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44.女神との邂逅~婚約祝い~




「くーちゃんの部屋にあったものやアルバムなんかは、全部回収したから、後で纏めて渡すわね。それと、私とリリンから、婚約のお祝いと、くーちゃんがこの世界の住人になったお祝いを用意したの」



 完全に喜びだけではない複雑な私の心境に気づいているからか、あえてそこには触れずに、きゅーさんがウエストポーチ型のアイテムバッグを差し出してきた。

 これ、ゲーム内ではNPCから手に入れることができたアイテムバッグじゃないかな?

 容量はそこまで大きくないけど、クエストで手に入るので、初期は重宝していた。

 大きさは3種類あって、どれも袋型で色で見分けがつくようになっていた。

 1マスに999個入るアイテムもあったので、最小の8種類までしか入らないバッグでも、使い方を工夫すればたくさんアイテムを持てるようになっていた。

 


「私からは新たなアイテムバッグを製造できるスキルを。新しいアイテムバッグは、バッグに入れられる数を限定しない代わりに、物を入れられる空間の広さ設定したの。一番小さいもので荷馬車一台分くらい。次が一般的な広さの倉庫くらい。一番大きいのは、小さな家と同じくらいのアイテムが入るようになっているわ。いつの間にかアイテムバッグを作れる人達がいなくなって、アイテムバッグが出回らなくなっているから、たくさん作って広めてほしいの」



 ゲームの時には、アイテムバッグはクエストでもらう以外にもNPCから購入することもできた。

 ということは、天空人がいた時代には、アイテムバッグを作れる職人が存在していたということだ。

 どういった経緯で職人達がいなくなってしまったのかわからないけれど、容量が少なくても、アイテムバッグが作れるようになれば、この世界の人達の生活は大きく向上すると思う。

 きゅーさん達にも益があるとはいえ、大盤振る舞いなんじゃないだろうか。



「待て。そのスキルは、ユキしか覚えられないのか?」



 邪魔をしないようにか、私を腕に抱いたまま黙って見守っていたルーファスさんが、不機嫌そうな声で口を挟む。

 きっと私の仕事がまた増えてしまいそうで、それを心配しているのだろう。



「一定以上の魔力があれば誰でも覚えられるわ。くーちゃん一人だと大変だから、アイテムバッグを作るスキルを伝授できるアイテムも一緒に渡すつもりよ」



 きゅーさんの返事を聞いて、ルーファスさんが小さく唸る。

 どう見てもご機嫌斜めだ。



「魔力があればいいのなら、俺が覚える。アイテムバッグまで作れるとなれば、今まで以上にユキが狙われる可能性が高くなって、危険が増す。ユキにばかり負担を掛けられない。俺ならば、狙われても返り討ちにできるから、貴重なスキルを覚えても問題ないだろう」



 私が危ない目にあわないように心配してくれたのだとわかって、胸の中に残っていた寂しさが和らいだ。

 ルーファスさんを選んだことは間違ってなかったと、ルーファスさん以上に私を大事にして、思いやってくれる人は他にいないと、改めて実感する。

 感激してしまいながら、ルーファスさんの胸に甘えるように擦り寄った。

 すぐに気づいて、優しく髪を撫でてくれるから、余計に甘えたくなる。

 身を寄せたまま見上げると、とても優しい目で見つめられていて、胸が温かくなるような幸せを感じた。



「ルーファスが覚えてくれるのなら助かるわ。スキルを伝授するためのオーブも、ルーファスに渡すわね。スキルを伝授する相手については、ルーファスの独断で選んでくれて構わない。スキルを覚えるにはいくつかの条件があって、覚えた後でもそれを満たせなくなったらスキルは消えてしまうから、スキルを覚えた人を無理に囲い込んだりはできないようにしてあるの。だから、スキルを覚えただけならば、ルーファスが考えているほど危険はないはずよ」



 貴重なスキルを得ることで危険な目にあわないように、対策は考えてあるらしいとわかってホッとした。

 アイテムバッグを作れるようになったことで、監禁されてバッグ作成を強要されるなんてことになったら、怖くて誰にもスキルを教えられなくなってしまう。

 ルーファスさんも同じ気持ちだったのか、安堵したように息をついた。

 


「私からは、料理スキルのメニューの追加ねー。くーちゃんが食べたいものを5つくらいメニューに追加するわ。珍しい材料は、ダンジョンで手に入るようにするから、ルーファスと二人で頑張って集めてね」



