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33.ピクニック

久しぶりの投稿なので、簡単な人物紹介を入れておきます。


ユキ:主人公。ある日突然、ずっと遊んでいたゲームの世界に転移させられた。外見年齢10歳ほど。中身は17歳。

ルーファス:白虎の獣人。父は獣神。英雄とも呼ばれる二つ名持ちの冒険者。強面で不愛想だったが、ユキとの出逢いで色々崩壊中。素は寂しがりで甘えたがりで愛情深い。


ローランド:大国アルノルドの公爵家の3男。ルーファスの親友。身分の割には気さくなコミュ能力の高い人。妻を溺愛している。

セシリア:ローランドの妻。元は貧乏伯爵家の娘で、貴族でありながら家事が得意。

サイモン、デリック、エミール:ローランドの子供達。





 予想通りといえば予想通りだけど、早朝のうちにローランドさんが訪ねてきた。

 ピクニックを余程楽しみにしていたのか、朝からとても元気だ。

 ローランドさんの執念が勝ったのか、素晴らしくいい天気で、雨が降りそうな感じはしない。

 といっても、私がこの世界に来てから、まだ雨は降った事がないのだけど。

 ルーファスさんに聞いてみると、夏はやはり夕立のように急に雨が降る事もあるそうだ。

 でも梅雨のようなものはないそうで、一年の内に特に雨が多い時期というのはないということだった。

 冬は雪が少し積もるけれど、王都の辺りだとすぐに溶けてしまうらしい。

 アルノルド王国の北の方に行くと、豪雪地帯もあるそうだ。

 


