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23.昼食会




 ルーファスさん専用の離れと本館は離れているので、馬車で移動する事にした。

 後で敷地内を案内してもらう時も、馬車があると便利ということだったので、それも見越して馬車を使った。

 歩く事もできるけど、私とルーファスさんでは歩幅が全然違うから、無理に合わせてもらうのも申し訳ない。

 天気がいいから敷地内の森を散策するのも楽しそうだと思ったけれど、それは今日じゃなくてもいつでもできるから、次の機会にすることにした。



「ようこそ。待っていたよ、ユキ」



 本館の玄関に入ると、ローランドさんが待ち構えていた。

 それはもうキラキラとした、麗しい笑みを浮かべていて、心から歓迎しているのだと伝わってくる。



「お招きありがとうございます、ローランドさん」



 敬称は様の方がいいかと思ったけど、ルーファスさんが呼び捨てでいいと言うので、間を取ってさん付けにしておいた。

 外でローランドさんと関わる事があるときは、ちゃんとローランド様と呼ぼう。



「今日は天気がいいから、食堂じゃなくてサロンに昼食を用意させたんだ。妻や子供達はサロンで待たせているから、そこで紹介するよ」



 ローランドさんに案内されるまま、ルーファスさんと並んで廊下を歩いていく。

 随分歴史のある建物みたいで、古めかしさもあるんだけど、建物の内部が明るいからか、そんなに重苦しい感じはしない。

 ルーファスさんの離れと比べると、かなり豪華で、ところどころに絵画や彫刻が飾ってあったりする。

 目に付く位置に花も生けられていて、明るくて華やかな雰囲気を醸し出していた。


 サロンに入ると、廊下と比べて室内が一際明るいのにまず気づいた。

 一面のテラス窓から、外の光が入り込んでくるからのようだ。

 テーブルについていた婦人が出迎えるように立ち上がるのと同時に、一番背の高い男の子も席を立つ。

 兄が立ち上がるのを見て、真似るように慌てて席を立つ二人の弟が、可愛くて微笑ましかった。



「ルーファス! お久しぶりね。元気そうで嬉しいわ」



 歩み寄ってきた婦人が、ルーファスさんを軽くハグする。

 こういった挨拶を、ルーファスさんが許しているのにまず驚いた。

 セシリアさんは、ルーファスさんのお気に入りらしい。



「セシリアは相変わらず若々しいな。――ユキ、ローランドの奥方のセシリアだ」



 僅かに表情を緩めて、ルーファスさんがセシリアさんを紹介してくれる。



「初めまして。今日はお招きありがとうございます。ユキと申します」



 軽く会釈をして挨拶をすると、セシリアさんは満面の笑みで私を抱きしめた。

 柔らかくて、そして優しい香りがする。



「話に聞いて、想像していた以上に可愛らしいわ。よろしくね、ユキ」



 歓迎されていると伝わってきて、緊張が緩む。

 笑顔で頷くと、ぎゅっと抱きしめられた。



「本当に可愛いわ。やっぱり女の子はいいわね、ローランド」



 私を抱きしめたまま、セシリアさんがローランドさんに微笑みかける。

 ローランドさんもそれに応えるように優しく微笑んで、二人の仲の良さが伺えた。



「ユキがいると、雰囲気が華やぐな。ユキ、よかったらセシリアと仲良くしてくれ。パーティー用の衣装を誂えるのに、セシリアも参加させてくれると嬉しいよ」



 セシリアさんと仲良くするのはいいけれど、パーティーってなんだろう?

 ローランドさんの言葉の意味がわからなくて、首を傾げてしまう。

 ルーファスさんはわかるのかな?と、視線を向けると、ちょっと困ったような様子で視線を彷徨わせていた。



「何だ、ルーファス。まだパートナーの申し込みをしていなかったのか? ヘタレだな」



 ここぞとばかりにローランドさんがからかうので、ルーファスさんが拗ねたようにそっぽを向いて、ついでに長いしっぽの先でローランドさんをてしてしと叩いた。

 言葉にしないしっぽの抗議が可愛くて、つい笑ってしまう。



「後で話す。それより、お前の子達が待ちぼうけを食らっているぞ」



 話をそらしながら、ルーファスさんが横に3人並んだ男の子達に視線を向ける。

 一番大きい男の子は、今の私よりも背が高くて、貴族の子供らしく表情を取り繕う事を知っているようだ。

 でも、目が好奇心で輝いている。

 弟達の方はまだ子供らしい雰囲気を残していて、大人たちのやり取りを面白そうに見ていた。

 3人ともルーファスさんを見ても、怖がる様子も泣き出しそうな様子もない。

 2年前に逢っているのと、両親が嬉しそうにしていることで、好意的なのだろう。



「ユキ、私とセシリアの子供で、左からサイモン、デリック、エミールという。サイモンが10歳で、デリックが8歳、エミールは6歳だ」



 ローランドさんの紹介にあわせて、3人がそれぞれに一礼する。

 長男のサイモンが一番ローランドさんに似ていて、珍しい色合いのローランドさんの瞳の色も受けついているようだ。

 金髪にタンザナイトみたいな色の綺麗な瞳をしている。

 デリックは両親のいいとこ取りといった雰囲気の容貌で、顔立ちは一番整っている。

 ローランドさんと同じ金髪にセシリアさんと同じ色の青の瞳で、貴公子といった雰囲気だ。 

 エミールは一番セシリアさんに似ていて、茶色の髪も青い瞳の色もそのまま受け継いでいるようだ。

 でも、顔立ちにローランドさんを感じさせる部分もあって、遺伝って凄いなと思ってしまう。



「ユキです、よろしくね」



 笑顔で挨拶をすると、エミールが人懐っこく近付いてくる。



「ユキ姉様って呼んでもいい? 僕に外のお話をしてくれる?」



 じゃれ付くように腕をとられて、無邪気に懐いてくるのを可愛いなと感じる。

 年下と接する機会はあまりなかったけど、子供は好きだ。



「好きなように呼んでいいよ。外の事は私もあまり知らないけれど、仲良くしてね」



 弟がいたらこんな感じなのかなと、嬉しく思いながらエミールの頭を撫でた。

 中身は17歳なので、一番年上のサイモンでさえ、私には可愛い子供にしか見えないのだけど、上の二人には私のことが同世代の少女に見えているようで、エミールのように無邪気に振舞う事はできないようだ。

