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 依頼で学園に入学した侑が不安を覚えたのは、サバイバル合宿を一週間後に控えた、ある日の午後に行われた魔法実技の授業でのことだった。この学園では入学してしばらくの間は実技の授業が実施されない。その理由として、魔法は便利で生活に使われているが、容易く人を傷つけることが出来る代物であるからだ。高等部では、生活で使うような実用的な魔法や初級の戦闘用魔法を学んでいた中等部までとは異なり、魔物や魔族と戦うための中級以上の戦闘用魔法を学ぶことになる。だからこそ魔法使用についての講義を受けてから実技の授業は始まるのである。もっとも、それぞれの家で戦闘用の高位階級魔法を教わっている場合が多いため、確認の意味が強いのだろうが。そういうわけで、侑のクラス1-Dの最初の実技授業が学園内にいくつかある修練場で行われているのだが、侑は仁以外の同級生の魔法使用を初めて目にして思った。

 (このレベルでは、魔族はおろか比較的弱い魔物にすら一人では対抗できないだろうな)

 侑や仁も、魔法を使い始めた頃はそのようなレベルであったが、指導者の実力に彼らの才能も相まって二人はあっという間にこの世界でもトップクラスの実力を身につけた。地球には魔法使用における重要なファクターであるイメージを養う環境が整っていたこと、自身で鍛え上げた戦闘スキルやこれまでの経験、遺伝的な魔法の素質など、二人が強くなった要因は多い。このイメージというものは個人によって異なるが、現在の体系化された魔法では、その個性が欠如しやすい。だからこそ想像を創造することが困難になるのだ。体系化することで固定化された魔法を発動しようとすると、必然的にイメージ内に他者が入り込む。それが邪魔になるから複雑で強力な魔法を発動できるようになるまで時間が掛かるのだ。この世界で生きている者はそういったイメージしか出来ないのである。しかし地球では、魔法のようなものが実現不可能であるが故に様々な発想が自由に幾らでも生まれる。その発想がアニメや漫画、小説などで表現されているのである。その他者の発想を自分だけのイメージに取り入れる際に、その他者が入り込むかもしれないが、それは実際の人間には誰にも実現できないことが分かっているため、イメージの中でなら自分だけがそれを使えても不思議ではなく、自己投影は容易なのだ。このようなイメージの仕方が、侑や仁はこの世界の人間とは異なっている。だからこそ魔法の上達速度が著しいものとなったのだ。そんな彼から見て同級生は、素質があっても実力は圧倒的に不足していた。アレンやティーゼは、侑が見てきた高ランクの冒険者とも張り合えるほどの実力を既に身につけているようだが、この中に実戦経験のありそうな者は侑を除けば片手で数えられるほどしかいなかった。確かにルミナのような貴族の生徒は魔法を上手く発動していたのだが、それを実戦で使えるかと言われれば、使えはしないだろう。


 ところで侑自身はまだこの授業で魔法を発動していない。現在行われているのは入試と同じ4系統の得意魔法をこの授業の担当であるリーナに見せるという授業である。アレンやティーゼは侑と同様に、戦闘には役に立たない授業だと思っていたが、生徒の実力を自分の目で見ておきたいというリーナの要望を断る理由もなく、今後の授業に活かされるのだろうと考えて魔法を見せていたようだ。この二人は自分と同じような立場ではないかと侑が疑ってしまうほどの魔法を披露していた。戦闘で重要なのは魔法発動速度、発動を相手に感知させない魔力操作技術、魔法の密度など様々であるが、相手のいない状況で披露するのと、戦闘中に相手に対処しながら動く目標に放つのとでは、勝手が違いすぎる。前者で上手く発動できないのであれば後者では不可能であるため、前者は基礎的な練習にはなるのかもしれない。


 生徒自体がこのような状態では、もし魔族にでも襲われた場合、教師陣や侑と仁、アレンやティーゼのような例外的に実力のある生徒だけでは対処できないかもしれない。しかし侑からすれば、生徒がどうなろうと依頼が失敗して報酬がもらえないという結果になるだけで特にデメリットはない。さらに言えばこの世界に強制的に連れてこられた身としては、この世界が魔族に支配されようがされまいが、どうでもいいのである。それでも人族の側についているのは、この世界で生きるのに必要な知識や力の使い方を教えてもらったことに感謝しているためだ。生きる目的のない侑が死ぬという道を選ばないのは、師との約束ゆえである。この世界に来た当初は魔法という存在に少なからず興奮していた侑であったが、実力をつけるほどにその興奮も冷めていった。また殺しの手段が増えた、と思ってしまったから。そして侑と仁は魔法以外にも強力な力を有している。侑については、彼にしか無い力までも備わっていた。


