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『捌の噺:死神』

 母方の母、オレからしてみれば、祖母、立石に住んでいるばあちゃんが亡くなった。

生前、別府の病院に入院していたりして、よくお見舞いにいった。


「よく、来てくれたね~。」

「これ。お母さんから。」


と袋を渡す。


どうも、病院食が味気ないといって、母にいつも何かしら頼んでいたみたいだ。

母の作った物はとてもおいしく食べていた。


ある日、またお見舞いに行くと青年がベットの傍らに座っており、立石のばあちゃんと小声で話している。

見知った顔ではなかったので、誰かな?と思い近づいていく。


「もうすぐなんだね。」


立石のばあちゃんの声が聞こえた。


「そうです。夏あたりです。」

「そうかい。わかったよ。」


すると青年は立ち上がり、一礼をした。


「来たよ。」


と声をかける。


「よく来たね。」


「あの人誰?」と聞くと


立石のばあちゃんの顔がこわばり青ざめる。


「ちょっと、この子はダメだからね。」


と大声で後姿の青年に言い放った。

青年は振り向く事無く手を上げると、病室から出て行った。


「お前、あの人が見えてるのかい?」

「うっうん。」


(あ~そっちのモノだったんだと思った。)


「お前見えるのかい?」

「うん。」


誰にも言ってない、それまでのことを打ち明けた。


「ほうかほうか。それは大変だったね。」


オレはその場で立石のばあちゃんにしがみ付いて泣いた。

立石のばあちゃんも片目が義眼で見えているらしい。

そして、この世のモノでないモノから、身を守る術を習った。

この時オレは立石のばあちゃんが祓ったんだと思っていた。


次の日、母から立石のばあちゃんがアイスクリームを食べたいからと

買っていくように頼まれた。

医者からは禁じられているからこっそりね、ともと付け足した。


オレはアイスクリームを2個買うと、隠し持つように病室へと行った。

多分そうとうあやしい行動の子供だったと思う。(笑)


病室で隠れて2人でアイスクリームを食べた。

とてもおいしかった記憶がある。

次の日、立石のばあちゃんは、退院し立石へと帰っていった。


その1週間後、立石のばあちゃんが夢に現れた。


「がんばるんだよ」


立石のばあちゃんは微笑んでいる。


午前3時ごろ、家の電話がけたたましく鳴り、オレは母親から起こされた。


「立石のばあちゃんが亡くなったって。立石に行くよ。」


親戚の兄ちゃんが車で迎えに来て、立石に行く事となった。

途中、車酔いしたのか、車の中で吐いた。


オレは医者から止められてたアイスクリームを持っていったからと、自分を責め立てた。

持って行かなかったら、死ぬことはなかったのにと。


オレにとっては、物心ついて初めて知り合いが亡くなった経験だった。


立石に着くと、顔に布を被せられ、立石のばあちゃんが布団に横たわっていた。

母が布をめくったが、オレは目をつぶって見なかった。

現実を受け入れられなかったんだと思う。


すると、立石のじいちゃんから、夜知り合いから電話があって電話口に出たんだけど

立石のばあちゃんを呼んでほしいとの事で、呼んでみたが返事がない。

布団に行ってみると、亡くなっていたらしい。医者の見解は老衰と診断されたみたいだ。


立石は山の中の一軒屋で、外灯もほとんど無く、漆黒の闇が広がっている。


縁側に座り外を見ていると、傍らに誰かが立った。

見てみると、あの病室にいた青年だ。


「お前。」


オレはその青年を睨み付けた。


「あっ。私がみえるのですね。」

「どうして、立石のばあちゃんを連れて行った。」

「うむ。寿命だったんです。老衰です。痛みも苦しみも無く安らかに旅立たれました。」

「お前何モノなの?」

「死神です。」

「死神?地獄なんかに連れて行ってないよな。」

「はい。天国へと導きました。」

「そうか。」


途端に、大粒の涙が零れ落ち号泣した。

母が、何事かと来て抱きしめてくれた。

泣き止んだ時には、もう死神の姿は無くなっていた。


寿命だったんだろうが、今でも心の奥底では、アイスクリームがひっかかったままだ。

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