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4.子供扱い




 ひょいひょいっと、身軽にルーファスさんは樹の根を飛び越え、樹を避けていく。

 ルーファスさんの左腕に腰掛けるように抱かれたまま運ばれている私は、目まぐるしく変わる周りの景色に酔いそうで、途中からずっと目を閉じていた。

 首に掴まるように言われたけれど、恥ずかしくて最初はルーファスさんの服の胸元に掴まっていた。

 けれど、移動が始まってしまえば、服に掴まるのでは安定が悪いとわかって、しっかりと首に腕を回して掴まった。

 妖精の森は、ゲームと同じでかなり大きな森のようで、ルーファスさんは凄いスピードで移動しているのに、太陽が高く上る頃になってもまだ森を抜けられない。

 はっきりとした時間はわからないけれど、まだ朝といえる時間帯に出発したので、最低でも2時間はこうして運ばれているのではないかと思う。

 ゲーム時代は移動時間が長いと不評だったけれど、こうして現実になってみると、それでもかなり移動時間が短縮されていたんだとわかる。

 どう考えても馬車なんて使えない森の中や山でも、馬車で移動できていたから、その違いもあるのかもしれないけれど。



「ルーファスさんっ……疲れてない? 大丈夫?」



 いくら子供で軽いとはいえ、人を一人抱えたまま、走りっぱなしのルーファスさんが心配になって、声を掛けた。

 ちょうど大きな木の根を飛び越えたタイミングだったせいで、言葉にした瞬間、舌を噛みそうになったけれど、何とか回避する。



「疲れたか?」



 少しスピードを緩めながら逆に問われて、ふるふると頭を振る。

 ずっと腕に抱かれたままというのは慣れなくて、体に変な力が入ってしまっているけれど、運んでもらっているだけの身で疲れたなんて我侭は言えない。



「ううん。ルーファスさんが疲れてないか、心配になったの」



 ゲームの中で獣人は身体能力に優れているという設定だったけれど、実際に人とどれくらい違うのかはわからない。

 マラソンよりもずっと早いスピードで、マラソンよりも長距離を走っているルーファスさんが、無理をしていないか気にかかる。

 しかも最初は川原で、途中からは森の中なので、どちらも足場が悪い。

 平坦な道を走るよりもずっと、神経も消耗しているんじゃないだろうか。



「ありがとう、ユキ。もう少しで森を抜けるから、そこで休憩しよう」



 小さい子を褒めるように頭を撫でられて、微妙に複雑な気持ちになってしまったけれど、もうすぐ休憩できるとわかって、ホッと息をつく。

 私の知る常識では計り知れないほどに、ルーファスさんが強靭な肉体を持っているとしても、無理はして欲しくない。


 ルーファスさんの言葉通り、しばらくすると樹が疎らになっていき、街道のような場所に出た。

 馬車などが通ることもあるのか、それなりに幅があって、普段から使われている道みたいだ。



「ここを東に馬車で1週間ほど行くと王都につく。途中に街や村があって、タイミングがよければ、王都行きの馬車にすぐに乗れるだろう。急ぐ旅ではないから、ここから一番近い村で、馬車の到着を待ってもいいんだが……」



 ルーファスさんが、何事か考え込むように宙を睨む。

 私がいるので、より安全に王都へ行く方法を考えているのかもしれない。

 昨夜、これからどうするかを相談してみたけど、ルーファスさんが王都へ行く途中だったので、まずは王都へ行く事になった。

 ルーファスさんが王都で用事を済ませている間に、その後の予定を決めるつもりだ。

 王都には大きな図書館もあるそうなので、過去に私と似たような人がいなかったのか、調べてみるつもりだった。


 交通手段は2千年前と同じで、馬車か徒歩のようだ。

 ゲーム時代も転移魔法みたいなものはなくて、馬車で移動だった。

 移動が面倒だと一部では評判が悪かったみたいだけど、馬車はパーツがたくさんあって、それを好きに組み合わせて作れるようになっていたので、性能のいい馬車を作れば、それだけ移動速度も上がったりしていた。