 いくら力があっても、それを使う理由が無ければそれは必要無い。仁は侑よりも感情が豊かで、人との付き合いも上手く、既に友人もたくさんおり、あの人たちのことも家族だと思っているため、依頼であることを抜きにしても力を使う理由をもっている。しかし侑は依頼であるということ以上の、力を使う理由をもつに至っていない。この理由を見つける日が来るかどうかは、まだ誰にも分からない。


 授業に話を戻すと、無表情な侑がリーナの前に立っていた。リーナが彼の実力に気づいているかは分からないが、彼の出番はおそらく注目される最後であった。

 「それじゃあラスト、いってみよー!まずは攻撃系統の得意魔法をあの的に向けてよろしくー」

 「分かりました」

 そう答え、侑は何も唱えることをせずに的へと手を向けて魔法を放った。その魔法は闇属性攻撃魔法No.44の<闇ノ魔弾>である。

魔力から作られた漆黒の弾丸が、侑から的への方向だけでなく的を包囲するかたちであらゆる方向からあらゆる角度で放たれ、弾丸の命中したところから闇に侵食されてその的は崩れた。それを見ていた者は驚愕で言葉が出ず、修練場は静まり返った。

 この世界の魔法は属性、系統、各魔法に定められた数字、魔法名の4つを唱えることで魔法のイメージを確固たるものにして発動させる。ちなみに属性や系統を「闇・攻撃」と言わず別の言語を使用している理由については、魔力の原点を知らない者には絶対に説明できないだろう。魔力はイメージによって魔法へと変換されるが、イメージは元来あいまいなものであるため、戦闘に支障をきたさない程度の長さで、イメージの確立を補助する詠唱が使われている。要するにイメージを脳だけで確立できるなら詠唱は必要ないのだ。侑にそれが出来るのは、イメージを映像や画像などで再現することが可能で、それを目にする機会が多い地球の日本という場所で生活していたためである。その手の文化に疎い侑であっても仕事の関係で情報を集める際などにはいつも目にしていた。現実では不可能なことだからこそ自由に想像し、そのイメージを膨らませることが可能である地球とは異なり、ブライトでは魔力という力が現実において大抵のことを可能にしてしまうため、イメージ力を養う機会がないのだ。そして何より、詠唱あっての魔法という固定観念があるこの世界では、詠唱がイメージを補助するものということを理解しているかどうかに関わらず、魔法とは詠唱が無ければ発動しないと思われている節がある。戦闘に支障の無い長さで、これまでずっと使われ続けてきているのだから、詠唱が不可欠だと考えているのかもしれない。

 「今の魔法はシノミヤくんが使ったのかな?」

 ようやく状況を認識したのか、リーナが侑に問いかけた。

 「そうですけど?」

 侑の答えは素っ気無いというよりも、それくらい分かるだろ、と呆れているようにも聞こえるものだった。

 「確かに発動の瞬間に君から魔力は感じたよ?それでも一瞬だけだったし、魔力を練るときの魔力も感じなかったんだけどなー。それに何より詠唱は?」

 「魔力を感じさせない技術は冒険者や軍人でもそれなりに使える人がいると思いますよ?詠唱は無いほうが速いので省いています。」

 「どんな環境で魔法を習ったのかは知らないけど、君の年でそんなに簡単に出来たら苦労しないよー。それに詠唱を省くという発想を思いつくだけでもすごいのに、実際に出来るんだから驚かずにはいられないな」

 リーナの言うことにはクラスメイトも同意見なのだろう、全員同じような表情で侑を見ている。侑としては、この反応は予想の範囲内だった。前にも同じようなことがあったために。

 (このユウ・シノミヤって生徒は何者なの?シノミヤなんて家名聞いたこともないけど、魔力を感知させず詠唱すら省いて魔法を発動する技術は間違いなく脅威になる・・・)

