表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/101

1-10

  魔力で視力や聴力を強化できないため、離れたところで状況を把握できないまま様子を伺っていた生徒や教師たちは、二人の生徒によって魔族が撤退したことを敵意が消失したことによって理解した。その生徒の中の一人で侑とも交流のあるルミナは、敵の脅威が去ったことに安堵しながら、とある可能性に気づいてしまった。突然魔力を封じられて動揺していたためすぐには思い至らなかったが、魔力が封じられる原因となった魔法具を提供したのは彼女が引き取られたシローネ家だったはずなのだ。シローネ家は魔法具の開発を行っており、その魔法具を学園行事などのために提供することでアーディス魔法学園との関係を築いている。もちろんそのことをルミナは知っていた。その魔法具で魔力を封じられたところに魔族が現れたということは、この魔法具の仕掛けは意図的なものだと考えるのが妥当だ。そうすると、魔族と手を組んで学園を襲わせたのは仮であっても彼女の家族ということになる。ルミナには当主であるコーバッツの目的は分からなかったが、今はそんなことはどうでもいい。この魔法具に刻まれた魔法陣から発動した特殊な魔法は、間違いなく基本属性魔法ではなかった。一般に用いられている体系化された魔法には魔力の操作を不可能にするようなものはないのだ。すなわちこれは無属性しか扱えない魔法師が持つ特殊な固有属性魔法ということになる。そしてルミナにはその特殊な魔法を使う人物に心当たりがあった。血は繋がっていないものの、自分を本当の姉のように慕ってくれている義理の妹、フィリア・シローネである。彼女の持つ固有属性は“遮断”、この属性の魔法は、ものの流れを遮り他の動きや作用が及ばないようにする。魔力と肉体のつながりを遮断されれば、当然体内の魔力に干渉することは出来ない。しかし一部の神経系を遮断すれば意識を失わせるのも容易であるはずなのに、何故完全に動きを封じず魔力だけを封じたのだろうか。その答えはルミナにはすぐに分かった。一時的とはいえ神経系を遮断されれば、何か後遺症が残る可能性がある。フィリアは、例え魔法犯罪者を無力化するための魔法だとしても、それで人が傷つくのを嫌がったのだろう。ルミナの知るフィリアはそういう優しい子だった。そんなフィリアがその魔法を使う目的を知っていたなら、この魔法具の開発を手伝うことはないだろう。だとすればフィリアは騙されたのか、それとも無理やり手伝わされたのか。あの家ならどちらも有り得ると、ルミナは思った。そしてその魔法が魔法陣化し、魔法具になっていることに驚いた。そして、魔法使用者にしか魔法陣化はできないため、これはフィリアの功績なのだと、ルミナはそのことを素直に喜んだ。


 フィリアが成功した魔法陣化の難易度は非常に高く、このように高度で複雑な魔法のイメージを図式化するなど、今までに例はない。本来は他者に作用するはずの魔法であるはずが、魔法具の使用者に作用して魔力を封じている原因は、その魔法陣の性質に由来していた。魔法陣は魔法発動までの過程を図式化しているため、魔法具の使用者はイメージ無しでも無属性の魔力を必要量流すだけで魔法が発動するのだが、その魔法をコントロールするのは使用者自身である。今回の場合、転移魔法を自分自身に作用させようとしていたため、魔法陣から発動した魔法の対象は使用者である。だからこそ遮断魔法が自身に作用し、魔力を封じられたのだ。今回の事例から、魔法陣から魔法を推測できなければ、魔法具使用者は発動する魔法が思っているものと違ったときに危険にさらされてしまうということが分かるのだが、そのことはあまり知られていない。


 (この魔法具を提供したシローネ家が疑われたら、フィリアはどうなるのかな?魔法陣を作ったのはフィリアだし、あの人なら保身のために娘に責任を押し付けてもおかしくない・・・)

 ルミナはシローネ家自体がどうなろうと構わないが、妹のフィリアのことは心配していた。魔力が使えれば念話で連絡を取るのに、とそう思ったルミナは遮断魔法の効果が切れていることに気づいた。すぐにフィリアに呼びかける。

