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17.買い物デート?



「あー、苦しかった」



 朝起きて、第一声がこれだった。

 夢の中だったけれど、とても苦しかった。



「おはよう、ユキ。また神がきていたのか? 昨夜は少し魘されていたようだが、揺すっても目を覚まさなかったから様子を見てた。大丈夫か? もし体が辛いようなら、まだ寝ていてもいいぞ?」



 心配で堪らないというように、私のベッドに腰掛けたルーファスさんが、頬に大きな手で触れてくる。

 体温や顔色を確かめているようだ。



「夢の中で窒息して、ちょっと苦しかっただけだから、大丈夫」



 ルーファスさんと視線を合わせて、安心させようと頬笑みかけると、安堵したように息をつかれた。

 大きな手でそのまま頭を撫でられて、髪を撫で梳かれる。



「ユキが大丈夫なら、起きて食事に行くか?」



 ルーファスさんの手が心地よくて、うっとりと目を閉じると、起きるように促される。

 素直にベッドを出て、身支度を整える事にした。



「あ、そうだ。ルーファスさんに渡しておきたいものがあるの」



 夢の中の出来事を思い出して、白兎から蘇生薬を取り出した。

 きゅーさんが作りすぎたからと大量にくれたので、枠一つ分、つまり999個持っているから、10個取り出した。

 10回も死にかけるつもりはないけれど、念のためだ。


 

「夢できゅーさんが教えてくれたの。この蘇生薬、私には使えるようにしたから、ルーファスさんに渡しておくようにって。これがあれば私は死なないから、ルーファスさんが持っていてね? もちろん、そんな危険な目にあう前に、ルーファスさんがきっと助けてくれるって信じてるけど、持っていてくれたら安心だから」



 小さな瓶に入った蘇生薬を差し出すと、ルーファスさんは恐る恐るといった様子で受け取った。

 すぐにアイテムバッグにしまいこんで、小さく息をつく。



「黄金時代の秘薬にお目にかかるとは思わなかった。だが、ユキは必ず俺が守る。こんな薬など使わなければならないような目にあわせたりしない」



 真剣な顔つきで誓うルーファスさんが、いつもにも増してかっこよく見えて、胸が高鳴った。

 柄じゃないけど、騎士に守られるお姫様みたいで、くすぐったいような気持ちにもなる。



「ありがとう、ルーファスさん」



 それ以上は言葉にならなくて、代わりにぎゅっとルーファスさんに抱きついた。

 優しく抱き返されると、それが受け入れてくれている証のようで、ふわふわとした幸せを感じた。

 心が温かなもので満たされて、安心する。

 ここに、ルーファスさんのそばにいていいんだと、許されている気がする。



「待ってるから、着替えてくるといい」



 ルーファスさんに促されて、服を着替える事にした。

 今日は買い物にいくから、動きやすい服にしようと思って、薄いピンク色のミニチャイナと黒のカンフーシューズをあわせた。

 昨日街を見ていたら、和服のようなものを着た人もいたし、アオザイのようなものも見かけたし、チャイナ服でも悪目立ちすることはなさそうだった。

 チャイナ服はロングも持っているけれど、子供だとあまり似合わないので、ミニのほうにしておく。

 これはお気に入りなので、他にも白と黒と蒼も持っている。

 ゲーム時代はあまりわからなかったけれど、着てみたら小花模様の刺繍が入っていて、とても可愛かった。

 シューズも銀糸で刺繍が入っていて、結構華やかだ。

 髪を二つに分けて、おだんごを作ろうとしたけれど、髪ゴムがない。

 今の私の髪はそこまで長くないし、今まではリボンしか使ってなかったから、結ぶためのゴムがないことに、今気づいた。

 今日、買い物にいけば、売ってるのかなぁ?

 髪留めはあるみたいだけど、ヘアピンとかもあるのかな?