 木工の生産スキルで馬車を作ることが出来て、強化石で出来上がった馬車の強化をしたり、付加石で能力を増やしたりすることもできた。

 生産品として売買も出来たので、性能のいい馬車は高値で取引されていたから、馬車製作ではかなり稼がせてもらった。

 私も素材からこだわって集めて、自分で作った馬車を持っていたので、それがこの世界でも使えるのならいいんだけど……。

 アイテムボックス内に馬車は収納できるようになっていたから、アイテムボックスさえ開ければ、何とか取り出せるかもしれない。

 馬車を牽く馬もゴーレム馬が4頭、アイテムボックスに収納してあった。


 私が考え込んでいる間にも、ルーファスさんは休憩できる場を整えてくれた。

 軽々と抱き上げられて、厚手の布を敷いた場所へ降ろされる。

 地面に直に座らなくていいようにしてくれたみたいだ。

 強面で大雑把そうな見た目に反して、細やかな気遣いができる人だということは、もう理解している。

 ルーファスさんは本当に優しい人だ。



「ありがとう。ルーファスさんもここ、座ろう?」



 真ん中に下ろされたけれど、端に寄れば二人で座れそうだったので、端っこに移動して、隣をぽんぽんと叩きながらルーファスさんを誘った。

 少し離れた地面に腰を下ろしかけていたルーファスさんは、一瞬、驚いたような表情だったけれど、隣へ座ってくれた。

 


「食うか?」



 アイテムバッグから取り出した、桃のような果物を差し出される。

 お礼を言って受け取ってからよく見てみると、桃のような形をしているけれど、匂いは苺みたいな果物だった。

 熟れた桃のように簡単に皮が剥けたので、そのまま齧りつくと、果汁が滴り落ちる。

 桃みたいなのに味は苺の甘酸っぱさも混じっているような感じで、桃も苺も大好きな私にはとても美味しく感じた。



「……あ! 桃苺だ、これ」



 ゲーム内でグレンの実と呼ばれる素材があって、それを材料に料理を作ると、桃味だったり苺味だったり、作るものによって味の説明が変わるので、プレイヤーの間では桃苺と呼ばれていた。

 当然、パソコン内で動くキャラが出来上がった料理を食べることはあっても、実際に味わえるわけじゃないから、美味しそうだなってイメージは沸いても、どんな味なのか想像もつかなかったけれど。

 私の乏しい想像をはるかに超えるほどに瑞々しくて美味しい桃苺を、夢中で食べてしまう。

 種は桃のように大きくて、これを植えたら木になって、実がなるのかな?と思った。



「ユキはモモイチゴと呼んでいるのか? これはグレンの実という、今では妖精の森でしか育たない果物だ。天空人の農園では栽培されていたと聞くが、2千年の間に残っていた木も寿命を迎えて、ほとんどなくなってしまった」



 桃苺を皮ごと齧りながら、ルーファスさんが説明してくれる。

 やっぱり、ゲーム内の桃苺と同じ物の様だ。

 これはゲーム内では、ジュースにすると桃味になって、タルトにすると苺味になっていたけれど、こちらではどうなるのだろう?

 ゲーム内では、『グレンの実を使ったジュース。桃味。MPが少し回復する』という説明だったので、実際に作って試してみたいなと思うけど、今は貴重品のようだから無理だろうか?

 アイテムボックスさえ使えれば、グレンの実も入っていたはずなんだけど。

 生産は木工がメインだったけれど、キャラや木工スキルのレベルがカンストした後はあまりやることもなかったので、仲のよかった友達の勧めもあって、ポーションや料理などの生産スキルも取得して育てていた。

 だから料理やポーションの材料は、常に大量に持ち合わせていた。

 アイテムボックスを使えない今は、何の意味もないことだけど。



「グレンの木は育て方が少し特殊だから。MP回復薬を素材にした栄養剤を作って与えないと枯れてしまうの」



 1年に1回は栄養剤を与えないと、段々収穫量が落ちて、5年後には木が枯れる仕様だったから、栄養剤のレシピがなければ農園の木が枯れてしまうのも仕方がないことだ。

 栄養剤のレシピは覚えているし、ポーション作成スキルで作れるけれど、私の知識が本当に役に立つのかどうかは試してみないとわからない。

 ゲーム時代は自分で農園や畑を持っている人しか使わない栄養剤だったから、ポーション作成スキルのレベルを上げるために作った栄養剤は、生産仲間に全部あげてしまった覚えがある。