 《フィリア!今時間大丈夫?》

 学年が1つ下のフィリアも、今の時間は学校にいるはずだ。突然の連絡で驚かせてしまうかもしれないが、今は気にしていられなかった。焦りを感じながらしばらく返答を待ったルミナだったが、フィリアからの返事は無かった。

 《フィリア!?ねぇ!》

 それから何度も呼びかけたが、やはり返事は無かった。

 ルミナから魔力を感知したティーゼは、自分も魔力を使えることを確認してホッとした。そして彼女はふとルミナが何の魔法を使ったのか気になってルミナに視線を向けた。そこでティーゼが見たのは、青ざめた表情で立ち尽くすルミナの姿であった。

 「ルミナ・・・?どうしたの?そんな顔して」

 心配そうにルミナに尋ねるティーゼの声を聞いて、アレンとアークもルミナの様子を見た。アークは何か声を掛けたほうがいいかと思ったが、ここはティーゼに任せるべきだろうと直感して様子を見守った。アレンも同様に考えたのか、声は掛けなかったようである。

 ティーゼたちは心配してくれているが、だからこそ自分の家族の問題で迷惑をかけるわけにはいかないと、ルミナは思った。シローネ家はこのミレーユ王国の貴族の中でも比較的影響力が高い家だ。もしこの件に関われば、友人だけでなくその家族にまで迷惑をかけてしまうかもしれないのだから。

 「別にたいしたことじゃないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとね」

 「・・・本当に大丈夫なの?」

 真剣な表情でティーゼはルミナに尋ねる。ルミナは嘘をついている罪悪感からティーゼと目を合わせていられなかった。本当は誰かに相談して助けてもらいたい。けれどそれは自分勝手で傲慢な願いだ。自身には払える代価はないし、出来ることだってない。家柄は良くても、それは自分の価値などではないのだ。何もない平凡な自分が他人に救いを求めて、もし誰かが手を貸してくれたとしても、きっと自分は何も出来ずに任せきりになってしまう。それでは他人を道具のように考えて利用するあの人たちと一緒ではないか。

 「うん。大丈夫、大丈夫だから・・・」

 ティーゼは今のルミナを見て大丈夫だとは思わなかった。自分に言い聞かせるように大丈夫だと苦しそうな表情で言う姿を見て、本当に大丈夫だと思えるはずがない。それでもティーゼはルミナにも相談できない理由があるのだろうと考え、追求はしなかった。力にはなりたいが、ルミナの問題は自分の力ではどうにもならないことだと、ティーゼは直感で理解していた。

 「そっか。ならいいんだけど、気が向いたらいつでも相談してね」

 「うん、ありがと、ティーゼちゃん」


 侑と仁の二人は先ほどの戦闘について情報交換した後、リーナたち教師のもとに向かった。二人が到着したときには既に方針は決まっており、サバイバルは中止し、一度学園に戻って今回の件を報告してから、学園長の指示を仰ぐということになったようである。報告に立ち会うよう教師に頼まれたが、自分たち以外に詳しく報告することができる人間がいないことは分かりきっていたため、二人としては頼まれるまでもなかった。

 教師が生徒たちに学園に戻ることを告げ、これもまた魔法具の一種である転移装置を用いて全員が学園に帰還した。生徒への事情説明は後日ということで、その後はすぐに解散となった。

 侑は学園長への報告の前に、一人でルミナの部屋へ向かった。解散後、結局何をどうすればいいのか分からず寮の自室で一人泣いていたルミナの顔は、可愛い顔が台無しになっていると侑が思うほどに酷いものだった。

 侑が会いにきてくれたのは嬉しかったルミナだが、今の顔はあまり見られたくない。それでも帰ってほしいとは思わなかったようだ。

 「どうしたの、ユウ?」

 「俺にはルミナが何故泣いていたのかは分からないし、そんなルミナにこういうことを言うのは間違っているのかもしれないけど・・・」

 少し躊躇いがちに侑は続きの言葉を紡いだ。

 「シローネ家を潰しても構わないか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