第7話「ようこそ農園へ、空腹の珍客たち」
村の入り口に、数人の人影があった。
ボロボロの服を着た、痩せこけた人々。近隣の村から逃げてきた難民だろうか。
彼らは、再生した畑を見て呆然としていた。
「おい、あれを見ろ……野菜だ」
「嘘だろ、こんな荒野に」
彼らは空腹のあまり、今にも畑に飛び込みそうだった。
セシリアが前に出る。
「待て! 勝手に取ることは許さん!」
人々はビクッとして縮こまる。
「お、お慈悲を……子供が飢えているんです」
見れば、小さな子供を連れた母親もいる。
私はセシリアの肩を叩いた。
「いいよ、セシリア。食べる分には構わない」
「しかし、それでは規律が」
「働かざる者食うべからず、だ。タダではやらない」
私は人々の前に進み出た。
「俺はこの畑の持ち主、ハルトだ。あんたたち、飯が食いたいか?」
全員が必死にうなずく。
「なら、働いてもらう。この村の復興を手伝ってくれ。家の修理、水路の整備、畑の拡張。やることは山ほどある」
「は、働きます! 何でもします!」
代表らしき男が叫んだ。
「よし。契約成立だ。まずは腹ごしらえと行こうか」
私は荷馬車から大鍋を降ろした。
今日のメニューは、町で仕入れた肉と、畑の野菜をふんだんに使った「豚汁」と「炊き込みご飯」だ。
大鍋で具材を炒め、水を注ぐ。煮立ったら、今回新しく作成に成功した「試作味噌」を溶き入れる。
芳ばしい香りが漂うと、人々の目から光が消え、野生の輝きが宿った。
「並んで! 順番だ!」
セシリアが列を整理する。
椀に注がれた豚汁と、おにぎりを受け取った人々は、涙を流しながら貪った。
「あったけぇ……」
「こんなうめぇもん、初めて食った」
「母ちゃん、お肉が入ってるよぉ!」
その光景を見て、私も胸が熱くなった。
農家冥利に尽きる。自分が作ったもので、人が笑顔になる。これこそが農業の醍醐味だ。
その夜、廃村だった場所には、久しぶりに人々の笑い声と、焚き火の明かりが戻った。
セシリアが私の隣に座り、お茶(大豆を煎った大豆茶)をすする。
「貴殿は不思議な人だ。魔法使いのように作物を育て、商人のように交渉し、聖人のように施す」
「買い被りすぎだ。俺はただ、自分の畑を大きくしたいだけさ。人手が増えれば、それだけ多くの作物が作れるだろ?」
「ふふ、そういうことにしておこう」
セシリアは柔らかく微笑んだ。その笑顔は、最初に出会った時の騎士の顔とは違い、年相応の少女のように可愛らしかった。
こうして、私の領地経営……いや、農園経営が本格的にスタートした。
だが、問題がないわけではない。
人手が増えれば、それだけ食料も必要になる。そして、この奇跡の農村の噂は、すぐに広まるだろう。
良からぬ連中が目をつけないはずがない。
私は夜空を見上げた。
北の空に、不気味な赤い星が瞬いているのが見えた。
『警告:季節外れの【大厄】が接近中』
脳内アナウンスが不穏なことを告げる。
大厄? なんだそれは。
節分の敵といえば鬼だが、まさかそれ以上の何かが来るというのか。
私はポケットの中の豆を握りしめた。
何が来ようと、守り抜いてみせる。この畑と、ここの仲間たちを。
「マメゾウ、明日は忙しくなるぞ」
「マメッ! マカセロ!」
小さな相棒の頼もしい返事を聞きながら、私は眠りについた。