 仕方がないのでアバターアイテムの中からバレッタを取り出して、両サイドの髪を上げ、後ろで留めた。

 このバレッタは、バレンタインイベントの時にもらったハート型のシンプルなものだから、ゲームで見た時はありきたりだなって思ったけど、実際に身につけるとなると、結構使いやすい。

 手鏡でおかしくないか確認してから、白兎を持ってルーファスさんのところへ急いだ。

 急がないと、いつもよりも遅くまで寝かせてくれたようなので、お腹が鳴りそうだった。






 朝食の後、冒険者ギルドで大量の大金貨を預けると、受付の女の人が顔を引き攣らせて驚いていた。

 きゅーさんからもお許しが出たので、この街と王都で分けて預けるつもりだった大金貨を、この街だけで全部預けてしまったから、多かったのかもしれない。

 王都ではまた別に預ける予定だけど、似たような反応をされるのかな?

 この街で全部預けると言ったとき、最初は難しい顔をしていたルーファスさんも、昨夜の夢の中でのきゅーさんとの会話を教えたら、納得してくれた。

 最初の夢の時、白兎のぬいぐるみがどこからともなく現れたことを、ルーファスさんは当たり前のように受け入れていたけれど、どうやら、この世界では神が身近な存在らしい。

 光臨して幼子を救ったとか、美しい娘を見初めて妻にしたとか、そういった話が、いくつもあるそうだ。

 その話をしてくれた時のルーファスさんの表情が、何故なのか辛そうに見えたから、あまり深くは聞かなかった。

 ルーファスさんは神の存在を信じているけれど、関わりたくはないようだと感じたから、夢の中のきゅーさんの話はどこまで話したものか悩んでしまう。


 エリアスさんが指名依頼で王都までの護衛依頼を出してくれたようで、初めてのクエストを受ける事になった。

 本来はパーティのランクが護衛依頼の条件に達していても、Fランクが混じっていたら依頼は受けられないそうだけど、今回はパーティに対する指名依頼なので受けられたらしい。

 指名依頼の方が、ランクを上げるためのポイントを多くもらえるので、私達にとってはありがたい。

 ちなみに昨日の盗賊は、討伐依頼が出ていたのでクエストを達成した事になるようだけど、盗賊のアジトを一掃したり、他に仲間がいないか確かめたりと、まだ片付かない問題もあるので、報酬に関しては後日ということになった。






 ルーファスさんにお願いして、まずは雑貨屋さんに連れて行ってもらった。

 忘れないうちに、手に入るのなら髪ゴムが欲しかった。

 雑貨屋の店員さんに聞いてみると、髪を結んだり結ったりするための道具は纏めておいてあって、ブラシや櫛、リボンに髪ゴム、髪飾りと、種類も豊富に揃えてあった。

 髪飾りもここにあるのはお手ごろな値段のものらしく、普段使いにできそうだ。

 アバターアイテムの髪飾りやバレッタは、盛装用といった感じで、宝石を使った煌びやかなものが多いので、普段は使えないものだらけだから、ほとんどはしまいこんだままになっている。



