『伍の噺:巫女の女の子』
傷もしっかり癒え、普段通りの生活に戻ったが、幼稚園の頃のキズと繋がる形で跡が残った。
とにかく、人、妖怪、幽霊等の区別をつけなければと思い、鬼太郎の妖怪大百科を図書館で読み漁り
ある程度の知識は身に付いた。まぁ子供の本なので代表するモノしか載っていなかったけど
その時のオレには十分だった。
昼休みに、回転遊具で遊んでいると、どれだけ早く回せるかという事になり、上級生が回し始めた。
オレは遊具にしがみ付いていたが、どんどん遊具が加速していく。
ついには、おれの身体が水平になった。
その時握力が遠心力に負け、手を離してしまった。
身体は宙を舞い、校舎の壁へと背中から打ち付けられた。
ガフッ
息が出来ない。四つん這いになり、必死に呼吸しようとするが吐けても吸えない。
皆が俺の前に集まってきて、「大丈夫か?」と聞いてくる。
その時、背後から「大丈夫。落ち着いてゆっくり息を吸って」と声がして背中が摩られた気がした。
すると、やっと呼吸が出来だした。
後ろを振り向くと、誰もいない。辺りを見回すと校舎の影に、巫女の姿をした女の子がこちらを見ている。
呼吸が落ち着くと、皆に「大丈夫」と言うとその女の子の方へと歩いていった。
目の前まで行くと、「大丈夫?」と聞いてきたので、「うん、大丈夫。」と答えた。
「キミが背中を摩ってくれたの?」
「うん。苦しそうだったから。それに、私も少し力があるから・・・あなたもそうでしょ。」
顔に手をやると、吹っ飛ばされた勢いでメガネが外れていた。
しかし、同じ年くらいのこの子に関してはイヤな気がしなかったので、続けて聞いてみた。
「キミは誰?なんで巫女の格好なんかしてるの?」
「私は、キミの味方だよ。キミを助けたから、あなたも私を助けて。」
「判った。何をすればいい?」
「じゃあ。学校が終わったら、またここに来て。」
「わかった。」
その時、チャイムが鳴った。
オレは、メガネを拾いかけると、その女の子は見えなくなった。
(やっぱりな。でも約束したし、イヤな気はしなかったから、終わったら来てみよう。)
一通りその日の授業を受け、学校が終わると、先程の場所に着いた。
メガネをはずすと、女の子が現れた。
「何をしてほしいの?」
「うんとね。職員室の建物の裏に小さな社があるの知ってる?」
「うん。知ってる。」
「悪さするからって、鍵をかけてる所だろ。お札も貼ってたっけな。」
「うん。鍵を開けてそこの扉をひらいてほしいの。私、大切な用事があって行かなければいけない所があるの」
「判った。何とかする。」
「できれば。明日までにお願いね。」
女の子は微笑むとその場から消えていった。
まず、担任の鈴木先生に頼み込んだ。しかし、荒らされるからとの事で回答はノーだった。
しかし、オレも引き下がらなかった。
「飼育係だから、毎日朝来て開けたら掃除して、帰りに鍵をかけて帰るからお願いします。」
「ふうっ。そこまで言うならしかたないわね。はい、これが鍵ねしっかりよろしくね。」
「はい。わかりました。」
オレは喜んで鍵をもらうと、家に帰った。
帰り着くと真っ先に、鍵に紐を通し首からぶら下げ落とさないようにした。
次の日の朝、学校に行くと真っ先に社のお札をはがすと、扉を開け掃除をした。
メガネをはずし、辺りを見回したが、女の子はいなかった。
その日の授業を終え、帰りにお社に行きメガネを取ると、女の子が待っていた。
「ありがとう。約束を守ってくれて。助かったわ。出雲大社って所に行ってたの。」
「今日から11月でしょ。」
女の子はにっこりと微笑んだ。
「いづもたいしゃ?」
オレはどのあたりでどういう場所かさえ知らなかった。
「名前・・・」
「えっ?」
「名前なんていうの?」
「わたしは、タギリ ありがとう。」
と言うと、女の子は社の中に消えていった。
「タギリちゃん。」
呼んでも返事は無かった。
その日から毎日、社の扉の開閉と掃除はオレの日課となった。
あの、タギリという女の子に会えないかと思いながら、、、
これがオレの初恋だったのだろうか?
人ではないモノに恋してしまったのかもしれない。