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債の剣  作者: ShizukuNotePt
第1巻 請求通知
7/16

第4話 『水没書庫』 (前編)

都市は、町より大きくは感じられなかった。大きいのではない。深い。石と習慣が幾層にも積み重なり、陽光さえ「許可」になっているような深さだった。

彼らはカエルを、見ないふりの街路へ連れていった。市場の音はまだある――呼び声、まな板に当たる刃の乾いた音、何もない空間へ吠える犬。だがそれらは行列の背後に押しやられ、都市が長い時間をかけて学んだ「閉め切った幕」の向こう側に座っていた。

ヴェールの兵はカエルを突き飛ばさない。必要がないのだ。輪は、彼が円を出た瞬間に回廊へ変わった。槍の穂先は喉ではなく、選択肢へ向けられている。ブーツはまだ汚れていない。規律は、信じたい者にとっては今なお美徳に見えた。

リスは半歩前を歩く。肋骨に本を押し当て、背表紙が勝手に開かないよう押さえ込んでいるかのように。印章具は指の低い位置に収まり、静かに、しかし確かにそこにあった。皮膚に押された封印がそうであるように――無視しようとした瞬間に初めて存在を主張する。

「借り」がカエルの目の奥へ押し寄せていた。丁寧で、絶対的。声ではない。前へ進むことはすでに決まっている、次の一歩は足が上がる前に記録済みだ、と淡々と主張し続ける圧。

鐘の音はついてこなかった。

それが都市の慈悲だった。扉を閉めておくために、いちいち自分の存在を告げる必要がない。

鎖で刻印され、さらに刻印された手首が痛んだ――拘束され、次に指定された。傷のように脈打つ痛みではない。編集された感覚だった。皮膚の下の血に、流れてよい方向が指示されたかのように。

カエルは視線を低く保った。都市は、自分がどこを見ればいいかを、すでに教え込んでいる。

手。いつだって手だ。

広場ではない通りでも、人々はまず彼の手を見て、次に顔を「無関心」へ修正した。子どもが見つめすぎると、好奇心が負債になる前に手首をつかまれて引き戻される。パン籠を持つ男が一歩離れようとして、すぐに自分の足も見られていることを思い出し、動きを「水たまりを避けただけ」に見せかけた。

カエルはそれを見て、憎もうとした。

憎しみという概念だけがあり、その下には何もなかった。

それでも身体は反応する。胃の奥の締めつけ、目の裏の灼けるような熱。意味を持たない残り香――名指しを許されなかった火事のあとに残る煙のように。

「見ないで。」リスが振り返らずに言った。

「見てない。」カエルは答えた。

言ってから気づく。早すぎた。言葉が歯の裏で待機していて、書類を抱えて立っていたみたいに。

リスの歩調は変わらない。「なら、聞かないで。」

カエルは唾を飲み込む。「何を?」

「説明を欲しがる自分の飢えを。」彼女は言う。「それは告白になろうとする。」

カエルは笑いかけて、薄い息だけが出た。「何でも告白になる。」

リスは否定しなかった。

前方で道が狭まり、石造りの建物の間へ浅い下り坂になった。窓は小さく高く、光は資格がないと与えられない特権に見えた。空気が湿り気を帯び、匂いが変わる。羊皮紙の下に閉じ込められた川水、密閉瓶で寝かされすぎた墨。肺が「不法侵入」している気分になる匂いだ。

ヴェールの兵たちでさえ無意識に握りを直した。槍柄に指が食い込み、地面がずれるのを予期するように。

カエルの歩幅が遅くなる。

「借り」が押す。

それでも足は動く。

坂の終わりに、扉のように見えない扉があった。看板も紋章もない。ただ、偶然とは思えないほど清く切り出された石と、噛み跡のように埋め込まれた鉄枠。

鉄と石の隙間には、蝋が押し込まれていた。

ひとつの封ではない。

いくつも。

層になり、重なり合い、割れては押し直され、何度も繰り返された跡が「違う筆跡で同じ拒絶を書かれ続けた歴史」に見えた。

ヴェールの兵たちが止まる。

命令されたからではない。

空間そのものが、間を要求したからだ。

最年長の兵――さっきリスの蝋を監査した男――が一歩前へ出て、掌を横にして二本指を上げた。ほかは止まる。

リスは敷居で足を止め、頭をほんの少しだけ回して、カエルに横顔を見せた。目は見開かれない。だが視線のどこかが締まり、書類が新しい条項のために余白を詰めて折られるようだった。