「ユキ姉様、ルーファス様、おはようございます」



 迎えに来たローランドさんも乗せて、馬車で本館の前にいくと、すっかり準備を整えたローランドさん一家が出迎えてくれた。

 まだ1の鐘が鳴ったばかりの早朝だというのに、エミールは元気いっぱいで、すっかり目が覚めているようだ。

 サイモンは普段通りだけど、デリックはまだちょっと眠そうだった。

 セシリアさんは今日はワンピースのような簡素なドレスを着ていて、完全にピクニックモードだ。

 もう一台馬車が用意してあって、そちらにはメイドさん達が荷物を積み込んだりしていた。

 護衛の人達は馬で行くらしい。



「おはよう、エミール。セシリアさんもおはようございます」



 ルーファスさんが御者台から下ろしてくれたので、馬車に迎え入れるように側面のドアを開けた。

 ソファと御者台の上のロフトを使えるように、既に整えてある。

 ローランドさんは、他の馬車にはないロフトをとても気に入ってしまって、既にそこを陣取ってしまっているのだ。

 サンルーフのような天窓を全開にしてあるので、大人でも頭がつかえる事もなくてとても解放感があるようで、降りるつもりはないようだった。

 変なところで子供みたいな人だなと思いながらも、楽しんでもらえるならと、見逃すことにした。



「どうぞ、乗ってください。ローランドさんは上にいますから、エミールも行きたいのなら、そこの梯子から行ってみるといいよ」



 馬車のドアから見える内装だけで、既に驚いた様子だったみんなは、上と聞いて、意味がわからないといった感じだ。

 乗ってもらえばわかるからと、促して馬車に乗ってもらった。

 室内履きはまだ出来上がっていないので、今日は土足のままだ。



「セシリアさんはこちらにどうぞ」



 貴族の女性に梯子を登らせるわけにはいかないので、ソファを勧める。

 ローランドさんはみんなの反応を楽しむように、ロフトからこちらを見下ろしていた。

 本当に悪戯っ子みたいだ。



「馬車なのにガラスの窓? それに、馬車じゃないみたい」



 馬車に乗り込んだデリックが、驚いたように呟いた。



「父様! 一人だけそんな楽しそうなところにいるなんて、ずるいです」



 エミールがローランドさんに気づいて、ロフトの梯子に駆け寄った。

 そのまま登ろうとするのを、サイモンが落ちても対処できるように見守っている。

 いいお兄ちゃんなんだなと微笑ましく思いながら、同時に私のお兄ちゃんのことも思い出した。

 私が小さい頃、公園に遊びに連れて行ってくれたお兄ちゃんが、同じように遊具で遊ぶ私を見守ってくれていた。

 今思えば、当時のお兄ちゃんは中学生くらいだったんだろうか。

 自分だって友達と遊んだりしたかったに違いないのに、いつもそばにいてくれた。

 8つも歳の離れた妹のお守りなんて、決して楽しいものではなかったはずなのに、嫌な顔一つしなかった。

 サイモンを見ていたら、懐かしさでお兄ちゃんが恋しくなってしまった。

 どれだけ守られて愛されているのか、わかっていたつもりで、全然足りてなかったことに気づかされる。



「ユキはどこに座る?」



 私が寂しくなってしまったのを見透かしているのか、ルーファスさんがやってきて、軽く抱き寄せる。

 今日はおもてなしをする側だから、キッチンに近いほうのソファの通路側に座ると話してあったのに、確認をする振りで声を掛けてくれるのが嬉しい。

 包み込むようなルーファスさんの温もりに触れると、寂しさで埋め尽くされそうになっていた心が癒された。

 


「私はそこのソファに座るけど、通路側がいいから、窓側はルーファスさんが座ってね? サイモンとデリックはどうする? 上は狭いけど、登ってみる? 屋根にも出られるようになっているけれど、馬車が動いているときは、落ちると危ないから出ないようにしてね」



 どこに座ろうかと迷っていた二人は、屋根に出られると聞いてますます興味を引かれたようだ。



「デリックが行ってくるといい。私は母上を一人にするのは気の毒だから、こちらに座るよ」



 ロフトに4人だと、さすがに狭いと感じたのか、サイモンは弟に譲る事にしたようだ。

 ローランドさんよりも大人の対応をするサイモンに感心していると、ルーファスさんも同じように感じたのか、サイモンの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。

 私にするときよりもちょっと手荒いけれど、とても優しい顔をしている。



「サイモンはいい兄だな。馬車が目的地に着いたら、サイモンも上にあがってみるといい。この馬車の屋根には風呂もあるんだぞ」



 ルーファスさんから撫でられて、驚きで硬直していたサイモンが、お風呂もあると聞かされて更に目を瞠る。

 やっぱり、馬車にお風呂って変らしい。

 でもね、お風呂をつけるように熱心にお勧めした人は、多分この世界の神様なんだよ。



「長旅に向いた、いい馬車ですね。ルーファス様は旅に出られることが多いから、旅先で寛ぐ事ができるのは、とても良い事です」



 少しはにかんだように頬を紅潮させるサイモンは、嬉しそうにも見える。

 きっといつも素っ気無いルーファスさんが、自分から話し掛けてきたのが嬉しかったんだろうなぁ。

 子供には泣かれてばかりだとルーファスさんが言っていたことがあったけれど、サイモン達は泣くどころか怖がる素振りさえ見せない。

 それはきっと、ローランドさんがどれだけルーファスさんを大事にしているのか、きちんと理解しているからなのだろう。



「旅に出るのはもう少し先になるが、確かに楽しみだな。そろそろ出発だろうから、座るか。この馬車はあまり揺れないが、セシリアを一人で放っておくと、後が怖いぞ」



 冗談めかしながら、ルーファスさんがサイモンをソファに促す。

 ルーファスさんの言動が今までと違い過ぎるからか、サイモンは貴族らしく表情を取り繕うことが出来ないようだ。

 でも、ローランドさんは公私の区別をつけて、ルーファスさんといる時は子供っぽいんだから、サイモンも家族といる時はもっと感情を出してもいいと思う。

 サイモンを見ていると、長男ということもあって、責任感が強くて真面目なのかなって感じる。



「そういえば、朝早いですけど、食事はしたんですか?」



 私達はまだなので、馬車で食べようと思って軽食を用意してあった。

 まだ1の鐘の頃だから、みんな食べていないんじゃないだろうかと思って尋ねてみる。



「それが、ローランドに急かされすぎてまだなのよ。馬車の中で食べればいいの一点張りで、おかしいと思っていたけれど、確かにこの馬車なら落ち着いて食事もできるわね」



 ローランドさんはみんなを驚かせたくて、馬車のことをあまり話していなかったようだ。

 一般的な馬車を見せてもらって、少し乗ってみたけれど、あまり広くないし結構揺れるから、あの中で食事をする気にはなれない。

 普通の馬車の中で食事をしたら、多分酔ってしまうと思う。



「でも母上、料理はもう一つの馬車の方に積まれているのではありませんか?」


 

