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13.王都での約束




「シャンプー? そんなものでいいんですか?」



 盗賊たちを運ぶ方法が決まった後、エリアスさんに是非お礼をしたいと言われて、シャンプーがあったら譲って欲しいと伝えたら、とても驚かれてしまった。

 だって、助けたのはルーファスさんだし、私は何もしてないから、本当ならお礼をしてもらうのもルーファスさんなんだよね。

 ルーファスさんは「どうでもいい」と、一言で切って捨てるから、代わりに私が申し出てみたけれど。

 結局、王都までエリアスさん達の護衛をすることになって、ルーファスさんはちょっとご機嫌斜めだ。

 しっぽが苛々してるみたいに、タンタンって座った椅子に打ち付けられているから、多分間違いないと思う。

 


「それで十分です。私は何もしてませんから」



 うんうんと頷くと、ルーファスさんが横から手を伸ばして、頭を撫でてくれた。

 ポーションはたくさん持ってたうちの2本だし、勝手に治しておいて後で代金を請求するとか、詐欺っぽくて嫌だ。

 だから、シャンプーを譲ってもらえるなら、それで十分。



「欲がないんですね。シャンプーとシャンプーの後に使う保湿用のクリームも仕入れてありますから、お出ししますよ。お好みの香りはありますか?」



 シャンプーだけじゃなくて、トリートメントのようなものもあるらしい。

 石鹸で洗い続けると、段々髪に艶がなくなっていくから、ちゃんとお手入れできるのなら嬉しい。

 


「甘い花の香りのものがいいです。できれば、匂いが強すぎないものでお願いします」



 遠慮なくリクエストすると、笑顔で頷かれた。

 エリアスさんは甘い顔立ちの正統派美形といった感じの人で、笑顔になると威力が凄い。

 ルーファスさんの話だと、王家や高位貴族とも取引のある大商会の人らしいから、きっと貴族のお嬢さん達相手にも、あの笑顔は有効活用されていると思う。

 私は煌びやかな人って気後れして、ちょっと苦手だ。

 友達には変わってるって言われたけど、一緒にいるなら、もっと親しみやすい雰囲気の人がいい。

 強面のお兄ちゃんを親しみやすい例で上げたら、完全に変わり者認定されてしまったけれど。



「畏まりました、ただいまお持ちします。リゼル、頼んだよ」



 注文を受けても、取りに行くのは従者のリゼルさんらしい。

 リゼルさんはエリアスさんの役に立てるのが嬉しいといった様子で、自分達の馬車に向かった。



「それにしても、こうしてのんびりお茶を飲んでいられるのが夢のようです。一度は死ぬ覚悟をしましたから。……私は、跡取りに拘ってないんですけどね。商家に生まれましたから、当たり前のように商人になりましたが、思う存分に自分の力を試せるのなら、仕事は何でもよかったんです」



 まるで独り言のように語るエリアスさんは、とても寂しそうだった。

 家族から命を狙われたのかもしれないとなれば、色々思うところもあるのだろう。



「独立とか、できないんですか? 円満に話し合って、違うお店を構えれば、後継者争いなんてしなくてよさそうなのに」



 あまりにもエリアスさんが寂しそうだったから、つい、余計な事を言ってしまった。

 私の言葉を聞いて驚いたようだったエリアスさんは、しばらく考え込んだ後、無理だと諦めるように頭を振った。



「うちの商会では、いろいろなものを取り扱っていますから、扱う商品が同じなのに別の店を構えても、あまり意味がありません。……いっそ私も、冒険者になりましょうか」



 しんみりしてしまったのに気づいたのか、エリアスさんが冗談を言って笑う。



「無理だ。冒険者よりは、まだ役者の方が向いてる」



 ルーファスさんがぼそっと、それでいて鋭く突っ込みを入れるので、エリアスさんの顔が引き攣った。

 確かにルーファスさんの言う通り、美形なエリアスさんは役者さんの方が向いてると思う。



「ルーファスさん、王都ではお芝居とか見られるの?」



 役者がいるのなら劇団のようなものがあるのだろうかと、ちょっとわくわくとしながら尋ねてみる。

 この世界でも演劇とかあるのなら、見てみたい。



「王都には立派な劇場がある。ユキが見たいのなら、連れて行こう」



 エリアスさんと話しているときとは全然違う、とても優しい表情で、ルーファスさんが私を見つめる。

 一緒に観劇って、デートみたい。って思ったら、何だかちょっと照れてしまった。



「その時は、チケットの手配をお申し付けください。オルコット商会の名にかけて、いい席をご用意しますよ」



 ルーファスさんに撃沈させられたエリアスさんが、すぐに復活して笑顔で申し出てくれる。

 商会って、演劇のチケットの手配までやってるのか。

 本当に手広く色々扱っているんだなぁと、感心してしまった。



「気が向いたら頼む」



 ルーファスさんは本当に素っ気無い。

 二人でいる時はそうでもないけど、他の人に対しては言葉も少なめだし、表情もあまり動かないし、興味がないのがわかってしまう。

 他の人と関わる事がなかった頃は、ルーファスさんって特に人嫌いには見えなかったんだけど、それはどうやら違っていたようだ。

 嫌いっていうよりも人見知り?

 できるだけ関わりたくないって感じに見える。

 私といる時だけ違うというのは、ちょっと嬉しいけど、でも、そう感じる私って嫌な子かもしれない。


 リゼルさんがシャンプーを持って来てくれたので、片づけをして、出した荷台に盗賊たちを乗せた。

 荷台が馬車に連結されているのを、エリアスさんが興味深げに見ているけど、普通の馬だと、馬車の他に荷台まで引くのは無理だと思う。

 馬車に重量軽減の付加がついていて、ゴーレム馬を2頭使っているからこそできることだ。

 王都が近いこの辺りは、王族と縁の深い公爵家の領地だそうで、次の街はかなり大きいらしい。

 エリアスさん達はその街を目指していて、そこでいくつかの商いをしてから、王都に戻る予定だったそうだ。

 


「それじゃ、このまま街まで行くぞ。こいつらを騎士団に引き渡してから冒険者ギルドに行く」



 打ち合わせをしてから、別々に馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗って二人きりになった途端、硬かったルーファスさんの雰囲気が一気に緩む。

 私と普通に接してくれているのが奇跡なくらい、ルーファスさんは人と関わるのが苦手なんだなぁってよくわかった。

 顔を怖がられているからなんて単純な理由じゃなく、もっと根深い理由がありそうだ。

 でも、それを聞いていいのか分からなくて、そこまで心に踏み入る事を許してくれるのかもわからなくて、代わりに御者台に座るルーファスさんにそっと寄り添った。

 ルーファスさんは一人じゃないよって、伝えたかった。

 



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