 普段のリーナからは考えられないほど真剣に、彼女は侑のことを危険だと思った。何故なら、魔法発動時の一瞬の魔力を感知し、その魔法がどのような魔法なのかを把握して、さらに適切に対処しなければ何の抵抗も出来ずに殺されてしまうと理解したからだ。この実力はどう考えても学生のレベルではなかった。しかし、この魔法は侑にとって得意ではあるが、全力ではない。ルーナの考える以上に、侑の実力は突出していた。


 侑は入試では魔力は感知させなかったが、詠唱は省かず魔法を発動した。それは、どの魔法か分からなければ採点が出来ないと考えてのことであった。今回は入試のように合否がかかっているわけではないため自分の楽なやり方で発動したのだ。同じ魔法であっても個人のイメージによってその形が異なっている場合がある。もちろん基本的な性質は同じだが、それは見るだけでは分かりにくいため魔法を外見だけで判断するのは難しいのだ。

 「まあ今は授業を続けよっかー。さっきの魔法は分かったけど、判断できないかもしれないから次からは魔法名だけでもいいから、詠唱ありでお願いねー。それじゃ私が魔力弾を撃つから、防御魔法で防いでみて」

 魔力弾とは単純に魔力を圧縮して飛ばすもので、飛ばすのは魔力そのものであるため魔法ではない。放つ速度と魔力の密度にもよるが、基本的に攻撃性は低い。実際には攻撃をせずとも魔法の評価は可能であるが、魔力弾の手ごたえから魔法の完成度を見るようだ。完成度は魔力密度が均等で、部分的な強弱がないかを指標としている。

 「あの、自分は防御系統の魔法が上手く使えないので攻防一体の魔法でもいいですか?入試では攻撃性を備えた防御系魔法は不可という指定でしたけど」

 「それなら入試と同じ条件にしよっか。こっちに攻撃がきても困るしね」

 魔法は基本的に攻撃・防御・補助・治癒の4系統であるが、侑が言ったような攻撃と防御が一体化した中間系統魔法も存在する。この魔法は便利であるが一般的には使われていない。その理由は単純で、同じ階級の中間系統魔法と単一系統魔法を比べると、中間系統は魔力の消費量が多く、難易度も高いためである。さらに詠唱も少しだが長い。それでも、一回の魔法発動で二つの効果があるのは戦闘では有利であるため、好んで使う者もいる。そもそもこの4系統自体があいまいであるため、魔法だけを見ても系統が分からない場合が多いのだが。

 この防御に関しては攻撃系統で相殺するという手段も取れるが、攻撃魔法のほとんどは発動した瞬間には本来の威力が無く、自身に迫っている攻撃を防ぐには向いていない。防御魔法は自分の周囲に展開して移動させる必要がほぼ無いため、その場で最大の力を発揮できるのだ。

 「分かりました。それでは魔力弾をお願いします」

 侑がそう言ってからすぐに無色の魔力弾が飛んできた。素の身体能力だけで回避可能な速度で、直撃しても問題ない威力だったが、これも授業である。不得意な魔法を使うのは気が進まないものの仕方がないと思い、侑は魔法を発動した。

 「<シールド>」

 この魔法は無属性の初級魔法で、自分の周囲にドーム上の障壁を形成する魔法である。無属性の魔法は単純なイメージで魔法が発動するため魔法名の詠唱のみだ。<転移>についても自分の移動する場所のイメージが整ってさえいれば魔力消費は大きいものの魔力のコントロールさえ出来れば発動できる。無属性魔法は発動が速く、簡単である反面その強度は極めて低い。この盾は他の属性魔法の低級防御魔法よりも非常に脆く、同じ無属性魔法の<ショット>は魔力弾と大差のない威力である。<ショット>は魔法であって魔力弾のように魔力を圧縮しなくても攻撃性があるため、攻撃に使う際の魔力効率的には<ショット>の方が良いが、放つまでの速度は魔力弾の方が速い。それに魔力なのか魔法なのかが戦局に影響する場合もあるのだから、どちらが良いとも言えないのである。そのようにいくら<シールド>が脆いといっても、侑が使えば魔力弾程度なら何発受けても壊れることは無い。それに、今回も発動前の魔力は誰にも感知されないほどにコントロールされていた。