 二人とも名前だけ名乗って、それ以上話すことはなかった。



「食事にしようか。しばらく滞在する予定だから、ユキとはいつでも話が出来るのだから」



 ローランドさんに促されると、きちんと躾されているのか、私にじゃれていたエミールも大人しく席についた。

 幼くても貴族で、しっかりと教育を受けているんだなと感じさせられる。

 6歳って、小学校に上がるかどうかの年齢だから、もっと落ち着きがなくて騒々しいものだと思っていたけど、全然違う。



「ルーファスとユキはこちらにどうぞ」



 セシリアさんが席に案内してくれて、ルーファスさんと隣同士の席についた。

 タイミングを見計らったように扉が開いて、料理が運ばれてくる。

 おいしそうな料理がテーブルに次々に並べられて、すぐに支度は整った。



「2年ぶりのルーファスとの再会と、ユキとの出逢いに感謝して」



 食前にローランドさんが挨拶をすると、メイドさん達が動き出して、お皿に料理を取り分けてくれた。

 こちらでは、食前の挨拶のようなものはないようで、全員の皿に料理が取り分けられた後に食べ始めるというのがマナーのようだ。

 料理は見たことがないというようなものではなく、サンドイッチやサラダなどの軽食が主体だ。

 切り分けられたミートパイがおいしそうで、早速手をつけると、パイ生地はさくっとしているのに、中の挽き肉は複数の香辛料を使った複雑な味わいでしっとりしていて、とても美味しかった。

 ルーファスさんも味わうように料理を口にしている。



「今日のデザートは、グレンの実のタルトなんだ。ルーファスのお土産を使わせてもらったよ」



 ローランドさんがにこやかにデザートの話をする。

 聞かされていた以上に、グレンの実が好物のようだ。

 あれだけ喜んでいる様子を見れば、早く栄養剤を作れるようになって、好きなときにグレンの実を食べられるようにしてあげたいなと思う。

 遠回りになるにしても妖精の森に立ち寄って、グレンの実を採集したルーファスさんの気持ちが、とてもよくわかった。

 


「僕もグレンの実、大好き! ルーファス様、ありがとう」



 エミールが無邪気にお礼を言うと、ルーファスさんは少し照れたような表情で頷いた。

 その反応を見て、サイモンがとても驚いている。

 2年前というと8歳の頃だから、無愛想で素っ気無いルーファスさんを覚えていたんだろう。



「私もグレンの実は好きよ。前にいただいたのは、2年前にルーファスが来てくれたときだから、久しぶりだわ。本当に嬉しいわ、ありがとう、ルーファス」



 どうやらセシリアさんの好物でもあったらしい。

 セシリアさんは嬉しそうに微笑みながら、品良く食事をしている。



「ユキの今日の衣装はとても愛らしいわね。淡いピンクがとても良く似合っているわ」



 今日はピンクのゴシックドレスを着て、アイテムボックスはクマのブレスレットに変えて身につけていた。

 食事中の話題の一環として褒めてくれたのだと思うけど、それでも嬉しかったので、笑顔でお礼を言った。



「いくつか手持ちの服を出して、マリアさんに選んでもらいました」



 ルーファスさんは女性の衣装のことなんてわからないので、手持ちの服を色々出して、その中から昼食会の場に相応しいものをマリアさんに選んでもらった結果が、ピンクのゴシックドレスだった。

 アバターアイテムはいろいろあるけど、ネタにしかならない衣装も多いので、公爵家に長期滞在するなら、場に見合った服も必要かもしれない。

 着物や浴衣をマリアさんはとても珍しがっていて、今度着てみせる事になった。

 ゲーム時代は装備するだけで着替えられたけど、現実になると自分で着付けするしかなくて、着られるかどうかちょっと不安だ。

 でも正しい着方のようなものは、衣装を手に持つと頭に浮かんでくるので、多分大丈夫だと思う。

 マリアさんに見せる前に、一度練習しておこう。



「マリアは少し口うるさいだろう? でもマリアは子育ての達人だからね。こちらの習慣でわからないことがあったら、マリアに聞けば、すべて教えてくれるよ」



 やはり私の教育も兼ねて、マリアさんをつけてくれたようだ。

 ローランドさんの口調から、マリアさんをとても信頼しているのが伝わってきた。

 口うるさいという言葉に同意するように、子供達が3人とも頷いているのがちょっと可笑しい。

 多分、3人ともマリアさんに厳しく躾けられたんだろうなと、想像がつく。



 和やかに話をしながらの食事はとても楽しいものだった。

 子供達は、こういったときは聞き手に回るように躾けられているようで、基本的に大人しくしていたけれど、エミールが時々無邪気に混ざってきて可愛かった。

 食後に出されたグレンの実のタルトは、瑞々しい実の味や食感が引き立つ、とても美味しいものだった。

 料理人の腕がいいのだととても良くわかる一品で、お腹いっぱいになっていたのに、ぺろっと食べきってしまった。




体調不良のため、最終手直しが出来なかったので、後日手を加えるかもしれません。


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