第3話 優菜と僕
(この辺りに僕の家があるんです)
町をぐるりと周り、僕は家を目指す。
「あっ、サンちゃん!今日は海水浴の日だっけ」
「うん。優菜は買い物の帰り?」
「そうなの。お母さんに買い物頼まれちゃって」
その途中で、幼馴染みとばったり出くわす。
有部優菜。
母親同士が親友で家が隣と言う、まさに幼馴染みな間柄。
歳は僕が一つ上。
「袋。片方持つよ」
「ありがとう!」
「ほほう。可愛らしい娘さんじゃの。お主の恋人かの?」
(違います!幼馴染みです!)
太郎さんがからかってくるので、慌てて否定する。
「なんじゃ。つまらんの」
太郎さんは面白くなさそうに、プカプカ浮かんでいる。
(ん?あれ?)
僕は優菜の側にそれを見つける。
白い衣を纏い、手には弓。
小さな小さな子供の姿。
「ほっほう!恋愛神の遣いとはの!」
(恋愛神?遣い?)
「うむ。文字通り色恋を司る神でな。良い機会じゃ。眷族について話そうかの」
なんでも、神は眷族を作り出して使役するのだそうだ。
最初は「遣い」。
神の命令を受けて、その通りに行動する。
続いて「使徒」。
遣いが成長して自我を持ち、より主人である神のために自発的に活動する。
最後は「属神」。
ほとんど主人に近い存在で、その権能を代行する事もある。
「つまりじゃ。あの娘さんは神に認められるほどの純粋な恋をしておると言う事じゃ」
(ふ、ふーん。そーなんだ)
「なんじゃ?気になるのか?」
ニヤニヤ笑う太郎さんがちょっとウザイ。
「サンちゃん、どうしたの?黙っちゃって」
「いや、大した事ないよ。ただちょっと考え事」
「そっか。困った事があったら、わたしに一番に相談してね!」
優菜の眩しい笑顔に目がくらむ。
直視出来ず他所を見ると、遣いが弓を引き、
(え?僕?)
僕に矢を突き立てた。
「なんと!これはこれは」
(え?これって……、え?)
「しっかり受け止めんか!優菜ちゃんの想い人はお主。良かったではないか。ほれ。気の利いた台詞の一つでも言えば、その瞬間からお主に恋人が出来るぞ」
確かに優菜はかわいいし、最近目で追っていると思う。
でも、
「まったくヘタレじゃの。恋人は自力でなんとかするのではなかったのか?」
(優菜と僕じゃ釣り合わないんです。あいつ、学校で天使と呼ばれるほどの人気者なんですよ!)
「じゃが、お主を好いておろうが。それで十分だと思うがの」
僕だって、本当は……
「サンちゃん?サンちゃんってば!」
「え?あ!ごめん。何?」
「もう。また考え事?今日、おばさん達遅いの?って聞きたかったの」
「父さんは残業。母さんは間に合いそうだって」
僕の父はシステムエンジニア、母は大学の教授。
どちらも休みが不規則で、夕食が僕一人の時が多い。
誕生日や学校の行事には休みをとってくれるから、寂しさはあまり無い。
「そっか。ちょっと残念」
そんな仕事柄、小さい頃は有部家で夕食を食べる事も多く、今でもたまにご一緒させて貰っている。
「のう?サンちゃんとは、なんじゃ?」
(アダ名です。太陽は英語でサンでしょ)
幼い頃に「英語が分かる」自慢をした結果、つけられた。
今では命名者しか、そう呼ぶ人はいない。
「今日はありがと。また明日、学校でね」
「うん。また明日」
荷物を受け取った優菜は、自分の家に入っていく。
それを見届け、僕も自分の家に行く。
「道中のお主達、まるで夫婦のようであったぞ。そのような雰囲気を纏っておいて何が不満なんじゃ?」
「不満?優菜に不満は無いですよ。あるのは僕自身です」
家の中は僕一人。
誰に気を使う必要はないので、言葉で返す。
「よし!では、儂がお主に自信をつけさせてやろう!」
「え!?」
「まずは、普段のお主を観察させて貰おうかの」
有無を言わさず、太郎さんはそう決めた。
と言う訳で、ヒロイン登場です。
かわいいと思ってくれる人がいると良いな。