第3話『名簿』(前編)
彼は運ばれていった。まるで「運ばれること」そのものが管轄であるかのように。
槍の回廊は押すのではなく、追い立てる。人の身体と磨かれた鋼がつくる細い通路が、前以外のあらゆる方向を不法侵入に変えていく。ケイルの手首に刻印された鎖が、小さく、測るような間隔で引いた。痣になるほどではない。けれど骨に「次」を思い出させるには十分だった。
借りは、彼の目の奥に居座った。丁寧で、絶対だ。声ではない。思考ですらない。結論だけを携えて押し寄せる圧力。
リスは半歩前を歩き、帳面を肋骨に押し当て、刻印具を指先で天秤にかけるように支えていた。呼び出せる権限がまだそこにある、とでも言うみたいに。振り返らない。振り返る必要もない。背筋が言っていた。私はここにいる。これは封じられている。上書きされるまでは、私のものだ。
剣霊はケイルの肩口に漂い、行列の一部であるかのように当然の顔をしていた。金属の視線は顔にも群衆の端にも彷徨わない。何度も、何度も、彼の手に戻ってくる。掌に噛み合うべき場所を見つけたかのように、エイドブレードの柄がそこに固定されている。
倉庫の外で、昼の光が彼の皮膚に触れた。
温かいとは感じない。説明のように感じた。
それは「感じる」ではなく、「感じたことの記憶」でしかわからなかった。世界が彼を撫で、身体は経験の代わりに従順で応じる。
町の奥で鐘が一度鳴った。
そしてもう一度。
意図的に落ち着いた間隔の、二つの澄んだ打音。合図と確認。そんなふうに街が整う。屋台が微かに動き、会話が薄くなる。槍の回廊が通ると、人々は振り向いた。恐慌でも怒号でもない。見届けるべき時と、役に立っていればいい時を知っている者たちの、静かな精密さだった。
ケイルは、彼らが自分を見るのを見ながら、羞恥が湧くのを待った。
何も湧かなかった。
欠落はもう衝撃ではない。滑らかで、即時だ。羞恥が形になるはずだった空間を感じ、その空間が閉じるのを感じた。
彼らは干し魚と粗織りの布を積んだ木箱の脇を通し、酢と鉄の匂いがする樽の前を通した。商人たちは籠を胸に抱えた。パンや果物に近いことが無罪の証明になるかのように。頬に泥の筋をつけた少年が咀嚼を止め、ケイルの手を見つめた。
顔ではない。
手だ。
手。
いつも手。
胃の底に締めつけが生まれ、それは吐き気にまで膨らまなかった。封じられたままに留まる。許可をもらえず、増幅できない反射みたいに。身体は危険を記録し、頭はそれを処理しない。
町は雨に放置された縄の匂いがした。炊いた穀物。石に押しつけられた煙。人が生きている匂いのはずだった。
けれどそれは、人間ではなく、配置だった。
リスの声が、振り向かないまま割り込む。
「話しかけるな」
ケイルの唇は、それでも開いた。抵抗したい衝動のほうが、選ぶ力より先に来る。
「頭の中にいる」
「わかってる」彼女の視線は彼へ移らない。横顔の縁に浮かび、沈黙と損傷の距離を測っているようだった。「じゃあそこに閉じ込めておけ。空気を与えたら、音だけじゃ済まない」
笑おうとした。出たのは薄い息だけだった。
鐘がもう一度鳴り、町は空を押し縮める石の輪へと開いた。
ヴェイル広場が中心で待っていた。避けられないもののように。
輪は高くなっていない。高くする必要がない。石は反復で淡く磨かれ、縁は事故にはきれいすぎた。周縁にはかすかな暗みがある。ずっと昔に石へ染み込み、完全には拭えなかった何か。
天幕と屋台がゆるい外輪をつくり、人々は隙間を埋めた。見えない境界を越えずに。身を乗り出すのは、見えるだけ。介入できるだけは、しない。
回廊が細くなる。
鎖が引く。
ケイルの靴底が石に触れ、音の変化が不快なほど鮮明に届いた。ここでは足音すら違う。平たく、鋭く。地面が到着の証明を要求しているみたいだった。
輪の中心で、男が跪いていた。
手首は前で縛られている。礼儀の形をした姿勢。屈辱を手続きに見せるための妥協。皮膚には契印が押されていた。左右対称で、正確すぎる。苛立ちが形を持ったように。
ケイルが近づくと、跪いた男は顔を上げた。
一瞬だけ、ケイルは希望を見た気がした。
だが男の視線はケイルの顔を滑り、手の中の剣へと移り、希望はもっと鋭いものに潰れた。
「やめてくれ……」男は囁いた。「頼む。頼むから、俺は――」
審問官が石の上に足を踏み入れた。
近づくのを見たわけではない。白い外套が、最初からそこにあったみたいに輪の中に存在した。銀の縫い取りが光を拾うが、温度はない。ヴェイルの布が目を隠し、黒い布が手首を巻いていた。儀式めいて見えて、決定の感触があった。
彼は最初に跪いた男を見ない。
ケイルの手を見る。