「ここはヴェールの施設じゃない。」年長の兵が言う。声に、妙な種類の畏れが混じっていた。踏み込むことが侵入になるかもしれない場所に向ける畏れ。

「あなたの施設ではない。」リスは返した。

兵の口元が、言い返したいように動く。

だが、言い返さない。

ここでは墨に重みがある。ヴェールの男ですら、それが場所へ染み込むときの重さを感じる。

カエルは隙間の蝋を見つめ、胃が縮むのを感じた。吐き気ではない――認識だ。

来たことはない。

身体が否定する。

彼の中の何かが、この敷居を知っている。世界がすでに入場を決めていたから「許された」形を、知っている。

リスは印章具を上げる。叩くためではない。見せるために。蝋が最も厚い継ぎ目へ近づけると、道具が低く唸った。カエルはそれを奥歯で感じた。

蝋は光らない。

落ち着く。

ごく小さな変化。封印が、見覚えのある署名を認めたときのように。

リスは一度だけ息を吐く。安堵ではない――確認。

年長の兵は見ていて、一瞬だけ姿勢が揺らぐ。不安が、清潔で即時に立ち上がる。

「名前を言ったな。」彼は言った。

「提出したの。」リスが訂正する。

カエルの喉が動く。「それで、次は?」

リスは一度だけ彼を見る。目は落ち着いているが、広場ではなかった髪の毛一本分のひびが静けさに走っていた。

「今から、」彼女は言う。「あなたは見世物じゃなくなる。」

慈悲に聞こえるべき言葉だった。

新しい分類に聞こえた。

リスは一歩踏み出し、蝋の継ぎ目――層が最も厚い場所――に印章具を押し当てた。

カチリ。

音は小さい。

効果は小さくない。

鉄枠が、歯を思い出した錠前みたいに深く唸る。蝋の継ぎ目がわずかに内側へ引き込まれ、整列させられるように締まった。

そして扉が開いた。

外へではない。

下へ。

石の板が、急ぐ必要など一度もなかったものの忍耐で建物の内側へ滑り込む。暗がりから空気が吐き出された――湿って濃く、紙の重さを含んだ息。

カエルの皮膚が粟立つ。温度ではない――注目だ。

ヴェールの兵が一斉に身構える。槍が傾く。空間を広げ、支配し、占有する――鉄を持って来た者が場所を所有できると教え込まれた男たちの反射。

空間は気にしない。

兵たちは、自分たちが脇へ退いたことに気づかないまま退いた。

回廊は「無関係」という理由で緩んだ。

リスが先に入る。

カエルは、ほかの選択肢を知らない足に連れられて続く。

ブーツが敷居を越えた瞬間、空気が変わった。肺が先に理解し、頭が名を与える前に感じ取る変化――圧。部屋へ入ったとき、礼儀ではなく「あなたが入ったことで人数が変わったから」会話が止まる、あの圧。