 料理の追加と聞いて、思わずぴくっと反応してしまった。



「リリンさん! カレーがいいっ! それから、チョコレートもっ」



 勢いよくお願いする私を、ルーファスさんが驚いたように見ている。

 耳がぴっと立っていて、すごく可愛い。

 ルーファスさんを見たら、ちょっとだけ冷静になった。



「わかったわ。カレーは辛さを3段階くらい用意すればいいー? くーちゃんは甘口じゃないと食べられないでしょ? チョコレートは、私も食べたいから嬉しいわぁ。こっちの世界では手に入らないから、喜ぶ神も多いわね」



 本当に嬉しいのか、リリンさんがご機嫌な笑顔のまま何度も頷く。

 神とはいえ、簡単に異世界の食べ物を手に入れることはできないらしい。

 確か、チャットでお話しするときのリリンさんは、食べ物の話をしていることが多かった。

 新作のお菓子の情報とか、リリンさんはとてもよく知っていたから、ゲームを通して日本と繋がっていた時代は、好きなものをたくさん食べていたのかもしれない。

 例え神様でも、知らない時ならともかく、知ってしまった後に好物を我慢するのは辛いのだろう。

 やっぱり、この世界の神様は人間臭い。



「後3つくらい増やせるけど、どうするー?」



 どうするのかと聞きながらも、ぜひ増やしてほしいようで、リリンさんが期待に満ちた目で見つめてくる。

 リリンさんの好きなものを追加してあげたいけれど、でも、今回は冒険者の役に立つ料理を追加したいなぁと思う。



「飴かキャラメルみたいなのがほしいな。できれば、持続回復系の効果がついたやつがいい。食べてる間毒無効とか麻痺無効とか、そういう効果でもいい。後はね、携帯食料で栄養補助食品みたいなの、作れないかな?」



 頭の中でカロ〇ーメイトのようなものを思い浮かべながらリリンさんを見ると、きちんと伝わったのか笑顔で頷かれた。

 携帯食料があれば、ダンジョンに籠っても栄養が偏ったりしなくなると思う。

 多分、アイテムバッグが出回れば、今までよりももっとダンジョンに長期間籠る冒険者が出てくるはずだから、対策はしておいた方がいい。

 もちろん、お店の目玉商品になればいいなぁという気持ちもある。



「どちらも複数の味を選べるようにしておくわ。料理スキルも、今はくーちゃんしか使えないけれど、もう少し私達の力が回復したら、天空人が個人で所有していた家を開放するから、そこのキッチンを使えば、この世界の人も料理スキルが使えるようになるはずよ。もちろん、家にキッチンが設置されていなければ、スキルは使えないのだけど。料理スキル用の魔道具は、普通のキッチンにしか見えないから、今まで発掘されたクランハウスから、持ち出されたことはないのよねぇ。誤算だったわー」



 きゅーさんと顔を見合わせながら、リリンさんがため息をつく。

 一番身近な料理スキルが出回っていない理由が判明して、私もつられるように息をついた。

 確かに、わかりやすい魔道具があるのならともかく、キッチンを持ち出したりしようとは思わないよね。

 キッチン全体が料理スキルを使うための魔道具だなんて、わかるはずがない。

 リリンさんの言葉から推察すると、今発掘されている天空人の遺跡は、クランハウスだった場所なのだろう。

 個人の家の方が数はずっと多いから、それが開放されたとしたら、たくさんの魔道具が出回るようになるはずだ。

 便利だからと、大きな街に家を持っている人も多かったから、人の住める家も増えそうだけど、そうなったらそうなったで所有権などでもめそうな気もする。



「家の所有権とかどうなるの?」



 大混乱に陥る可能性に気づいて、今のうちに聞いてみることにした。

 開放がいつになるかわからないけど、大きな争い事なんて起きなければいいと思う。



「所有権は最初に見つけた人に発生するけれど、一人一つしか持てないようにするわ。最初の一人が家に入った段階で、自分の家として登録するかどうかを選択できるようにするの。既に家を持っている人は、未発見の家に入ることができないようにするし、開放はまだまだ先になりそうだから、それまでにきちんとルールを作っておくわ。だからくーちゃんは心配しないでね?」