 そのお礼にと、大量にもらったグレンの実が、アイテムボックスに入っていたはずなのだ。

 


「そんなに特別な栄養剤が必要だったのか。だから、天空人が残していった栄養剤がなくなったところから、枯れていったんだろうな」



 納得したように頷きながら、果汁でべたつく私の手を取って、ルーファスさんが濡れた布で拭ってくれる。

 中身は17歳って話したけれど、見た目が子供だから、どうしても子ども扱いされてしまうようだ。

 口元まで拭われるのは、さすがに恥ずかしかった。



「ルーファスさん、ちょっと恥ずかしい」



 親切でしてくれているのはわかるけど、ここまでの子ども扱いは照れる。

 頬が熱くなるのを感じながら伝えると、ルーファスさんの手が止まった。



「あぁ、そうか。本当は成人しているんだったな。子供にまったく怖がられないのは初めてだから、つい、構いたくなってしまう。出来るだけ気をつけるから、許してくれ」



 ルーファスさんの耳が、申し訳なさそうにへにょっとへたれてる。

 長いしっぽも何となく元気がない。

 実は結構落ち込んでるんじゃないかと思うと、世話をしてもらっているのに文句を言うのも申し訳ない気がしてきた。

 子ども扱いされて恥ずかしいのと、ルーファスさんを喜ばせる事を天秤にかけると、ルーファスさんの方に傾いてしまう。

 何もしてないのに怖がられたり泣かれたりして、凹んでいたお兄ちゃんを思い出してしまうからかもしれない。

 お兄ちゃんは強面だけど、私を育てた経験もあったから、子供好きだった。

 小さい子を見かけると、「ユキもあれくらいの頃は、とっても可愛くて……」と、兄馬鹿を炸裂させて語り始めるので、とめるのが大変だった。



「少し、恥ずかしいだけだから……。あの……ルーファスさんに、世話を焼かれるのは、嫌じゃないっていうか、嬉しいの」



 まだお互いの事をよく知らないんだから、誤解がないように、せめて言葉で伝えるべきだと思って、恥ずかしいけどちゃんと言葉にしてみた。

 へたれていたルーファスさんの耳がピコッと立って、心なしか嬉しそうに見える。

 元々猫が大好きなので、ルーファスさんの耳としっぽは、かなりポイントが高い。

 触るのは失礼かと思って我慢しているけど、見ているだけでも楽しい。



「あ、そうだ! ステータスって概念はこちらにもあるんですか?」



 少し照れたような様子で言葉を探しているルーファスさんに気づいたら、私も照れくさくなってしまって、話を変えるように問いかけた。

 ステータスとか見られたら、自分のスキルとかアイテムボックスとか、使えるようになる切っ掛けが見つかるんじゃないかと思った。

 マウスもキーボードもない状態で、どうすればいいのか見当もつかないから、冒険者であるルーファスさんになら、ヒントをもらえるかもしれない。



「ステータス? ギルドカードに表示されるこれか?」



 ルーファスさんはアイテムバッグから、キャッシュカードと同じくらいのサイズの金属製のカードを取り出した。

 ゲームではステータス画面に全部表示されていたから、実際にカードを使うわけじゃなかったけど、でも、ギルドに登録した時にギルドカードをもらうといった描写はあったような気がする。

 何といっても、ゲームを始めた初期の頃の事なので、記憶も曖昧だけど。

 


「見てもいいの?」



 カードを差し出されたけれど、個人情報だから安易に見るのも気になって、確認するように問いかけると、手を取られてカードを握らされた。

 ルーファスさんの手は、大きくてごつごつしているけれど人と同じ手で、肉球とかはない。

 大きくて指が長くて、そして温かいと感じた。



「ギルドカードも天空人の遺産の一つだ。カードというよりも、ギルドのシステムそのものが大きな遺産だな。そのカードは、隠したい情報は隠す事もできるし、ギルドで更新すれば最新の情報が見られるようになる。個人のレベルや能力、スキルや称号などもすべてそのカードに記される」



 カードには名前やレベル、そしてギルドランクなどが細かく記されていた。

 表示されているものは、ゲームのステータス画面で見ていたものとあまり変わらないように見える。

 ということは、私もギルドに登録すれば、自分のステータスとか見られるのかな?