「そっちの方が、ユキの髪には似合う」



 色々と選んでいると、ルーファスさんが横から助言してくれる。

 男の人は買い物に付き合うのが苦手だと思っていたのに、ルーファスさんはそうではないみたいで、私に似合いそうだからと、次々と品物を選んでいく。



「これ、可愛い。本当に似合う?」



 見たことがない種類の可憐な花を、オレンジ色の透明な石で模った髪飾りをルーファスさんに差し出されて、髪に当ててみた。

 可愛くて一目で気に入ったけれど、似合うかどうかルーファスさんに見てほしい。



「ユキのために作られたようだ。それくらい、似合ってる。――これと、そっちの赤い石を使った花の飾りももらおう。それから、裁縫の道具が一式入った箱も頼む」



 頷きながら優しく微笑んでから、ルーファスさんは店員さんに指示を出して、次から次に買うものを決めていく。

 とても口を挟ませないような勢いだ。

 私が裁縫道具も欲しいと言っていたのを覚えていてくれたのは嬉しいけど、こんなにたくさんいらないのになぁ。



「ユキ、他に欲しいものは? シャンプーも買い足しておくか? 石鹸ももっと質のいいものがあるようだ」



 金に糸目をつけない客だとわかったのか、店員さんが次々と商品をルーファスさんに

勧めていく。

 それらを吟味しながらも、豪快に買い足していくので、さすがに止めないとまずいと思った。

 これからずっと馬車旅が続くのならともかく、しばらく王都に滞在するのに、既にシャンプーだけでも半年分はありそうだ。



「ルーファスさん、そんなになくても大丈夫だから。それに、この後は王都に行くんだから、必要ならいつでも買い足せるでしょ?」



 ルーファスさんの腕を引いて止めると、それもそうかと納得してくれたようだったので、ホッと息をついた。

 元は慎ましく暮らしていた一般人だから、いくらお金がたくさんあるといっても、無駄遣いはあまりしたくない。

 自分で稼いだわけでもないお金となれば、尚更だ。

 会計はルーファスさんがギルドカードで済ませてしまって、受け取った荷物も自分のアイテムバッグに入れてくれた。

 私の白兎は、外ではギルドカードが入るぬいぐるみとしてしか機能していない。



「次は布を見に行くか。時間があれば服を仕立ててもらうんだが……。いや、注文だけして、アーサーに納品してもらえば何とかなるか。一緒に手紙を預ければ、王都まで持ってきてくれるだろう」



 ルーファスさんが悪い顔で呟きながら、いつものように私を抱き上げる。

 次期公爵様を配達人にさせる気満々のようだ。



「ルーファスさん、私、既製服でいいよ? 今は成長期だろうし、すぐに着られなくなるかもしれないから」



 今まで服を仕立ててもらったことなんてないし、すぐに着られなくなるものにお金を掛けるのはもったいないと思ってしまう。

 現実の私は、10歳から14歳くらいが成長のピークで、かなり体つきが変わった。

 身長は中3くらいからは、年に数ミリ伸びる程度だったから、今作った服は、1年後には着られない可能性が高い。



「成長期か……。まぁ、服は着られなくなったら、また作ればいい。俺がユキを着飾らせたいんだ。今のユキに似合うものを着せたいから、やはり仕立てに行こう。店は、前に無理矢理アーサーに連れて行かれたから、ちゃんとツテがある」