 争いの原因になることは、きゅーさん達もわかっていたらしい。

 安心させるように微笑みかけられて、小さく息をつく。

 この世界の人が豊かに生きられるように、ゲーム時代の家が利用できるようになるのはいいことだから、神様たちの力が元に戻るように、できる限りのお手伝いをしよう。

 


「想定外のことがいくつか起きた結果、ユキが特別になっているだけなんだな。ユキだけが使えるスキルといった状態を脱却するために、俺も手伝おう。同じようにユキのことを大切に思う貴女たちに対して、俺の態度は失礼だった。申し訳ない。ユキと出逢わせてくれたことも、深く感謝している。俺とユキを出逢わせてくれて、ありがとう」



 私達のやり取りを見ていて、ルーファスさんは色々と思うところがあったのか、きちんと姿勢を正して謝罪と感謝を二人に伝えた。

 ルーファスさんのきゅーさん達に対する悪い印象がなくなったのは、とてもいいことだ。

 この調子で、いつか獣神とも和解できたらいいのになと思う。

 せっかくお父さんがいるのだから、できるなら仲直りしてほしい。



「ルーファスが、それだけくーちゃんを大事にしてるってことだから、私達は気にしてないわ。これからも、くーちゃんのことをよろしくねー」



 リリンさんがのんびりとした口調で言いながら、とても柔らかく優しい表情で微笑む。

 暖かな包容力を感じさせる表情は、さすが女神様といった雰囲気で、心がとても安らいだ。



「くーちゃんもだけど、私達はルーファスにも幸せになってほしいのよ。できれば、いつか獣神とも和解してほしいわ。――ルーファスはクレイ砂漠って知っている?」



 きゅーさんの唐突な問いに、ルーファスさんが戸惑いながらも頷く。



「今はクレイ平原とも呼ばれる、奇跡の砂漠のことか?」



 ルーファスさんが答えると、きゅーさんが大きく頷いた。



「あの砂漠はね、獣神の涙で平原になったの。愛する人を守れなかったことを嘆いて、愛する息子が生れたことすら知らず、その成長を見守ることができなかったことを悲しんで、獣神が流した涙が、死の砂漠を潤したのよ。あなたはとても愛されているわ。それを、知るべきよ、ルーファス。この世界で、くーちゃんに父親と母親を与えられるのは、ルーファスだけだもの」



 砂漠が平原になるほどって、獣神はどれだけ嘆いたのだろう?

 きゅーさんの言葉が胸に響いたようで、ルーファスさんは何か考え込むように黙り込んだ。

 その表情に今までのような拒絶はないような気がして、獣神との和解の日は近いと思えた。



「その言葉、しっかりと受け止めよう。獣神に、都合がいいときに逢いに来るよう伝えてほしい」



 しばらく考え込んだ後、何かを決意するような表情でルーファスさんが伝言を頼む。

 ルーファスさんが、辛い過去を乗り越えようとしているのだとわかって、精一杯応援したくなった。

 大きなルーファスさんの手を取って、指を絡ませるようにしっかりと繋いだ。

 ルーファスさんの中の頑なな部分が、少しずつ崩れているのを感じる。

 頑なさがなくなってしまったら、これから先、ルーファスさんはもっと魅力的になっちゃうんだろうなぁ。

 ルーファスさんの気持ちを疑うわけじゃないけど、好きな人がもてすぎるのは辛いから、ちょっと心配だ。

 今だって、冒険者ギルドのグロリアさんとか、凄く綺麗な冒険者の人とか、いかにもルーファスさんを狙ってるという感じの人がたくさんいるのだから。



「必ず伝えるわ。ありがとう、ルーファス」



 きゅーさんは嬉しくてたまらない、そんな笑みを零して、リリンさんと抱き合った。

 二人ともとっても仲良しだ。



「名残惜しいけれど、そろそろお暇するわ。くーちゃん、ルーファスと幸せにね」



 きゅーさんの言葉に頷くと同時に、二人の姿は掻き消えて、元の空間に戻された。

 機嫌よくお酒を飲むアーサーさんと、絡まれるローランドさんを見て、戻ってきたんだなって実感させられる。

 顔を上げると、ルーファスさんが私を見ていて、何となく繋ぎ合わせたままの手に力を込めた。

 しっかりと繋がれたままの手から伝わる温もりが心地よくて、家族ともう二度と逢えないという悲しさは、いつしか消えてしまっていることに気づいた。




今日は見直しの時間が取れなかったので、後で微修正するかもしれません。

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