 でも、ステータスが見られても、アイテムボックスやスキルが使えないと意味がない。

 


「え? ルーファスさんって28歳? もう少し年上かと思ってた」



 威厳があるっていうか、落ち着きとか包容力を感じさせる人柄から、勝手に30代半ばくらいだと思っていた。

 だから、想像以上に若くて驚いてしまう。



「一番気になるのはそこなのか?」



 何故か少し緊張したような面持ちだったルーファスさんが、ため息混じりに突っ込みをいれる。

 ゲーム内の細かいステータスの数値なんて覚えてないし、比較対象がないから、ルーファスさんのステータスがどういうものなのか判断はできない。

 ただ、スキル欄に魔法もあるから、ルーファスさんは獣人なのに魔法も使えるんだなぁって思ったくらいだ。

 獣人は魔法の苦手な種族って設定だったけど、でもゲーム内では、獣人でも魔法を使えるのは珍しくなかったから、一番驚かされたのはルーファスさんの実年齢だった。

 ルーファスさんの実年齢という新しい発見はあったけれど、結局、ゲームと同じ能力をどうすれば使えるのか、それはわからないままだ。

 私もギルドに登録すればいいのかな?



「比較対象がないから、気にしようがないの。それより、ギルドの登録って年齢制限はあるのかな? 私でも登録できる?」



 本当は17歳だけど、今の見た目はどう多くみても10歳くらいだ。

 年齢制限があったなら、登録は難しいかもしれない。

 ゲームの時は、成人は15歳だったけれど、そこは同じなんだろうか?



「ギルドの登録に年齢制限はないから、登録は問題ないだろう。一度登録すると、3ヶ月に一度は必ずクエストを達成しなければならないが、それはユキさえよければ、俺とパーティを組めば、それで解決する。クエストに出ている間、ユキを一人にするのは心配だから連れて行くだろうし、それなら、パーティを組んでおいた方がいい」



 ルーファスさんがギルドの説明をしながら、さらりとパーティを組むことを申し出る。

 ここまでの移動で完全にわかっていたことだけど、私、ルーファスさんの負担にしかなっていない。

 パーティを組めばいいって、何でもないことのように言うけれど、ルーファスさんはAランクの冒険者みたいだから、ゲームの能力が何も使えない私は、ただのお荷物でしかない。

 ありがたい申し出だと思うのと同時に、それよりも強く、申し訳ないと思ってしまう。

 私にも、何か一つでいいから、ルーファスさんのためにできることがあればいいのに。



「また何か、子供らしくない事を考えているな? ユキは子供なんだから、頼って甘えていい。気にするなといっても、ユキの性格では難しいんだろうけどな」



 いつの間にか俯いていた私の頭を、ルーファスさんが壊れ物を扱うようにそっと撫でてくれる。

 大きな手で撫でられるのは、とても心地よくて、気持ちが和らいだ。



「ユキ、顔を上げてくれ」



 ルーファスさんに促されて顔を上げると、思ったよりもずっと近い位置でまっすぐに見つめられていた。

 本人は無自覚なんだろうけど、ルーファスさんはとても整った顔をしているから、あまり見つめられると恥ずかしい。

 上質なアクアマリンみたいな色のとても綺麗な瞳に魅入ってしまうと、柔らかくルーファスさんの口元が綻んだ。



「10歳で冒険者になってからずっと、俺は一人で旅をしてた。長年冒険者をやっていれば、臨時でパーティを組む事もあったし、固定のパーティやクランに誘われる事もあった。ランクが上がれば上がるほど、一人でやっていくのは難しくなるから、それでも頑なに一人で活動している俺は、偏屈な変わり者だと言われている」



 まっすぐにルーファスさんを見つめたまま、きちんと聞いていることを伝えるように頷く。

 どうしてルーファスさんが一人なのか、どうして旅をしているのか、理由はわからないけれど、私の見た感じ、ルーファスさんは特に人嫌いとか、一人が好きというようには見えない。

