『肆の噺:ブランコの女』
退院してから視力が落ちた代わりに見えざるモノははっきりと見え始めた。
しかしメガネをかけている時は、イヤな気配は感じるが見えなかった。
なので、寝る時以外はまずメガネをはずさなかった。
その時期、流行った風疹はなりを潜め、変わりに男の子の間でスカートめくりが流行った。
オレも、お調子モノなので、スカートめくりに参加していた(笑)
でも、女の子からは、特に嫌われる様子は無く、楽しく過ごしてた。
そんなある日、中休みにブランコで遊んでいるとイヤな気配を感じた。
早々にブランコを降り、教室へと帰ろうと歩き出すと、1年生の女の子がブランコに乗ろうと
駆け寄ってくるのが見えた。
瞬間、ヤバイと思い。メガネをはずすと、今まで乗っていたブランコに気味の悪い女の人が座っていた。
女の子は、さらにブランコに近づき座ろうとする。
「あぶない。」
オレは、叫びながら女の子に近寄ろうとした瞬間、頭に鈍い衝撃が走った。
ゴンッ
オレはその場に倒れこんだが、すぐに立ち上がりブランコの方へと目線をやる。
周りは静まり返り、ブランコに座っていた女の人の口元がニヤリと歪む。
そのままブランコの方を見ていると、目の前の景色と女の人が真っ赤になっていく。
何が起こったのかわからず、目に手を当てると、手が真っ赤に染まっていた。
それと同時に、周りの音が返って来た。
「わ~わ~わ~。」
皆、オレの周りに集まり騒いでいる。
「先生呼んで来い。」
上級生が叫ぶ。
オレはその場に立ち尽くし、頭から血が流れ出している。不思議と痛みは全く無かった。
職員室から飛んできた男の先生に、抱き上げられると職員室の方へ連れて行かれた。
連れて行かれている間、又例のブランコの方を見ると、女の人が悔しそうに地団駄を踏みながら消えていった。
オレは持っていたメガネをかけると気を失ったようだ。
気が付くと、病院のベッドで頭を包帯でグルグル巻きにされ寝ていた。
「2針縫ったからね。」
と病院の先生から言われた。
母親はタクシーを飛ばし、病院にやってくると、オレを連れ家へと帰った。
次の日からは痛み出し、発熱もしたが、一週間で抜糸して治った。
あの女の人は・・・休んでいる間ずっと考えていたが、オレを狙ったのか。女の子を狙ったのか。
両方だったのか。判るわけもなく、なるべく周りを確認して咄嗟に動くのはやめようと思った。