 サイモンに指摘されて、そこで初めてセシリアさんは気づいたようだけど、既に馬車は走り始めている。

 止めさせることは簡単だけど、わざわざ料理を持ってこさせなくても、私が持っているので、手持ちの料理を出す事にした。

 


「簡単なものになるけど、私が持っているから大丈夫」



 安心させるようにサイモンに笑みかけてから、席を立って、まずはロフトにいる3人のための食事を大きなトレイに用意する事にした。

 セシリアさんが手伝おうとしてくれたけれど、今日はお客様なので座っていてもらった。

 キッチンはそこまで広くないので、一人の方が動きやすいという理由もある。

 馬車はたいして揺れないし、深い器を使えば、スープも零れることはないだろう。

 キッチンに立って、アイテムバッグからかぼちゃのポタージュの入った鍋を取り出した。

 熱いうちにしまってあるので、温める必要はない。

 馬車に備え付けの引き出しから必要な食器を出して、手早く準備を整えていく。

 朝なので、スープにサラダ、それからフルーツと生クリームを添えたパンケーキと、グレンの実のジュースというメニューだ。

 サラダをチキンサラダにして、少しボリュームを持たせてあるので、育ち盛りの男の子でもお昼まではもつだろう。

 既に用意した物を盛り付けるだけなので、支度はすぐに済んだ。

 ルーファスさんは何も言わないうちにトレイを取りに来て、ローランドさんのところに運んでくれる。

 185センチあったお兄ちゃんよりも明らかに背が高いルーファスさんなので、ロフトには簡単に手が届いた。

 ルーファスさんなら、梯子を使わなくてもロフトに登れると思う。



「ローランド、子供みたいに遊んでないで食え。ちゃんと子の面倒を見てやれよ?」



 一緒に用意してあったおしぼりの使い方をルーファスさんが説明しているのを聞きながら、私達の分も朝ご飯を用意する。

 準備が出来たものからルーファスさんがテーブルに運んでくれたので、すぐに支度は整った。



「ユキ、ありがとう。まさか馬車の中で、こんなにちゃんとした食事ができるとは思わなかったわ。もしかして、これはユキの手料理なのかしら?」



 席につくと、セシリアさんが目を輝かせて尋ねてくる。



「はい。お口にあうといいんですけど。サイモンも、おかわりもあるから、遠慮しないでたくさん食べてね」



 育ち盛りなのだから遠慮しないようにと思って、一声かけてから、スプーンを手にスープの味を見る。

 かぼちゃがほんのり甘くて、いい感じで仕上がっていると思う。

 ポタージュは好きなので、結構頻繁に作ってしまう。

 生クリームが手に入らないと作れないから、欲しい食材がちゃんと手に入る世界でよかった。

 


「このスープ、とても美味しいわ。グラタンスープと少し似てるけど、でも、もっと優しい味がするわね」



 セシリアさんに褒められて嬉しくなってしまいながらルーファスさんを見ると、パンケーキを美味しそうに食べている。

 しっぽが嬉しそうにゆらゆらとしていて、甘すぎないのが好みにあっているんだろうなってわかった。

 ルーファスさんは甘いものはそんなに好きじゃないって言うけど、でも、ほのかに甘いとか、果物なんかの自然な甘さは好きみたいだ。

 多分、砂糖菓子みたいなのが苦手なんだと思う。



「サラダに入っているチキンも、食べた事のない味がします。でも、すごく美味しいです。ユキはとても料理上手なのですね」



 取り繕った顔でなく、美味しそうに食べながらサイモンが褒めてくれたので、嬉しくなってしまいながらお礼を言った。

 社交辞令ではないことは、サイモンの食べるスピードで伝わってくる。

 きちんとしたマナーで優雅に食べているけれど、そのスピードは速い。



「あ、そうだ。窓はついていますけど、外からは窓があるように見えないので、街中でも外から馬車の中を見られることはありません。だから安心してくださいね。どうしてなのかわからないけれど、外からは普通の馬車にしか見えないようになってるんです」



 そろそろ街の中を走る事になるので、外から見られる心配をしながら食事をするのは嫌だろうと思って説明すると、意味がよくわからなかったのか二人とも不思議そうに首を傾げている。