 迷いなく、目的地を目指してルーファスさんが歩いていく。

 譲る気はまったくないみたいで、目を合わせてくれない。

 視線を落とすと、ルーファスさんのしっぽがご機嫌といった感じで立っていて、しかもリズムを取るように揺れている。

 見た目ではわからないけど、しっぽで判断すると、楽しくて仕方がないといった感じだろうか。

 ルーファスさんが楽しんでくれるのなら、付き合ってもいいかなって思った。

 言葉通り、本当に私を着飾らせてみたいのだろう。



「作ってもいいけど、あまりたくさんはダメだからね? 着ていく場所がないから、無駄になるもの」



 観劇に行く約束をしたから、そういうときに着る服も必要だけど、普段は冒険者として過ごすだろうから、動きやすさを重視した服じゃないとダメだ。

 1から仕立ててくれる店というと、どうしてもドレスのイメージが付きまとうから、作っても、アイテムボックスの肥やしになりそうな気がする。



「心配ない。アーサーが懇意にする店だから、実用性を兼ね備えた服も得意なんだ」



 店が建ち並ぶ中でも、絶対に一等地だとわかる場所にある店のドアを、ルーファスさんは気負いなく開けて中に入った。

 小さな少女を抱いたまま入ってきたルーファスさんを見て、店員さん達は驚いたようだったけれど、その中の一人がすぐに接客の為に近づいてくる。

 店の中はたくさんの布が置いてあって、見本代わりなのか、マネキンにドレスなどが着せられて展示されていた。

 まだ早い時間のせいか、他に客の姿はないようだ。



「ルーファス様、ようこそお越しくださいました。本日はどういったご用件でしょう?」



 前にも客としてきたルーファスさんのことを店員さんは覚えていたようで、丁寧に挨拶をする。

 物腰が洗練されていて、接客のプロだと感じさせられた。



「俺の連れでユキという。この子の服を仕立てたい。だが、今日には街を出る予定だから、仕上がったらアーサーのところへ届けてくれ。王都で逢う約束があるから、その時に受け取れるようにしたい。伝言だけでも問題ないと思うが、念のために手紙を書くから、仕立てあがったものと一緒にアーサーに届けて欲しい」



 私をそっと床に降ろしてから、ルーファスさんは慣れた様子で店員さんと話し出す。



「畏まりました。どういった服をお作りしますか? 用途などお教えいただきましたら、それにそって、こちらからいくつかのデザインを提示いたしますが」



 ルーファスさんと店員さんが打ち合わせを始める横で、違う店員さんに呼ばれた。

 行っていいのかな?と、ルーファスさんを見上げると、優しく私の頭を撫でてくれる。



「採寸だろうから、行ってくるといい」



 ルーファスさんに頷きを返してから、店員さんに促されて別室に移動した。

 


「正確なサイズをお測りしますので、お召し物を脱いでいただけますか?」



 私を案内したのは、まだ若い20代になりたてくらいの女の人だ。

 そのお手伝いなのか、10代半ばくらいの女の子も控えている。

 初対面の人の前で脱ぐのはちょっと恥ずかしかったけれど、採寸だからと自分に言い聞かせて、服を脱いで下着姿になった。

 チャイナ服の下は、キャミソールと紐で結ぶタイプの下着しかつけていなかったので、その状態で採寸が始まる。



「足のサイズも測らせていただきます。……華奢で綺麗なおみ足ですね。ルーファス様が歩かせたくないとばかりに抱いて運ばれるのも、納得できますわ」



 サイズを測りながら、微笑ましげに言われて、何だか頬が火照ってくる。

 でも、ルーファスさんが私を抱いて運ぶのは、大事にされているからというのもあるけれど、多分、私の歩く速度が遅いからという理由の方が大きいと思う。



「私、ルーファス様が微笑むのを、初めて見ました。吟遊詩人の冒険譚で、ルーファス様は有名ですけれど、あの冒険譚の通り、厳つい戦士だと思っていたので、雰囲気が違っていてとても驚きました」



 てきぱきと採寸をしながら、本当にびっくりしたのか、それを隠しもせずに店員さんが話し出す。

 ルーファスさんは吟遊詩人に歌われるほど有名なのかと、私も驚いてしまった。



「ルーファスさんは、そんなに有名なんですか?」



 私が尋ねると、控えていた店員さんも混じって、熱心にルーファスさんのことを教えてくれる。

 その話によると、若干16歳でドラゴンを倒して多くの命を救った英雄として、ルーファスさんは有名らしい。

 貴族の位も王女も、与えられる報酬で自分を縛るものはすべて断って、冒険者として旅を続けているというのも英雄視される理由の一つらしく、白銀のルーファスといえば、子供たちの憧れでもあるらしい。

 ちなみに白銀という二つ名は、ルーファスさんが獣化したときの虎の姿が、白というよりは銀色に近くてとても美しいので、獣化した姿を見た人達に自然にそう呼ばれるようになったそうだ。

 この街の人達は、領主である公爵様の子息や、子息に付き添っていた従者達の命をルーファスさんに救われたということもあって、ルーファスさんにはとても好意的らしい。

 ただ、ルーファスさんは騒々しいのを嫌うので、直接絡んでくるのはアーサーさんやそのご家族くらいだそうだ。

 もしかして、今まで立ち寄った村やギルドで周囲の人達が驚いていたのは、英雄のルーファスさんが子供をつれていたからなのかな?