 「ねえ、シノミヤくん?入試でもこの魔法を使ったの?」

 「ええ。防御系統は苦手なので」

 「それでよくこの学園に入学出来たねー。他の系統の魔法と筆記試験がよほど良かったのかなー?」

 「さあ、どうでしょう」

 「まぁいっかー。手抜きしても得はないもんねー。次は補助系統だけど、自分と相手、どっちに作用する魔法?」

 「それでは相手で」

 リーナが侑に尋ねたように、補助系統の魔法にはおおまかに、自分や味方の行動を補助するもの、敵の行動を抑えるものの2種類がある。魔法が作用する対象が自分なら魔法を披露することも容易だが、他者に作用するならその相手がいなければ効力を確かめられないのだ。だからこそリーナは侑にそれを聞いたのである。

 「じゃあ、私に向けて魔法を発動してねー。無生物じゃ効果が分からない魔法かもしれないし」

 「危険では?」

 「生徒の魔法くらい対処出来ないで、何が教師だよってねー。それにもし対処出来なくても、学園には回復魔法のエキスパートがいるから大丈夫だよ」

 「そうですか、では遠慮なく」

 そうは言ったものの、侑がこれから使おうとしている魔法は攻撃性が無くても危険ではあった。基本的に、入試の段階で使える補助魔法は対象の動きを抑制する程度のものなので、入試では魔法で自動制御された人形が用意されていた。そのときとは違う魔法を使うつもりだった侑は、危険性を考慮してそのときの魔法を手加減して使うことに変更した。

 「Obscurite:S-49<吸魔ノ闇鎖>」

 この魔法は、対象を鎖で拘束して対象の魔力を吸収するという魔法である。魔法で自動制御された人形相手であれば、魔法使用者の込めた魔力を吸収し、ただの人形に戻すだけだが、人間に使うのであれば鎖から抜け出せない場合いくらでも魔力を吸い続けてしまうために侑は手加減をした。魔力の吸収速度を遅くするように調整することで。魔法は魔族との戦闘目的で創造されたが、魔法犯罪者への対処のためにこのような魔法も存在している。魔族は魔力を持たないので、この魔法は魔族や魔物相手には拘束にしか使えない。

 「やっぱり上級魔法かぁー。まあでもこの魔法は鎖に捕まらなければ・・・って、えぇ!?」

 侑は、魔力の吸収速度は落としたが、鎖の操作は手加減なしだった。鎖の数は発動に使う魔力量で調節可能で、侑は4本の鎖を同時に操作していた。

 「数が多いよー!」

 必死に逃げていたリーナだったが、4本の鎖の動きを同時に見極めることはかなわず、すぐに捕まった。最初に右足を鎖が捕まえ、動きが止まったその一瞬で残りの四肢をそれぞれの鎖が捕らえた。魔法を使えば脱出は可能だったが、今回は実際の戦闘ではないため、リーナはそれ以上の抵抗はしなかった。もっとも、危険性の高い魔法なら脱出しただろうが。魔力の吸収は量の少ない人間には危険だが、リーナは自身の魔力量に自信があった。

 「うーん、捕まっちゃったね」

 「魔法を使えば捕まることもなかったですよね?」

 「そうだけど、生徒相手にみっともないかなーって」

 「捕まるのもみっともないですよ」

 「その通りなんだよねー。でもさ、シノミヤくんってこういう趣味なの?」

 「どういうことですか?」

 「周りから見れば、シノミヤくんは女の子を鎖で拘束している変態さんってことだよー」

 「・・・すみません。すぐに魔法を解除します」

  一瞬だったが、自分が冗談交じりに言ったことを聞いて、侑が何か嫌なことを思い出したような表情をしたのを、リーナは確かに見た。

 (あんな顔するなんて、過去に何かあったのかな?)

 「冗談だから、気にしないでいいよー。じゃあ最後、治癒系統ねー。この系統は、かなり定義があいまいだから、自分のやりたいようにやっていいよ」

 リーナの言った通り、治癒系統の定義は非常にあいまいである。怪我や病気を治療する魔法はもちろん、浄化や検査などの魔法も治癒系統に含まれる。魔法の歴史は決して長くないため、こういったことは仕方がないだろう。そしてこの系統は非常に難易度が高い。軽い怪我の治療や簡単な浄化なら学生レベルでも可能であるが、病気や重度の怪我の治療などには、高度な魔力コントロールと明確なイメージが必要となるからだ。侑はその高度な魔法も得意とはいえないが使うことは出来る。しかし、この場に急患などいないため、先ほどの冗談の仕返しをしようと考えた。あの冗談は侑にとって非常に不愉快だったのである。冗談だから軽い仕返しで済ますが、本気で言われていたなら何をしていたか分からないほどに。