 これだけ大きなガラス窓があって、外の景色が見えているのに、外から見えないと言われても信じられないのだろう。

 マジックミラーというものを知っている私だって、自分で確かめていなければ、とても信じられない。

 これはマジックミラーともまた違うものだけど。



「後で馬車を降りた時に確かめてみてください。これはスキルで作った馬車だからなのか、外から馬車の内部は見えないようになってるんです」



 もちろん、入り口や御者台の扉から覗けば内部は見える。

 けれど、それ以外に馬車の内部を見る方法はない。

 説明のつかないことはたくさんあるけれど、きゅーさんの仕業と思えば、何となく納得できるような気がしてくる。

『何でも私のせいにしないで!』って、きゅーさんから苦情が出そうだけど。



「スキルで馬車が作れるんですか? こんなにはっきりと外が見えているのに、外からは中が見えないなんて不思議だけど、とても興味深いです」



 サイモンは目を輝かせて窓の外を見てる。

 護衛騎士に手を振ってみたけれど、気づく様子がないのが可笑しいのか、子供らしい笑みを零した。



「もっと小さい馬車なら、馬車に乗ったまま、密かに街の中を視察するのにも使えるかもしれないな」



 そう呟きながら、ルーファスさんが何事かを考え込んでいる様子だったので、その間に食後のお茶をいれることにした。

 スキルで作った紅茶がたくさんあるけれど、買い物に行ったときに茶葉も手に入れたので、普通にお茶を入れるつもりだ。



「ローランドさん、お茶をいれますけど、どうしますか?」



 お湯を沸かしている間に声を掛けてみると、ローランドさんがロフトから顔を覗かせる。



「下でいただくよ。そろそろ街の外に出るから、私はサイモンと交代しよう」



 ローランドさんは梯子を降りて、ついでに食器の載ったトレイをキッチンに運んでくれた。

 騎士として魔物退治に出ることもあるからか、ローランドさんは貴族とは思えない言動をたまにする。



「ごちそうさま、とても美味しかったよ。ユキは料理上手だね。セシリアの料理もとても美味しいけれど、ユキの料理も同じくらい美味しかった」



 褒めるついでに、さり気なくセシリアさんを自慢されたような気もする。

 ローランドさんがサイモンと場所を変わるのを横目で見ながら、使った食器を手早く洗ってしまうことにした。

 シンクに置きっぱなしにしておくと見苦しいし、かといって、使用済みの食器を洗わずにアイテムバッグに入れるのは嫌だ。



「手伝おう。俺が食器を拭くから、ユキが洗ってくれ」



 ルーファスさんが布きんを手に、準備万端といった様子で隣に立つ。

 今まで何度かお手伝いをしてもらっているので、遠慮なく手伝ってもらうことにした。

 途中でお湯が沸いたので、食器洗いを中断してお茶をいれていたら、その間にルーファスさんが残りの食器を洗ってくれた。

 二人でやると早いのですぐに片付く。

 ティーポットとカップをトレイに載せて戻ると、ローランドさんが人の悪い笑みを浮かべてルーファスさんを見ていた。

 これは、からかいたくて仕方がないときの顔だ。



「マメだな、ルーファス。新婚の夫婦のように見えたぞ」



 ローランドさんのからかいの言葉を聞いて、お茶を注ぎながら、ついルーファスさんの様子を伺い見てしまった。

 その瞬間、ルーファスさんと目が合って、鼓動が跳ねる。

 だって、私を見るルーファスさんの目が、とても、例えようもないほどに優しかったから。



「放っておくとユキは働きすぎるから、手伝うのは当然だ。それに、二人で一緒にやるのは楽しい」



 私の反応を見て、優しく微笑んだルーファスさんは、ローランドさんのからかいを軽く往なした。

 私はこんなにドキドキしているのに、ルーファスさんは余裕な感じでちょっと悔しい。



「ルーファスは優しいわね。結婚したら、とてもいい旦那様になるわ」



 ルーファスさんを褒めつつ、セシリアさんが私を見るから、頬の熱さは増すばかりで、反応に困ってしまう。

 元の姿なら、もう少し積極的になれたのかもしれないけれど、今はまだ子供の体だから、どうするのが正解なのかわからない。

 