背後でヴェールの兵がためらう。年長の男が蝋の継ぎ目をちらりと見た。気に入らない行がそこにあるかのように。

それでも入った。

ヴェールの規程は同行する。……妥協じゃない。取り立てだ。

背後の石が、ページが閉じるような柔らかい音で封じた。

闇が「起きる」のではない。

闇は「配置される」。

薄い青灰色の光が壁に貼りついている。灯火でも炎でもない。湿って淡い何かが石に埋め込まれていて、骨が「読むために必要なだけ」光を出すことを覚えたみたいだった。

通路は地下へ傾き、棚の並ぶ回廊へ続く。

図書館の棚ではない。

書庫の棚だ。鉄の枠、麻紐で縛られた紙束、蝋封の包み、整然とした札。

空気は塩と古い墨の匂い。

どこか深い場所で水が滴る。遅く、一定で、聞いているかどうかなど気にしない時計みたいに。

カエルは近くの束を見つめ、口が乾くのを感じた。

札は墨書きではない。

圧印だ――封印で強く押し込まれ、紙に痣が残るほどの。

債権霊が肩口に漂う。金属の目が薄い光を映すが、いっさい取り込まない。喋らない。必要がない。ここはこの存在の言語で喋っている。

リスは小さく制御された歩幅で進む。視線は前、姿勢は硬い。棚に触れない。袖で擦りもしない。

近づくことすら、ここでは費用に見えた。

回廊が広い部屋へ開けるところで、ひとりの人物が待っていた。

兵ではない。

書記でもない。

黒く、水を弾く布を着た男。喉元に細い淡色の帯――誓いに似ているが、ヴェールの布ではない。儀式ではなく墨によって押し固められた、もっと古いもの。

手は裸だった。

それだけでカエルの皮膚が粟立つ。

この世界で裸の手は、無垢か権威かのどちらかだ。

髪は黒く、濡れたところから上がったばかりのように撫で付けられている。目は淡い。債権霊の金属の目ではないが、書庫の薄明かりでは異様に見えるほど明るい。

腰には鍵の輪。一本一本が紙札と蝋でタグ付けされている。

古い鍵だ。

リスは三歩手前で止まり、印章具を低く構えた。均衡の位置。

「登記官リス・セラフィン。」彼女は言う。封印みたいに形式ばった声で。「拘束移管。緊急封じ込め。」

男の視線が彼女の手へ行く。

次にカエルの手へ。

そして――最後にようやく――カエルの顔へ。

広場以来、初めてだ。誰かが、彼の顔を「意味のあるもの」として見たのは。

カエルは、自分が何も感じないことをひどく憎んだ。

男の視線がまた下へ滑る。カエルの手首へ。鎖へ。その下の冷たい指定印へ。

表情は変わらない。

だが空気が変わる。

ごく小さな締まり。再計算。許可もなく列が再集計されるような。

「ヴェールを中へ連れてきたな。」男は言った。

非難ではない。

記録された事実だ。

年長のヴェール兵が一歩前へ出る。顎を上げ、主張の準備をして。「ヴェールの権限により――」

男は指を一本上げた。

二本ではない。

一本。

兵の言葉が、息の途中で死んだ。音そのものが封印で打ち止められたみたいに。

カエルは歯の内側でそれを感じた。話すことが高くつく圧。音節ひとつひとつに手数料が要るみたいな。

年長の兵の目が細くなる。顎が締まる。

彼はもう一度試す。言葉の形に空気を押し込んで――

――出てきたのは間違いだった。彼の声ではない。どんな声でもない。意味のない乾いた吐息。封じられた扉に当たる風みたいな。

男の指は動かない。

兵の喉が動く。彼は語を探した――階級、規程、名札。自分の制度の中で安全になるためのラベル。

口が開く。

何も出ない。

拒否ではない。

削除だ。

一瞬だけ、視線が内側へ跳ねた。頭の中で失われた語を繰り返そうとして、そこに「空の枠」しかないことに気づいたかのように。

彼は固く唾を飲む。どこか深いところから語を引きずり上げようとするみたいに。

男が指を下ろす。

音が、何事もなかったかのように部屋へ戻る。

だが年長の兵は、もう喋らなかった。

槍を握る手が白くなる。

彼は課された。

書庫は即座に回収した。

カエルの胃が縮む。恐怖でも哀れみでもない。

理解。

ここには独自の処理がある。

淡々と。

静かに。

リスの視線が鋭くなる。「書庫守。」彼女が言った。

なるほど。そういう分類か。

書記でもない。

司書でもない。

守――どの言葉を残し、どの言葉を世界から消すかを決める者。

書庫守の淡い目が、リスの印章具へ戻る。「現場優先を使ったな。」

「使った。」リスは平坦に言う。

「代価は払ったか。」

リスは答えない。

答える必要がない。