 英雄と呼ばれている冒険者が、登録したての子供とパーティを組んだら、驚いて当然だよね。

 むしろ、あのギルドの職員さんの反応は、よくあの程度で済んだものだと感心する。

 ルーファスさんに目を奪われていた人達は、私を抱っこしていたから遠巻きにしていたというより、恐れ多いといった感じで近寄れなかったのか。

 何だか私、勘違いしていたっぽい。



「王都では、ルーファス様の妻の座を狙う貴族や冒険者の女性も多いと聞いています。第三王女様も、まだどなたともご婚約なさっておらず、ルーファス様を諦めていないという噂もあります。まだ幼いとはいえ、ルーファス様に大切にされているユキ様を妬んで、醜い嫉妬心をぶつけてくる相手もいるかもしれません。ですから、王都では一人にならないように十分ご注意ください」



 楽しげな様子でルーファスさんのことを一通り語った後、採寸をしていた店員さんは、私の身を案じるように忠告してくれた。

 ルーファスさんは、もてるんだろうなぁって思っていたけれど、予想以上みたいだ。



「ありがとうございます。できるだけ気をつけますね」



 採寸が終わったので、素直にお礼を言って服を着た。

 また案内されて、違う部屋に行くと、悠々とソファに腰掛けたルーファスさんが、私の姿に気づいた途端、表情を和らげて手を差し伸べる。

 その手に誘われるように近付くと、優しい仕草で隣に座らせてくれた。

 案内してくれた店員さんが、ルーファスさんを見て頬を赤らめている。

 紳士的で優しい物腰のルーファスさんが、ツボに嵌ったといったところだろうか?



「思いついたものをいくつか注文してみたが、ユキは何か欲しい物はないか? 女性に必要なものは一通り揃えてくれるように頼んだが、俺にはよくわからないからな」



 何を注文してくれたのだろうと、出来上がりが楽しみになる。

 必要なものということは、下着とか小物も混じっているのかな?と思ったけれど、ルーファスさんがいるところで下着の確認をするのは恥ずかしくて、ちょっと困ってしまった。



「ルーファス様にご注文いただきました衣装の他に、ナイトウェアや下着や靴下なども用意させていただきました。靴も衣装に合わせてお作りしようと思うのですが、室内履きなどはどうなさいますか?」



 私が恥ずかしがっているのに気づいたのか、ルーファスさんの対応をしていた店員さんが助け舟を出してくれる。

 下着も入っているとわかって、改めて注文する必要はなさそうなのでホッとした。

 ルーファスさんのいる場所で、下着を選ぶとか絶対無理だから。



「室内履きもお願いします。2足欲しいです」



 家にいるときもずっと靴を履いているという状態に慣れないので、できれば靴を脱いで過ごす時間が欲しい。

 馬車の中でも室内履きを使えば、楽でいいかなって思う。



「ルーファスさんも室内履き、頼んだら? 馬車の中で使うのもあったら、楽だと思うの」



 隣に座るルーファスさんを見上げると、すぐに視線がかち合って、ルーファスさんの目元が和んだ。

 


「そうだな。馬車の中で使うものを俺も注文しよう。せっかくだからユキのと揃いにしてもらうか?」



 ルーファスさんの問いかけに、笑顔で頷いた。

 お揃いの室内履きが使えると、嬉しくなってしまう。



「あ、馬車で使うシーツとお布団も欲しい。ここでも手に入る?」



 クッションは自分で作りたいから、その材料も欲しいなぁ。

 ゲーム時代の生産素材に綿もあったから、この世界でも手に入るはず。

 思いつくままに口にしただけで、店員さん達はてきぱきと動いてくれた。

 


