古びた手記
生まれ変わる前、俺には心残りがあった。
悪い人生じゃなかった。でも、もっと色々知っていれば。
俺に学があれば、ちゃんと学校に行けば。
そう思っていたから、生まれ変わった俺は真面目に勉強していた。真剣に勉強していたんだ。
***
日が沈む。
卒業式は昼に終わった。早く帰らないと今世の母が心配するだろう。いや、もうしているかもしれない。
それでも帰る気にならない。
握り潰してしまった紙を、事実を受け入れたくなかった。
主席で卒業し達成感一杯だった俺を一気に突き落とした紙は、ステータス申告書。
学校の卒業と共に貰うそれは、自分の性能や今までの成果は勿論潜在的才能も分かる優れもの。
就職にも使う内申書であり、身分証である。
エルジナ学園第46回生主席卒業。
噓偽りない経歴だ。誰に見せても恥ずかしくない。
問題は、他だ。
知力、B。
学園卒業生の平均がDと考えれば妥当だ。
体力、S。
……アスリートクラスだ。体を使う人によくあるランク。ちなみに俺は何の運動もしていない。これっぽっちもしていない。
精神、F。
忍耐や心の強さ、らしい。……子供でもEあるそうだ。
筋力、S。
……何度も言うが俺は真面目に勉強だけしてた。勉強一筋のガリ勉君だった。
敏捷、A。
野生の獣レベル。敢えてコメントは控えよう。
器用、D。
人並み。人並みって素晴らしい言葉だ。
そして異様な基礎能力判定の下、ソレはある。
先天性職業、狂戦士。
狂 戦 士!
稀に職業についた状態で産まれる人がいる。
生まれ持った職業を先天性職業といい、変えることは出来ない。メイン職業は他の人と同じようにつけるし、変えることも出来る。サブ職業も同じ。
生まれ持った生涯職。持っていると良いと基本的に言われる。
うん。基本的。
だって狂戦士は正気失ってくもん。
知力と精神を犠牲に膨大な力を手に入れる。当然行き着く先は理性のない戦闘の鬼。社会の敵、討伐対象になる。
ある程度でレベル止めてサブ職業にするなんて芸当は先天性には無理。
そして駄目押しの追加要素として、先天性職業固有特性がある。普通ならメリットか無用の長物。
なんとびっくり狂戦士の先天性職業固有特性は加速装置なのだ!勿論知力と精神すり減らす方面で。
毎日一定の知力と精神を減らし、代わりに体力と筋力を増やす素敵特性に俺は白目剥くしかない。
先天性職業に狂戦士を持った子供は基本的に幼い頃発狂死するという。ステータスの調査にかかる金額は庶民には雲の上のもの。突然死した子供は狂戦士の所為とされる。
職業として狂戦士のイメージが悪い最大の理由だろう。
先天性職業は良いもの。しかしそれには一文添えてある。狂戦士は除く、だ。
そして俺の先天性職業は狂戦士。
…………。
勉強一筋のお陰で今まで発狂から免れたわー。
やっぱり勉強って最高だな!
……アホかと。
狂戦士は田舎ほど忌避される。地元で就職は出来ない。
都会でも難しい。というか事務職は無理だろう。
というか先天性で狂戦士ってもしかして俺が史上初?
モルモットじゃね?
ああ、詰んでる。
そういえば。
ギルドなら、ステータス申告書見せなくていい。
学校にも行けない孤児や訳ありが集う何でも屋チェーン。
冒険者はステータス成長は微妙だが、ゆくゆく受付になれるぐらい頑張れば……!ギルドの受付とか間違いなく知力と精神が上がりそう!
俺の絶対幸せな人生を掴んでやる!
ガッツポーズと共に決意した15歳の冬。
***
そして今俺は
商人になっていた。
受付はハードルが高過ぎた。具体的に言うと条件の最低精神Bは無理ゲーだった。
まぁ商人で良かったと今は思う。習得した特性、鑑定でステータスが確認出来るからだ。鑑定で物だけじゃなく、人も調べれるなんて誰が思うだろう。他の商人は知らないから、俺だけが知っているのかもしれない。
最高レベルの今、自身や親しい者のステータスは指先一つで分かる。分かってしまう。ランクではなく数値で表される程精密な情報は、残酷な現実をこれでもかと見せてくる。
詳しくは言わない。
ただ精神がないも同然の有り様で、戦闘力は天元突破していたとだけ言おう。
もう俺の正気は知力だけで繋いでる状態である。
突然泣き出すメンヘラ商人とは俺のことです。
さて、今の俺の主な顧客は勇者ptである。
勇者ptと呼んでいるのは俺だけで、彼らは魔王を倒すという王の勅命を受けた精鋭騎士団(5人)だそうだ。勇者ptと言わざるをえない。
俺はそんな志高い彼らにダンジョンに入る前に高く消耗品を売りつける悪徳商人になっている。
でも多分危険性とか考えたら適性価格。
金づ……勇者ptにボッタクリ価格で商品を売るのに嵌ったせいで、彼らを追って様々な魔境やダンジョンの前に赴き今ではダンジョン内に出没するようになった。
そうして付き合うこと一年。
なんと勇者(勇者ptのリーダーのことだ)からスカウトされた!