顎が一度だけ小さく動く――抑えた動き。カエルは広場での彼女の瞬き、パンへ伸ばした手の遅れ、応じた空気を思い出す。

書庫守は彼女を、必要以上に一拍長く見た。

それからカエルへ視線を戻す。

「名を。」彼は言った。

カエルの口が反射で開く。

「借り」が押す。

音節が喉の奥で並ぶ。狭い投入口へ無理やり押し込まれる書式みたいに。自分の名の形、そのリズム、「自分のもの」があるという居心地。

だが次の瞬間、冷たく残酷な空白が口を開け、形は崩れて無へ落ちた。

カエルは口を閉じる。

公衆の場で再び失敗するより、沈黙のほうが安い。

リスが代わりに言った。「カエル・アーデン。」

姓が、書庫に重りとして落ちた。

水面の跳ねではない。

深く、遅い置換。

棚のどこかで紙がずれた。束が、ずっと待っていた音を聞いたみたいに落ち着く。鉄枠に積もっていた埃が細い線になって滑る。

書庫守の目は見開かれない。

だが腰の鍵の輪が、ひとつだけカチリと鳴った。自分で動いたみたいに。

年長のヴェール兵が小さく息を漏らす。屈辱の味がする苛立ち。

書庫守は彼を見ない。

鍵を見る。

それからカエルを見る。

「担保。」書庫守は言った。封印を読み上げるみたいに。「名指し保証。」

カエルの胃が縮む。

気にしたからではない。

身体が「縮減」を知っているからだ。

書庫守は脇へ退き、さらに奥へ続く細い歩道を示した。

「何にも触れるな。」平坦な声。「手でも。目でも。必要以上は。」

誰に言っているのか、とカエルは聞きかけた。

口は動かない。

書庫守の視線がリスへ滑る。「セラフィン官は棚の中で刻印しない。」

リスの指が印章具を強く握る。一瞬、立ち上がる怒りは手続きには見えなかった。条項で狭められた隙間から、人間の部分が息をしようとする顔だった。

「扉には押した。」彼女は言う。

「継ぎ目に押した。」書庫守が訂正する。「書庫に押したのではない。」

リスは見返す。

それから一度だけ、短く頷いた。

同意ではない。

受け入れだ。

書庫守の目が、カエルの手首へ戻る。

「指定は新しい。」

カエルは唾を飲み込んだ。喉が擦れた。なぜ飲み込んだのか自分でもわからない。ただ、追い詰められた人間がやりそうな動きだった。

「新しい墨は滲む。」書庫守は続ける。「新しい蝋は圧を覚えている。そして、新しい負債はうるさい。」

彼は、ついて来るかどうか確かめもしないで歩き出した。

彼らはついて行く。

部屋は、さらに浅い下りを越えて広がった。滴る水の音が大きくなる。水が増えたからではない。ここでは沈黙が意味を持つからだ。

棚が薄明の奥まで伸びる。鉄の枠は肋骨みたいで、束は臓器みたいだった。どれも封じられ、札を付けられ、整いすぎていて、カエルの皮膚がむず痒くなる。

部屋の中心には黒い水溜まりがあった。ガラスみたいに静かな水面、石で縁取られた円。

自然の水溜まりではない。

盆だ。

貯水槽だ。

水没書庫。

水は塩と古紙の匂いがした。船ではなく秘密を運ぶことを覚えた海みたいな匂い。

書庫守は盆の縁で止まった。

水は見ない。

カエルを見る。

「なぜ沈めたか、わかるか。」

カエルは答えない。

リスが代わりに言った。平坦に。「火。」

書庫守は、ほとんど頷くだけだった。「それと盗難。」

淡い目が鋭くなる。

「言葉は燃える。言葉は盗まれる。だから、手が躊躇する場所に置く。息が『気をつけろ』と覚えている場所に。」

彼は盆を示した。

水面の下に形が見えた――束、封じられた包み、鉄の檻。

水の中の紙。

溶けない。

保存されている。

書庫が、空気より水のほうが安全だと判断したみたいに。

年長のヴェール兵が身じろぎし、槍の石突きが一度だけ石に当たった。

音が、必要以上に長く反響する。

書庫守の視線が槍へ跳ねた。

兵の身体が固まる。

書庫守は指を上げない。

ただ見る。

年長の兵の口が開いた。謝罪か、規程語か、そういうものを出そうとして――

――止まった。音になる前に死んだ。書庫がそれを受け付けないみたいに。

槍は二度と動かない。

カエルはまた圧を感じた。音が評価され、費用が割り当てられる圧。

リスがカエルへ半歩寄る。触れない距離で、それでも倒れたら最初にぶつかる壁になれる距離。

「長く覗き込まないで。」彼女は小さく言った。ヴェールの男たちが聞かなかったことにできる音量で。

カエルの喉が動く。「どうして?」

リスの視線は水面を離れない。「見返されるから。」