握りに錨のように据えられた柄を見る。
手首に契印された鎖を見る。
回廊の口のすぐ外に立つリスを見る。あまりに正確な立ち方で、中立にすら見える。
「登記局の身柄管理です」リスは淡々と言った。
審問官は彼女を見ない。その省略が重かった。
「身柄を前へ」
兵が動く。槍の柄が肉ではなく空気を押し、ケイルの周囲の空間を圧縮した。前にしか進めない形へ。
彼は一歩踏む。
借りが押す。
もう一歩。
跪いた男の口が動く。言葉になりきらない破片が出て、意味が結びつく前に音が砕けた。
「帳簿に乞うな」審問官は言った。
大声ではない。
残酷でもない。
訂正だった。
跪いた男は唾を飲み込み、視線を剣に縋らせた。最後の交渉相手が物だと思い込むように。
ケイルの指が、許可なく柄を締めた。
決断ではない。
整列だ。
同意を必要としない反射みたいに、その動きが身体の奥から通り抜ける。
剣霊がわずかに首を傾けた。
「支払いは発生している」そう告げた。
群衆の呼吸が同期して、ひとつの息を止めた沈黙になる。
ケイルは抵抗を探した。
怒り。
恐怖。
嫌悪。
見つかったのは、硬化した落ち着きだった。深すぎて底が見えない水面に霜が張ったような。反射するはずの部分は無傷で残っているのに、手が届かない。
リスが身を寄せ、袖が彼の前腕に触れた。
「ケイル」彼女は静かに言った。「私を見て」
彼は見た。
彼女の目は揺れない。空でも冷たくもない。ただ、配置されている。人間の部分が規律の背後へ圧縮されていた。
「従え」リスは言う。「私に」
喉が締まり、声が擦れた。「やれって言うのか」
「終わったあとも立っていろって言ってる」
慰めではない。
戦略だった。
彼女は半歩だけずれた。跪いた男の必死が、ケイルの視界にまっすぐ入り込まない角度へ。露骨にはしない。けれど守り方が、自己主張しない形でそこにあった。
外輪から細い泣き声が上がった。
赤ん坊だ。
ケイルの目は、選ぶ前に動いた。女が包みを胸に抱え、反射のように揺れている。幼い口が開き、結果を知らない音がこぼれた。
何かが胸の奥で起きるのを待った。
庇う反射。
反対する衝動。
泣き声は当たって、散った。
彼はそれを気圧の隙間みたいに感じた。痛みでも罪悪感でもない。本能があるべき場所の、清潔な空白。
目が焼ける。
身体だけが抗議し、感情は許されない。
審問官が手を上げた。
掌は下へ向けて宙に浮かぶ。
広場がその動きに合わせて締まった。
跪いた男は震えたが、逃げようとはしない。ここでは震えにも規則がある。
手が、わずかに下りる。
そして止まる。
審問官が頭を巡らせた。
「書記」
兵の背後から一人が進み出た。
鎧でも、儀式の法衣でもない。暗い布の男。震えるのは指ではなく、節のあたりだけ。折りたたんだ一枚を胸に抱え、世界から守るようにしている。
それは一目でおかしかった。黒すぎる。平たすぎる。布でも紙でもない。反射するのではなく、吸い込むもの。
ケイルの胃が縮んだ。
リスの刻印具が、ほとんど聞こえないほどの低い唸りを漏らした。鋭く制御された音。
書記は審問官の隣で止まり、折られたそれを両手で掲げた。
彼の目はケイルの顔に行かない。
剣へ。
鎖へ。
封じられているという事実へ。
声は脆く、言いかけた。
「封じ込みの議題――」
リスの視線が跳ねる。
言葉が喉で死んだ。
続いた間は沈黙ではない。再計算だった。
審問官は叱らない。
ただ注意を向け直す。
「開け」
書記は従った。
暗い一枚は、外気の中でゆっくりとほどけた。
最初は、何もないように見えた。
やがて線が浮かぶ。微細で、影を帯び、闇そのものに刻まれたみたいな列が形になる。露出に誘われるように、項目が可視化されていく。
群衆は境界を越えずに身を乗り出した。
ケイルの肺が反射で膨らむ。決着を期待して。
決着ではない。
宣告だった。
書記の目が列を下っていく。
止まる。
一度。
二度。
肩が落ち着いた。
彼は手放さずに、紙面を審問官へ向けた。
審問官は触れずに読む。
身を乗り出さずに読む。
急がずに読む。
リスの視線が紙面へ一瞬だけ走り、すぐ外れた。顎の筋がほとんど見えないほど締まる。
ケイルの目は、止める前に下へ流れた。
名。
ケイル、だけではない。
ケイル・アーデン。
姓は、手の剣の重さより深く突き刺さった。何年も口にされるのを聞いていない。最後に書かれたのがいつか、思い出せない。
その横に、かすかな印。
その下に、ひとつの語。
担保。
息が引っかかった。
それは説明ではない。
縛りだった。
剣霊がさらに身を寄せ、金属の目に暗い面が映る。
声は落ち着いて届いた。
「担保は確定し




