カシスオレンジ
お題:誰かの狼
テストの手応えとか、春休みはバイトするとか、恋の話とか。
サークルでやる飲み会って他愛もない話ばっかりだけど、なんか楽しい。
お酒には強くないけど、飲み会のわやわやとした喧騒って、結構好き。
私は端っこの方でちみちみ甘いカクテルなんかを飲んで近くに座った子の話を聞きながら、遠くの席でサークル一の美女と仲良く喋っている彼になんとなく目を向けていた。
明るい茶髪がよく似合う彼は、チャラそうにも見えるけど男らしくて、サークルでもムードメーカー的存在で、とっても頼りになるって、知ってる。
「ね、あの二人お似合いだと思わない?」
「思った!付き合ったりしないのかな。」
近くにいた女の子たちがコソコソってそんなことを言っている。
そうだな。
彼は恋人のこと大切にしそうだし、ああいう華奢な美女と並んだら、すごくお似合いだ。
私みたいな平凡な女なんか…。
そこまで考えて、慌てて頭を振った。
「え、どしたの」
「あ、ううん」
隣にいた子にびっくりされて、何でもないとはぐらかすと、またおんなじように他愛のない話が始まる。
あんな美女と張り合うつもりなどない。張り合えるとも思わない。
見てるだけいいのだ。
恋じゃない、憧れみたいなものだから。
みんなでお店を出て、サークル長が二次会く人はこっち~なんて声をかけている。
二次会に行く人たちから少しし離れていると、彼にポンと肩を叩かれた。
「帰んの?」
「あ、うん」
じゃあ一緒に帰ろうと彼は私の隣に並んだ。
彼は送り狼になるなよと茶化す友達には適当に手を振っていた。
私相手に送り狼もなにもと、思わず苦笑いしてしまった。
大学の近くに部屋を借りている私と彼は家が近いのだ。
だから、飲み会の帰りはこうやってよく二人で歩いて帰る。
「二次会行かなくてよかったの?」
「俺昨日ほとんど寝てないんだよねー。早く寝たくて」
「…あの子がいたのに?」
ぽろっと思ったことが出てしまった。
「…は?あの子?」
「あ、や、ほ、ほら、いくら家近いからってこう頻繁に一緒に帰ったりしてると、好きな子に誤解されちゃうよ…?」
取り繕うように言い訳めいたことを並べると彼の表情はだんだん硬くなっていき、自然と足が止まる。
「…あのさ。」
溜め息混じりに言葉を落とされて、彼の顔が見れなくてただじっと足元を見ていたら、彼のスニーカーが私のパンプスに近付いて。
「俺結構わかりやすくアプローチしてたつもりなんだけど」
彼はいつになく真剣な顔をして私の手を握った。
「いい加減気づかねぇ?」
思わず顔を上げるとまっすぐ私を見る彼と目が合った。
手を握るのも反対の手が、私の頬にそっと触れる。
「何で友達に送り狼になるなよなんて言われたか」
誰かの、じゃなく、私の。
…え?
私は顔が真っ赤になるのを感じて、
「…たし、先帰る!」
パチンと手を弾いて、気付いたら逃げるみたいに駆け出していた。
遠くで私を呼ぶ彼の声が聞こえたがもう何も考えられなくて、バタンと自分の部屋のドアを閉めたところで少し気持ち悪いことに気付く。
酔いの回ったままふらふらベッドに潜り混み、睡魔のされるがままに意識を手放した。
どんな顔して会ったらいいのか悩むのは次の日のお話。