カエルは水を見つめ、皮膚が粟立つのを感じた。

想像ではない。

注目だ。

「借り」が目の奥で押し、恐怖を「役に立つ服従」へ変えようとする。

盆は「借り」など気にしない。

盆は数える。

債権霊がさらに近づく。金属の目が水没した束へ固定され、沈黙の中に保管された負債の匂いを味わうみたいに。

「遅れている。」それは小さく言った。ここへ入ってから初めての言葉だった。「利息は続く。」

書庫守が霊へ頭を向ける。

驚かない。

認識する。

口の端がわずかに締まった。望まない印を自分の書類に見つけたときみたいに。

「債権者を連れてきたな。」書庫守はリスへ言う。

「招いてない。」リスが返す。

書庫守の視線がカエルへ。

「おまえが招いたのか。」

カエルの唇がわずかに開く。

「借り」が押す。答えを出させようとする。言葉を出せば、それは同意として残せるから。

カエルは口を閉じた。

リスが短く言い切る。「彼は同意してない。」

書庫守はカエルの顔を、居心地の悪い長さで見た。少年と記録の道具、その差を測るみたいに。

それから視線を外す。

「その区別は意味を持つ。」書庫守は低く言った。「意味を持たなくなるまでは。」

彼は鍵の輪から一本を取った。最大でも最小でもない、紙札を麻紐で結び、蝋で封じた鍵。

蝋には見覚えのない紋が刻まれていた。円を縦線が貫く――針が目を通るみたいな印。

書庫守は親指を蝋へ押し当て、割った。

音は小さい。

不穏だった。

乾いた皮膚が裂ける音に似ている。

カエルの胃が跳ねる。吐き気ではない――広場で聞いた音の記憶だ。封が割れ、頁がめくられ、記載が取り返しのつかないものになる音。

書庫守は眉ひとつ動かさない。

紙札をリスへ向ける。「名で入庫を通したな。備考を見せろ。」

リスの顎が固くなる。

彼女は本を開いた。

小さく、正確なカチリ。

ペンが走る。一行、もう一行。書くことで思考が取られないようにしているみたいに。

彼女は本の裏から小さな紙片をちぎった。最初から切り取り線が入っている、訓練のための紙。角へ印章具を押し当てる。

カチリ。

紙は封を受け入れ、ほんのわずかに落ち着いた。教え込まれた圧に蝋が従うときの、ほとんど優しい沈み。

リスは指が触れないようにして書庫守へ渡す。

書庫守は二本指で受け取り、噛みつくものでも扱うように読む。

カエルは書庫守の目の動きを見て、書庫の何かがずれるのを感じた。

空気ではない。

数だ。

部屋が、誰かがある一行を認めるのを待っていたみたいに。

書庫守が紙片から目を上げる。

カエルを見る。

「おまえは古い鍵を持っている。」

カエルはどう答えていいかわからなかった。

わからないことは、恐怖よりも形がなくて苦しい。恐怖にはまだ輪郭がある。

書庫守は盆の縁に沿って歩き、鉄枠が水へ沈む壁際へ向かった。鎖が盆の中へ垂れ、何か水没したものへ繋がれている。

彼は石に埋め込まれた鉄の錠へ鍵を差し込んだ。

錠が、分厚く渋い音で回る。

鉄枠の一部が水面から持ち上がった。滴る。

檻だ。

中には油布に包まれ、鎖で縛られた封包が入っている。鎖を留める蝋印が三つ――それぞれ違う紋。

それは古かった。

古びているのではない。

負債としての「古さ」だ。まだ執行可能な古さ。

書庫守は滴る檻を石の台へ置き、手で示した。

「触るな。」もう一度言う。

だが視線はカエルの手ではない。手首だ。鎖だ。その下の指定印だ。書庫の勘定に触れることが危険だと告げる印。

リスが一歩前へ出て、檻の手前で止まる。

印章具が浮き、下がる。

押さない。

押せない。

彼女は書庫守を見る。「開けて。」

書庫守の淡い目が細くなる。「規則は知っているだろう。」

リスの声は制御されている。「なら、私の代わりに読んで。」

書庫守はヴェール兵たちへ一瞬視線を送った。これがどの程度の注目を呼ぶか計る視線。年長の兵は、許可が罰になるまで待つことに慣れた目で見ている。

書庫守の顎が固くなる。

そしてカエルへ向き直った。

「自分の記録を自分で読むと、書庫は取り立てる。」

カエルは見返した。

「どういう意味だ?」

言葉が口を出た瞬間、部屋の圧がきつくなる。質問が「条件提示の要求」として記録されたみたいに。

「借り」が喜ぶ。入り口を見つけたから。

書庫は無視する。

書庫守は慰めではなく手続きとして答えた。

「ありふれたものを取る。」

「代価は大げさじゃないと覚えさせるために。」

カエルの胃が縮む。

