第2話 神魔と人間
「なかなか良い町じゃの。空気が優しいわい」
(神様に褒められると、なんか照れますね)
太郎さんと一緒に町の中心部を歩く。
せっかく来たのだから、大好きな故郷を知って貰いたかった。
「して、太陽よ。発酵と腐敗の違いは分かるかの?」
(人に益か害か。ですね)
「うむ。神と悪魔の違いも似たようなものでの。儂と行動を共にする以上、知っておくべき事なのじゃが、」
太郎さんはここで一度区切り、
「神と接触した事により、お主は精や霊、もしくは魔と呼ばれる存在に触れやすくなっておる。今までは気にも留めておらんかっただろうが、ほれ!目を凝らしてみろ」
そう言うので、僕はジッと目の前を睨んでみる。
(え!何、これ?)
「ようこそ。これが、世界の本当の姿じゃ」
大気中に漂う木っ端な何か。
電線の上には、鳥に見える全くベツモノ。
ある道行く人の側には明るい人影が寄り添っている。
また別の人には、見るからに邪悪な影がまとわりついている。
「分かるであろう?観測出来ないだけで、儂らのような存在は太古から人と共にあるのじゃよ」
行き交う人々は全く気付く様子はない。
生まれ育った町なのに、異世界に跳ばされた気分になる。
僕達は交差点に差し掛かる。
横断歩道の先に、人が立っている。
その人は僕の視線に気付くと、こちらを手招いてくる。
(え?なんですか?
そっちに?
僕が?
分かりました
今、そっちに……)
「バッカモーン!!!」
太郎さんの怒鳴り声に、霞がかっていた目の前がはっきりする。
そんな僕の目と鼻の先を、大型のトラックが通り過ぎる。
「愚か者め!言った側から悪霊に魅入られよって!」
(悪霊?)
僕は横断歩道の先を注意深くみる。
さっきの人(?)が、憎々しげにこちらを見ていた。
人に見えたそれは、今では暗い影だ。
「言ったであろう?お主は魔に触れやすくなっておると!」
(深淵を覗く者は、深淵からも覗かれている。って、あれですか)
「いかにも。故に、常に気をしっかり持て!自己さえ揺らいでいなければ、あそこまで良いようには操られまい」
太郎さんの指導で、僕は悪霊に対する心構えを学ぶ。
直視しない事も大切なのだそうだ。
(あの世で会えると良いね)
側を通る際、悪霊に少し手を合わせてあげた。
冥福を祈ってやる事。
それが、悪霊払いの基本なのだそうだ。
立ち去る時、悪霊は少し気持ちよさそうだった。
「慣れてくれば、この景色も面白かろう?ほれ。あれを見よ」
太郎さんが示す先では、一人の少年の頭上で天使と悪魔が取っ組み合いをしていた。
互いに殴る蹴るの応酬。
中々の好勝負だ。
(あ!天使が勝った)
小さくガッツポーズをとる天使と、悔しそうに突っ伏している悪魔が印象的だ。
「ほらの。面白いだろう」
(太郎さん。少し質問なのですが)
「なんじゃ?申してみよ」
(これが世界の姿なら、八百万信仰こそ正しい教えって事ですか?)
世界中にこんなに神やら霊やらが溢れているなら、一神教の教えは間違っている事になる。
「そうとも言いきれんの。のう、太陽や」
(はい)
「夜空には幾万の星々が輝くであろう?じゃが、昼間は太陽一つが照らすのみ。神の世界もそのような物なのじゃ」
(一番影響力の強い神が幅をきかせ、他の神を追いやったり目立たなくさせたりする訳ですか)
「その通り!発酵の話といい、理解が早いの」
太郎さんは嬉しそうだ。
「神も悪魔も、人の信ずる心より力を得る。信仰と言う物はバカには出来んのじゃぞ」
太郎さんの主な信者は、浦島太郎を読む子供達なのだそうだ。
リアルが忙しくて、毎日投稿できそうにありません。
毎日更新している人はすごいです。
尊敬します。