 「それでは先生、失礼します」

 侑はそう言ってリーナに向けて手をかざした。

 「私に?まあ治癒系統なら危険なものも少ないけど・・・。でもシノミヤくんが得意なのって闇属性だよねー?」

 「大丈夫ですよ。無属性の魔法なので。<スキャン>」

 「え?確かその魔法って!?」

 「先生は健康体みたいですよ。でもこの体格は女性だと初等部高学年の平均くらいですね。栄養状態に問題はないみたいなので、遺伝的なものかもしれません」

 侑が使った<スキャン>は対象の状態を読み取る魔法である。その精度は使用者の技量次第で、具体的に何を読み取るかは使用者の判断による。この魔法は魔力の波で対象の状態を読み取るため、回避は簡単だが、今回ルーナは不意を突かれて避けられなかった。この魔法は男性から女性に使われることはまずないため、全く予想していなかったことが不意を突かれることになった原因だろう。侑はリーナに、というより他者にあまり興味がないため、このような情報はどうでも良く、女性に対して使うことも躊躇わなかった。彼はただ、仕返しをしたかっただけなのである。しかし、知られた側からすればたまったものではない。

 「ねえ、シノミヤくん、体格っていうのは身長と体重だけ?」

 リーナが胸の辺りを手で押さえ、侑に問いかけた。

 「いえ、体格全般です」

 侑がきっぱりと答えると、リーナは顔を赤くして涙目になって言った。

 「乙女の秘密を暴くなんてひどいよ!他人のコンプレックスを・・・・。うわーん!」

 そして魔法名を唱えずに<転移>を発動し、リーナは修練場から去った。残ったのは、仕返しが予想以上の効果で満足している侑への、女子からの冷たい視線と一部男子からの尊敬の眼差しだった。その尊敬の眼差しを向けていた一人が侑に近づいて言った。

 「侑!今の魔法をオレにも教えてくれ!」

 「<スキャン>くらい使えるだろ?」

 「使えるけど、スリーサイズまでは読み取れねぇんだ」

 「少し落ち着きましょうか、アーク」

 侑に近づいたのはアーク、それを諌めたにはアレンである。そこにティーゼとルミナもやってきた。

 「ユーくん、今のはちょっと感心しないなぁ」

 「リーナ先生が可哀想だよ?」

 侑には罪悪感など無かったが、女子二人に言われては、悪いことをしてしまったのかと思わざるを得ない。

 「そこまで気になるものなのか疑問だけど、それは相手が決めることだからな。これから先生に謝りに行ってくる」

 「女の子は体型には敏感なんだから、気をつけないとダメだよ?」

 「ティーゼもそうなのか?綺麗なスタイルをしていると思うけど」

 「え!?そ、そうかな・・・?」

 「ああ。大体の体格なら魔法なんか使わなくても普通に見てれば分かるしな」

 「「!」」

 侑の言葉を聞き、ティーゼとルミナは手で身体を隠すような格好になって侑を見た。

 「ユーくん、それは毎日の変化とかも分かってるってこと?」

 「ユウはいつもそんな目で私たちを?」

 「いや、ちょっと待て。俺が体格を見るのは、どれくらい身体を動かせるのかを見るだけだぞ?それに俺がそれを確認したのは自己紹介のときだけだ」

 「そっか、それなら良かった・・・って良くない!」

 「何か問題があるのか?」

 「あるよ!ユーくんはその、アタシたちの体重とかス、スリーサイズとか知ってるんでしょ?」

 「知ってたらまずいのか?」

 「女の子は知られたくないの!!」

 「今さら遅いけど、これからは気をつける」

 侑は本人が言った通り、本当に身体能力を見ただけで、アークのような男子学生が持つ下心など皆無である。侑はとある経験のせいで、性欲をほとんど無意識に抑えている。完全に抑えられているわけではないが、女子の体型の発達、未発達など侑にはどうでもいいことであった。

 「俺はとりあえず先生のところに行ってくる」

 女性陣の反応から察するに、この状況があまり好ましくものだと判断した侑はリーナを探すために修練場を出たのだった。



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