リスが広場で囁いた、茶、蜂蜜、パンを思い出す。

ありふれた言葉。

ありふれた温度。

失って初めて守りたくなるもの。

リスの目が鋭くカエルへ飛ぶ。警告。優しさではない。戦略だ。

「だめ。」

何が、だめなのか。読むな、尋ねるな、好奇心を同意として残させるな。

カエルには判別がつかない。

書庫守は腰から細い鉄の道具を取り出した。印章具でも鍵でもない。肉を切るためではない薄刃。

蝋を切るための刃。

鎖の最初の蝋印へ差し込み、持ち上げる。

蝋が割れる。

鎖が緩む。

二つ目も同じ。

三つ目も。

割れるたび、小さく制御された暴力。

鎖が落ちた。

油布の包みが露わになる。麻紐で縛られ、さらに封じられている。別の蝋。もっと古く、もっと濃い。

書庫守は麻紐へ指を置き、止まった。

カエルを見る。

「確認しろ。」

カエルの口が乾く。

何を確認する?

これを望むこと? 取り立てを受け入れること? 墨の一行と引き換えに、また何か人間的なものを失うこと?

「借り」が目の奥で丁寧に押す。選択そのものを帳簿の記載にしたがる。

カエルは答えなかった。

代わりに顎を上げる。

反抗ではない。

払える範囲の、ぎりぎりの主体性。

書庫守はそれを署名のように読んだ。

一度だけ頷く。

そして包みを開いた。

中身は紙だった。

脆くない。

汚れていない。

保存されている。

折り畳まれた文書。縁は古さに似合わず綺麗で、墨は乾いたことがないみたいに濃い。

書庫守は注意深い手つきで広げる。

カエルは自分でも気づかないうちに身を乗り出していた。

文字は町の一般的な筆ではない。

もっと古い。

もっと整っている。

言葉ではなく法に見える筆致。

頁の上部に見出しがあった。

発行行。

権威の印。

広場の作業用写しには欠けていたもの。

カエルの胃が落ちる。

恐怖ではない。

構造の認識。

書庫守の目が行を追う。

一度止まる。

それから、ゆっくり読む。名前が出るたび、書庫が彼の注意をより正確に要求するみたいに。

書庫守は顔を上げ、リスとヴェール兵たちの向こう――カエルを見る。

「カエル・アーデン。」

カエルの皮膚が粟立つ。

リスの指が印章具を握りしめ、手袋に皺が刻まれた。

書庫守は天気を読み上げるみたいな声で続ける。

「指定:担保。」

カエルの顎が締まる。言葉が骨へ鎖を締めるみたいに感じる。

書庫守の目が文書へ戻る。

「入庫備考。」

そして止まる。

演出ではない。

再計算だ。

次に口を開くと、部屋が傾く。条項が世界を変えると認識したとき、部屋が息を詰めるように。

「水没書庫――制限庫。」書庫守は読む。「許可者――」

声が、初めて揺れた。

恐怖ではない。

信じられなさ。

彼は一度だけ、ゆっくり唾を飲み込む。唾を飲むことすら代価みたいに。

「許可者:アーデン家印。」

言葉が、カエルの内側へ鍵が回るように落ちた。

アーデン家印がどういう形か、彼は知らない。

身体は知っていた。

盆の水が、かすかな音を立てる。

跳ねではない。

ずれだ。

沈んだ何かが、その名を認めて動いたみたいに。

書庫守の腰の鍵の輪が、また鳴った。

二度、軽い金属音。

ずっと待っていた型を認めたみたいに。

リスの呼吸が一度だけ変わる。証拠として見ている者にしか気づけないほど小さく。

年長のヴェール兵の姿勢が固まる。槍を握る手が締まり、手続きひとつで削除され得る場所に立っていると悟ったみたいに。

書庫守はカエルを見る。紙の下にさらに線があるかのように。

「おまえは通されていた。」

「ヴェールが顔を覚える前から。」

カエルの口が開く。

「借り」が押し、疑問を「残せる形」に整えようとする。

彼は言葉を探した――誰が。なぜ。いつ。

出てきたのは、いちばん小さくて、それがいちばん怖かった。

「俺は……何になる?」

書庫守の視線がカエルの手首へ落ちる。鎖。冷たい指定印。

そして、容赦なく答えた。

「扉になる。」

書庫守の目はすぐに文書へ戻る。紙だけがこの部屋で一貫しているみたいに。

「条項。」平坦な声で読む。

「扉役務――取り立てに際し、名指し担保は制限庫への通行を認証し、要求する部署を入場させること。」

書庫守は顔を上げる。書庫が突然、息をするにはきつすぎる場所になる。

「扉は選べない。」

「誰を通すかを。」


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