第8話 夏休みと僕
夏休みにありがちな事の中で、終わり際になって宿題が終わっていないと言う物がある。
だが、僕の周りでそれを見た事は無い。
「今日の分のノルマ達成!明日の分もついでに達成!」
「このペースなら後5日で終わりそうね」
学年一位の宿題合宿に参加するから。
「じゃあ、厨房借りるね」
「おお!よろしく」
「儂のも頼むぞ」
毎年、料理担当として期待されているから、張り切って参加している。
「優菜は大丈夫かしら?」
「まさか陸上部の合宿と被るとはな。本家の集まりがあるから、こっちも予定変えられねえし」
いつもは優菜を加えた四人で宿題を消化していったけど、今年は三人だ。
「合宿から帰ったら僕が見るよ」
「二人きりでか?別の勉強になるかもな」
「まあ!」
「そんな事しない!普通に宿題するだけ!」
興味が無いと言えば、嘘になるが。
「まったく。さっさとくっつきなさいよ。優菜の気持ち、分かっているでしょう」
「それは、まあ」
「気の無い反応じゃのう」
煮え切らない僕にため息の二人と一柱。
「やめだ、やめ。それよか太陽はどうすんだよ、卒業後」
「とりあえず大学。飲み屋のサラリーマンっぽいけど。そう言う蔵人はどうなんだ?」
「俺か?俺は、~大。本家の広兄がいる、な。将来支える身の上としては、今のうちから連携をとっておきたいし」
「私も同じ大学かな。真羅の人間はほとんどそこを卒業しているもの」
二人は既に将来が見えているようで、淀みなく答える。
「太陽も一学期の成績上がっていたし、良い大学行けるんじゃない?」
「そうじゃ。お主は頭は悪くないぞ」
僕としては、まだまだな気がするけどね。
「そう言えば。あの子達どうなるか決まった?」
「まだ。引き取り希望者はそれなりに居るんだけど、会わせる時間が調整出来ていないんだ。文化祭の企画も提出しないといけないし、参るよ」
心変わりが無いとも限らない。
二学期はイベント尽くしで、その準備に手一杯になるだろう。
参加する分には楽しいのだけど。
「千愛?」
「薙刀部の演舞だけ。料理部員はクラスの出し物に駆り出されるから」
「じゃあ、一緒にまわろう」
「ええ」
少ない言葉で分かり合う。
この二人、もう夫婦の空気を纏っている。
羨ましい限り。
「お主と優菜ちゃんも似たようなものだったがの」
宿題消化は恙無く進行する。
「ありがとう!サンちゃん。後はなんとかなりそう」
「そう?なら良かった」
自分の宿題を退治し終えた僕は、合宿帰りの優菜の宿題を見ている。
「太陽くん、いつもありがとね」
「いえいえ、気にしないでください」
「これからも、優菜を頼むわね」
「お母さん!もういいでしょ!」
「はいはい」と笑って出ていく優菜のお母さん。
世話焼き主婦で、両親共働きの僕の心配もよくしてくれた。
よく笑う人で、優菜の笑顔はこの人譲りだと思う。
「相手側の親の覚えもめでたいっと。なんじゃ、外堀は埋まっておるではないか」
外堀どころか、おばさんからはあからさまに「嫁にしてやって」と言われている。
「サンちゃん、ごめんね」
「え、なにが?」
「動物達の事。あんまり世話出来ないから」
仕方のない話ではあるが、優菜はずっと気にやんでるみたいだ。
「優菜。文化祭の予定は?」
「部でお店出すって。後クラス展示」
「そっか。じゃあ、時間作ってこっちを手伝ってくれると助かるけど。どうかな?」
「やる!そっちを優先しちゃう!」
僕の方に身を寄せてくる優菜。
あまりの近さに、何か、困る。
「今じゃ。押し倒してしまえ!」
太郎さんが煽る。
キューピッドさんもバカスカ矢を射ってくる。
「それで?何やるの?」
「あ、うん。蔵人や千愛、獅童先生にも協力を頼んで……」
触れるか触れないかの所に優菜。
無意識?わざと?
計画を説明する声に、違和感は出なかっただろうか。
もっとイベント盛り込めたらな……。
実力不足で巻いてお送りしています。