騎士のステータスは微妙だしな、と思い俺は無理と即答した。あと狂戦士ってバレるかもしれないし。ハイリスクノーリターンだ。
勇者の顔が面白くて笑った18歳の春。
***
あれから、勇者ptに避けられている。
他にも商品を買ってくれる人がいるからお金は問題ない。
ボッタクリと思っていたが、どうやら需要と供給の問題で格安だったらしい。同業者と会った時値段に驚いた。
俺から買わずに誰から買うのだろう。
もしかして買い貯めているのか、と思えば倍以上高い同業者の商品は買ったらしい。解せぬ。
なんで避けられるのだろう。
俺が狂戦士って知ってる訳ないし。
知る術も、ないだろうし。
納める額が多いお陰でギルドでの地位は上がってる。
読書を続けることで知力も減るどころか増えてる。
ステータス申告書がない状態で信頼を得るのに必要な実績が多分にある。有力者とのコネも少なからず持ってる。
充実して、成功してる毎日。
そう思えるのに。
疑問を抱いた19歳の夏。
***
魔王を倒して勇者ptは王都に帰ってしまった。
ギルドの商人なんかじゃ会えない人になってしまった。
そして知った。
勇者はステータスを見る特性を身につけたらしい。
身につけた、ということは途中まで持ってなかった筈だ。
じゃあいつから?……きっと、俺を避けだした時から。
俺が狂戦士だから避けたんだ。なんでこんなに辛いんだろう。分かっていたことなのに。
勇者に会いたい。
でも会えない。
どうしたら、どうやったら、俺は。
***
精神が無くなろうと正気でいれたのは多分意地。
根性とか執念とか数字で表せないそれらが、俺を正気にとどめていた。
気の持ち様って言葉が身に染みて分かる。
心乱すまで、俺の理性は狂気と無縁だった。
己を保つ強い意志が守ってくれたから。
最後と思うと感傷的になっちまう。
それっぽいポエム書いちゃうからな、恐ろしい。
よし、次正気に戻れたら絶対コレ消そう。
戻らないと黒歴史公開だからな! 俺の根性を見せる所だ。
絶対俺は幸せな人生を掴むからな!
あぁ、でも本当
恋なんてしたくなかった。
『最悪の狂戦士 セレスティア・エルルーチカの手記より』
読んで頂きありがとうございます。
〜登場人物紹介、のようなもの
・セレス
主人公。俺っ子。前世はスケ番。
合法ロリなガリ勉がバーサーカーなんて誰が思うだろう。少なくとも勇者は知らない。
やればできる子なのは前世から。
ちょっと不運なのも前世から。
・勇者
多分イケメン。ついでにエリート。
実は庶民出身。
圧倒的顔面偏差値。
〜小ネタ、のようなもの
狂戦士じゃなくて初めは死霊術師にしようと思っていました。
分かりやすい狂気キャラが私にとって死霊術師でした。でも死霊術師だとダークというか、暗いというか。
明るくて華があって発狂系。
という訳で狂戦士に。
狂戦士だと主人公の口調も合わさって女性と分かりにくいかな、という考えもありますがぶっちゃけ女性である必要ないですよね。
能力値ネタは文字数稼ぎです。
正気が減る程書く数が減る……て演出したかった。現実は難しいです。
勇者がこの話の転になる要素です。
主人公が彼に会って無意識で恋することが崩壊の始まり。
そして最後に至るのですが……
主人公がどうなったかは明記しません。手記が手元になかっただけで正気に返ったかもしれませんし、戻らないまま……かもしれません。
手記が誰かに渡って公開されたことは確かです。
やっぱり早やかに済ますのが大事。
晒されちゃいましたから、黒歴史。
そろそろ私の書くロリが危険人物しかいないことに気付いて変化球投げてみました。
楽しんで頂けたら嬉しいです。