「ローランドも優しいだろう? 少し落ち着きがないがな。サイモンはローランドに似なかったようだから良かったな」



 お返しとばかりにルーファスさんにからかわれて、ローランドさんが可笑しそうに笑う。

 こうした軽いやり取りをルーファスさんと出来るのが嬉しいようだ。



「サイモンはセシリアに似たのかもしれないね。見た目は私に似ているが、とても思慮深くて思いやりがある。私が10歳の時と比べると、とてもしっかりしていて頼もしい反面、もう少し甘えてくれてもいいのにと思うよ」



 親馬鹿の顔でサイモンのことを語りながらも、もっと甘えてほしいのか、ローランドさんはちょっとだけ寂しそうだ。

 多分、お兄ちゃんだからと、我慢してるんじゃないかなって思う。

 こうしてサイモン達を客観的に見ることで、私のお兄ちゃんも、我慢ばかりしてきたんだろうなぁって気づかされた。

 お母さんしかいなくて、でもお母さんは忙しくて、寂しかったのはお兄ちゃんも一緒だよね。

 お兄ちゃんの場合、お父さんの事もちゃんと覚えているから、私よりも喪失感が大きくて、余計に寂しかったかもしれない。

 


「お兄ちゃんって大変ですね」



 思わず呟くと、その言葉で何かを思い出したのか、ローランドさんが溜息をついた。



「お兄ちゃんと言えば、アーサー兄上が、早々に王都に来るようだ。ルーファスと逢えるのを楽しみにしているようだったよ。ユキにも早く逢いたいと、手紙に書いてあった。社交シーズンまで、まだ半月もあるというのに、気の早いことだ」



 ローランドさんがぼやいているけど、アーサーさんが早く来るのって、ルーファスさんが挑発したせいだよね。

 有能なアーサーさんは、本当に早めに仕事を片付けてしまったらしい。



「仕事を片付けたのなら、約束だから付き合わなければな。美味い酒を用意すると言っていたから、ローランドも楽しみにしておくといい」



 酒と聞いて、ローランドさんの顔が青褪めた。

 ローランドさんはあまりお酒に強くないみたいだけど、この反応だと、アーサーさんは酒豪なのだろうか?

 それとも酒癖が悪いのかな?

 ルーファスさんを見ると、やけに楽しげにしっぽがパタパタしてるから、酒豪の方が正解かな。

 酒癖が悪いのなら、自分にも被害が来るから楽しそうにはしないはず。



「ザルと枠を相手に酒盛りなんて、何という拷問……」



 ローランドさんが呟くと、ルーファスさんは楽しげに笑う。

 お酒を飲むことが楽しみというよりも、ローランドさんがげんなりとしているのを面白がってる様子だ。

 


「それでも参加するんだろう? 楽しみだな、ローランド」



 珍しい事にルーファスさんが苛めっ子だ。

 さっきからかわれた仕返しなのかなぁ?



「あまり飲まなくていいように、何かおつまみを作ったりしますね。だから多分、大丈夫ですよ、ローランドさん」



 ちょっとかわいそうだったので、ローランドさんのフォローをしてみた。

 飲むより食べる方を中心にすればいいし、それに、料理スキルで炭酸水も作れるから、それを使えばお酒も薄まるはず。

 何で料理スキルに炭酸水があるのかずっと謎だったけれど、もしかしたら役に立つかもしれない。



「やっぱり、ユキは救いの女神だ!」



 ローランドさんが目を輝かせて崇めてくれる。

 大げさすぎて自分のことのような気がしないから、さらっと聞き流してしまった。



「ユキ、一人で酔った大人の面倒をみるのは大変ですから、マリアを頼ってくださいね。マリアの言う事なら、お義兄様もちゃんと聞き分けますから」



 心配したセシリアさんが貴重な情報を教えてくれる。

 酔っ払い3人の相手が大変になったら、マリアさんに助けてもらおう。


 お茶を飲みながら、和やかに話をしているうちに馬車は目的地に辿り着いた。

 辿り着いた先は、真っ白で可憐な花の咲いた、一面の花畑だった。




長らく放置していまして、すみませんでした。1年以上も経っているのに、ブックマークを残していただいた方、本当にありがとうございます。

漸くラストまでかけ上げられそうなので、投稿再開します。

楽しんでいただけたら幸いです。

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