~っ!!と、悶えながら、きゅーさんが赤くなった頬を抑える。

 ついでに頭の中で私の着せ替えを始めたのか、白兎と合う服の名前が次々に出てきて、話が出来そうにない。

『フーテンさん、お客様の中にフーテンさんはいらっしゃいませんかー?』と、思わず頭の中で現実逃避した私は悪くないと思う。

 興奮状態のきゅーさんを止められるのは、フーテンさんだけだ。

 だけど、残念ながらフーテンさんはいないので、きゅーさんの腕を何度も引いて注意を向けようとした。



「きゅーさん、きゅーさん! でも、私、違う服も着たい。白い服のときに白兎だと、あまり可愛くないと思うの。白兎の色を変える方法とかない?」



 服に合わせてぬいぐるみの色を変えられれば、持っていても違和感はないはず。

 どうせ夢の中だから、我侭を言ってみてもいいだろうと思って、きゅーさんに訴えてみると、その言葉に考えさせられるものがあったのか、また悩みだした。



「そうねぇ、ゴシックドレス以外にも、くーちゃんに着て欲しい服が山ほどあるものね。そうなると、いつも白兎だとあわない事もありそうね。うーん、そうねー……どうせなら色を変えられるだけじゃなくて、形も変えられるようにしましょう。ぬいぐるみを持って歩くには相応しくない場所に行く事もあるかもしれないから」



 真剣に悩んで、ぶつぶつと呟きながら、きゅーさんがぬいぐるみを手に取る。

 しばらく悩んで最終形が決まったのか、ぬいぐるみを手にきゅーさんが呪文を唱えると、ぬいぐるみが光を放った。

 


「白のほかに、黒とピンクと茶色に変えられるようにしておいたわ。アイテムボックスとして使えるのはこの状態のときだけだけど、ぬいぐるみからブレスレットにも変えられるようにしておいたから。ブレスレットに変えたい時は、ぬいぐるみに向かって、『おやすみなさい、またね』ってキーワードを言ってね。そうすると兎のぬいぐるみから、ブレスレットに変わるわ。ブレスレットからぬいぐるみに戻したい時は、『おはよう、朝ですよ』がキーワードだから忘れちゃダメよ?」



 もう一度ぬいぐるみを渡されて受け取ったけど、絶対にキーワードはきゅーさんの好みが入ってると思う。

 ぬいぐるみ相手におやすみなさいの挨拶をするちびっこが可愛いとか、絶対にそういう理由で決めたに違いない。

 でも、性能をよくしてくれたんだから、感謝するべきだ。

「ありがとう」と、素直にお礼を言った。



「あぁっ! 時間切れだわっ。もっとくーちゃんとおしゃべりしたいのにー」



 きゅーさんの姿が何故か少しずつ遠ざかっていく。

 さっきまで部屋の中にいたはずなのに、いつの間にか真っ白な空間に移動していた。



「――くーちゃんっ……また、くるからっ! それから、ルーファスは、信じて大丈夫よーっ!!」



 遠ざかりながらも声が届くようになのか、きゅーさんが必死で叫ぶ。

 その姿からは、私のことを心から案じてくれているのだと伝わってきた。



「きゅーさん、ありがとうー! またねっ」



 私も大きな声で叫びながら伝えようとしたけれど、声が届いたのかどうかわからない。

 気がつくとベッドの上で、少し焦ったようなルーファスさんに揺り起こされていた。




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