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48.決意




 目が覚めるとベッドにいて、何故か横には血で汚れたルーファスさんが寝ていた。

 ルーファスさんの顔や手に血がついているのでぎょっとして、どこか怪我をしたのかと焦って体を探ろうとした瞬間、ルーファスさんが目を覚ます。

 思わずルーファスさんにしがみつくと、暖かな腕に抱き返されてホッとした。



「ユキ、どこも痛くはないか? 気分が悪かったり、違和感を感じたりするところは?」



 私を抱きしめたまま視線を合わせて、ルーファスさんが不安げに問いかけてくる。

 何故そんなことを聞かれるのだろうと首を傾げた瞬間、突然訪ねてきた王女のことを思い出した。

 そして、自分が一度死んでしまったことも。

 震えてしまった体を、優しくルーファスさんが撫でてくれる。

 優しく労わるように触れてくる手に癒されて、震えはすぐに止まった。



「なんともないから、大丈夫。心配を掛けてごめんなさい」



 死体になった私を見つけた時のルーファスさんの心情を思うと、胸が苦しくなる。

 大切なルーファスさんを、私が傷つけてしまった。



「ぼろぼろになって倒れているユキを見た時は、心臓が止まるかと思った。もう二度と、あんな思いはしたくない。獣神がユキの危機を知らせてくれて、蘇生薬を使うように教えてくれなかったら、俺はユキを失っていた。ユキのいない世界など、俺には何の意味もない。ユキを失ってしまったら、狂ってすべて滅ぼしてしまうかもしれない」



 私を抱きしめるルーファスさんの体が震えている。

 大好きな人を深く傷つけてしまったんだと、痛いほどに伝わってきた。



「ごめんなさい。……もう絶対、死んだりしない。頑張って強くなるから、ルーファスさんも傍にいて」



 もう二度と、ルーファスさんを傷つけたりしない。

 そう決意しながら、ルーファスさんを抱きしめる。

 蘇生薬があってよかった。

 今度きゅーさん達に逢うことがあったら、きちんとお礼を伝えよう。

 私が今も生きていられるのは、天空人にしてくれた神様たちのおかげなのだから。



「ユキが謝ることはない。あの腐れ王女を、徹底排除しておかなかった俺に非がある。呼ばれてもいない夜会にのこのことやってきて、我が物顔で不法侵入を果たす王女など、さっさと排除しておけばよかった。すべての国の使者が集まるパーティーがあるのだから、その場で断罪して、身分を剝奪するように持っていくつもりだ。ユキに危害を加えたのだから、八つ裂きにしてもまだ足りないが、そんな復讐をユキは望まないだろう?」



 憎々し気に王女のことを語るルーファスさんがちょっと怖くて、震えてしまったのが伝わったのか、優しく宥めるように背を撫でられた。

 確かに腹は立ったし、思い出すとイラっとするけど、死んでほしいとまでは思わない。

 私が一度死んだことを考えると、甘い考えなのかもしれないけど、あんな人のためにルーファスさんの手を汚してほしくない。

 それにあの王女にとっては、身分を剥奪されても生き続ける方が、死ぬよりも辛いのではないかと思う。

 


「それから、ユキ、これを。リリエンティアから預かってきた」



 ほんの少し不機嫌そうな様子で、ルーファスさんが指輪を取り出した。

 ルーファスさんの瞳の色と同じ宝石のついた、銀の指輪だ。



「『鏡のリング』と言っていた。好意には好意を、悪意には悪意を返す指輪だそうだ。ユキに悪意を持って近づく者には不幸が訪れ、ユキに好意を持って近づく者には幸せが訪れるそうだ」



 説明をしながらも、ルーファスさんの表情は晴れない。

 もしかして、不機嫌というよりも拗ねてる?

 ルーファスさんより先に、リリンさんが指輪を贈るのが気に入らないとか?

 勝手に想像して、勝手に可愛いなぁと悶えてしまいながら、受け取った指輪は右手の小指に嵌めた。

 薬指ではないのを見て、ルーファスさんがホッと息をついていたから、私の想像は間違ってはいないのだろう。

 以前、向こうの世界の結婚式の話をした時に、婚約指輪や結婚指輪などの説明もしたので、ルーファスさんは、『薬指の指輪は特別』と認識しているようだ。

 どの指に指輪をするかなんて、そんなことで、簡単に感情を乱されてるルーファスさんが可愛すぎる。



「じゃあこれは、ルーファスさんを幸せにする指輪ね。私に好意を持っていて、いつも一番近くにいるのはルーファスさんだもの。それに、この石、ルーファスさんの瞳の色だから、ずっとつけていられるのは嬉しい」



 拗ねてた可愛いルーファスさんは、私の言葉で機嫌が直ったみたいで、指輪をした私の右手を取って、嬉しそうに撫で始めた。

 ルーファスさんって、黙ってると強面の大人なのに、どうしてこんなに可愛いんだろう。

 溢れる愛しい気持ちを伝えるように、虎耳の付け根を撫でると、心地よさそうに目を細めるから、思う存分撫でてしまった。




 しばらくベッドでじゃれた後、朝食を食べながら今後の予定を話し合った。

 私が生きていることをパーティーの当日まで知られないように、私は部屋に引き籠ることになりそうだ。

 念のために、公爵家の使用人はマリアさん以外はみんな本邸に返して、情報が漏れないようにするらしい。

 死んだと思っていた私がパーティーに出席したら、あの王女もさすがに驚くだろうなぁ。

 動揺して、上手く尻尾を出してくれるといいのだけど。


 公爵家の人達も巻き込んで、色々とした準備をするようだったけど、私は身を隠さないといけないので、ほとんど関わらせてもらえなかった。

 おかげで時間を持て余してしまったので、スキルでアイテムを作ったり、礼儀作法を覚える時間が十分すぎるほどに取れたのだった。




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