「寝具はこちらでも扱っております。お好みの色などはございますか?」



 ルーファスさんは私に任せることにしたようで、何も言わずお茶を飲んでいる。

 店員さんが見本のような端切れの束を持ってきたので、それを見せてもらって、肌触りも確かめながら選んでいった。

 馬車のシーツはルーファスさんも使うものだから、女性らしい色はさけて、無難なものを選んだ。

 元々青系は好きな色なので、薄青や淡い緑色の、肌触りのいいものを選んでいく。

 マットレスは収納してあったもので十分だし、後は、ガーゼのような布で作られた薄い上掛けと、もう少ししっかりした生地の軽い羽毛布団を注文した。

 寝具は在庫があるので、すぐに受け取れるらしい。

 他にもソファの座席に使えそうな布やカバーなども選んでいたら、かなりの量の買い物をすることになってしまった。

 もうついでだからと、クッションに使える布や、中の綿もついでに買ってしまうことにする。

 さすがに有名な布の産地だけあって、変わった織りの布や、綺麗な模様の入った布もたくさんあった。

 王都でも服を仕立ててもらうとルーファスさんが言っていたので、普段着に使えそうな布も選んでいく。

 この街と王都は馬車で1日くらいの距離だけど、同じ布を買うにしても、王都では割高になるらしい。

 生産数が少なくて、この街でしか手に入らない布もあると店員さんが教えてくれて、その布も見せてもらった。

 希少な布だけど、ドレスにするには量が足りなくて、小物にするには惜しいというくらいに、中途半端に布が余ることはよくあるそうで、そういった布は店でも持て余しているという話だったので、纏めて譲ってもらうことにした。

 クッションを作ったり、馬車のカーテンにしたりと、使い道が色々ありそうだったので、私にはちょうどいい量だったのだ。

 ルーファスさんが裁縫箱を買ってくれたので、巾着とか簡単な物も作ってみようと思う。

 


「そろそろ行くか。宿に馬車を取りに行かなければならないからな」



 一段落ついたところで、ルーファスさんに促されて立ち上がると、お店の人がルーファスさんのギルドカードを持ってくる。

 どうやら、知らないうちに清算は済まされていたらしい。

 受け取った荷物はルーファスさんのアイテムバッグにしまわれて、来たときと同じように抱き上げられた。

 店員さん達に揃って見送られて店を出ると、お昼の鐘が鳴る。

 今のお店で、随分長く時間を過ごしていたようだ。



「エリアスさん達、待ってるかな? 犯人、どうなったんだろうね」



 私たちの泊まった宿で待ち合わせているので、エリアスさん達と合流したら、そのまま王都に向かう事になる。

 何事もなければ、夜には王都につく予定だ。



「今朝、ギルドでは何も言ってなかったから、その段階ではまだ捕まってなかったんだろう。出るときに門で聞けば、何かわかるかもしれないな」



 歩きながら、ルーファスさんは何か考え込んでいるみたいだ。

 エリアスさん達のためにも、護衛をしていた犯人が捕まって、真相が明らかになるといいなと思う。



「ルーファスさん、たくさんのプレゼントをありがとう。どれも、大切に使うね」



 ちゃんとお礼を言ってなかった事を思い出して、いつものようにしっかりとルーファスさんに抱きついたまま、感謝の気持ちを伝えた。

 散財させて申し訳ないと思う気持ちもあるけれど、ルーファスさんが選んでくれたものを身につけられる嬉しさが勝ってる。

 だから自然に笑顔になってしまって、私を見たルーファスさんは、少し照れたように視線をそらした。



「俺はしたいことをしただけだ。ユキが喜んでくれるのなら、それでいい」



 視線をそらしたまま、呟くように言葉にするルーファスさんの虎耳が、ちょっとぴくぴくってしてる。

 撫でたくなる誘惑を堪えるように、首に縋るように回した腕に力をこめた。




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