 ずっとソロだとしたら、そのことには、それなりの理由があるのだと思う。

 ルーファスさんを偏屈だとも変わり者だとも、私は感じなかった。



「俺にも理由がわからないんだが、ユキといるのは、…………楽しい?んだ。今まで、誰かといて楽しいと感じた事がないから、多分、これが楽しいという事なんだと思うんだが、ユキを見ているのも話をするのも、興味深い。一緒にいるのが苦にならない」



 言葉を探すようにしながら、ルーファスさんが自分の思いを伝えてくれる。

 28年も生きていて、楽しいという感情を知らないって、どうしてだろう?

 ルーファスさんは一体どんな人生を歩んできたの?

 子供でも知っていそうな感情を知らないというルーファスさんが、不思議でならない。

 でも、私を気遣って嘘をついているというわけでもなさそうだし、本当に今まで楽しいと感じたことがなかったんだろう。

 自覚をしていないだけで、楽しい経験をしている可能性はあるけれど。



「それに、ユキは俺を怖がらないから。大人の男ですら、俺と目を合わせるのを怖がる奴もいるんだ。特に乱暴な事をするわけでもないし、そこまで凶悪な顔をしているつもりもないんだが、子供と目が合うと、かなり高い確率で泣かれる」



 子供に泣かれるのがトラウマなのか、ルーファスさんの耳がへたれてしまった。

 確かに無表情だから、親しみやすいとは言えないけれど、この猫みたいな耳を見れば、可愛いとすら感じてしまうのに。

 私が猫好きだからとか、お兄ちゃんで怖い顔は見慣れているからとか、そういう理由もあるんだろうけれど、ルーファスさんを怖いとはまったく思わなかった。



「私のお兄ちゃんも、顔が怖いって誤解されがちだったの。とっても優しくて面倒見のいいお兄ちゃんだったのに。だから、私には耐性があるのかもしれないけど、でも、それがなかったとしても、ルーファスさんを怖いとは思わなかったと思う。あなたは、自分には何の益もないのに、私を助けてくれた優しい人で、私の恩人だから。迷惑を掛けてばかりで申し訳ないとは思うけれど、パーティを組むのは嫌じゃないの。ただ、何か一つでも、ルーファスさんの役に立ちたいのに、何も出来ないのがもどかしくて」



 誤解がないように、思っていることを言葉にすると、宥めるように優しく頭を撫でられた。

 ホッとしているようにも見えるから、やっぱりちょっとは、私がパーティを組むのを嫌がっているのだと誤解していたのかもしれない。



「一緒にいてくれるだけでいい。ユキと一緒にいると、今までとは全然違う旅ができる予感がするんだ。ユキがいつか家に帰る時まででいいから、傍にいてくれないか?」



 お願いしないといけないのはこちらの方なのに、優しいルーファスさんは私の心の負担にならないように申し出てくれる。

 何も出来ない子供でしかない私に、ルーファスさんは優し過ぎる。



「ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。でも、今は子供の姿だけど、中身は17歳だから、この世界では成人してるよね? だから、自分でできることは出来るだけ自分でやります」



 きちんと頭を下げてから、こればかりは譲れないときっぱりと宣言すると、驚いたようにルーファスさんが目を瞠る。

 でもすぐに、私を見る目が微笑ましげなものに変わったから、やっぱり子ども扱いされてる気がする。

『お手伝いできるもん』って、言い張る子供みたいになるから、今はあえて追求はしないけれど、体は子供になっていても、私に出来ることだってきっとあるはず。

 絶対ルーファスさんを驚かせて、凄いって言わせるんだから。

 私が心の中で決意していると、ルーファスさんが小さく吹き出した。

 笑っては悪いと思っているからなのか、それともいつもこんな笑い方なのか、声を押し殺すようにして笑うのが、ちょっとかっこよく見えて悔しい。

 笑い方はお兄ちゃんと全然違うなって思った。

 ルーファスさんの笑い方の方が……って思いかけて、何となくそれ以上考えるのを放棄した。




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