表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界節分ライフ~外れスキル【豆まき】で荒野を楽園に変えたら、空腹の女騎士が住み着きました~  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

第5話「今年の恵方は北北西、育つ野菜は規格外」

 セシリアは結局、恵方巻を三本も食べた。細い体のどこにそんな容量があるのか不思議だが、まあ元気が戻ったなら何よりだ。


 翌朝、私は彼女に畑を案内した。


 朝霧の中、露に濡れた作物がきらめいている。


「信じられない」


 セシリアは呆然としていた。


「私がここに来る前に見た報告書では、ここは草木も生えぬ不毛の大地だったはずだ。それが、たった一日か二日で」


「まあ、ちょっと特殊な肥料を使ってな」


 私はマメゾウが飛び出してこないかヒヤヒヤしながら答えた。彼は人見知りらしく、今はトマトの陰に隠れている。


 セシリアはキュウリの棚に近づき、ぶら下がっている実を触った。


「でかい。普通の2倍はあるぞ。それに、この瑞々しさ……魔力を帯びている」


「食べてみるか? もぎたてが一番うまいんだ」


 私は一本をもぎり、手で汚れを拭って渡した。


 彼女は疑り深そうにしながらも、パクリとかじった。


「!」


 目を見開くセシリア。


「甘い! 水菓子フルーツのようだ!」


「だろ? これが俺の自慢の『聖豆セント農法』で作った野菜だ」


 適当な名前をつけたが、彼女は真剣にうなずいている。


「聖豆農法……聞いたことがないが、すさまじい技術だ。これがあれば、領地の飢饉など一瞬で解決するではないか」


 彼女の表情が、騎士から領主代行の顔に変わった。


「ハルト殿。折り入って頼みがある。この農法を、いや、貴殿の力を私に貸してほしい」


「貸す?」


「私は左遷されてここに来た。だが、諦めてはいない。この荒れ果てた領地を復興させ、民を救いたいのだ。だが、私には剣の腕しかない。農業の知識も、資金もない」


 彼女は深々と頭を下げた。


「どうか、この通りだ。報酬は……今は払えないが、必ず報いる」


 その姿に、私はほだされてしまった。


 実直で、不器用。私の好きなタイプだ。それに、一人で黙々と農業をするのも悪くはないが、販路や社会的な立場があったほうが、何かと都合がいいのも事実だ。


「わかった。協力しよう。ただし、条件がある」


「なんだ? 何でも言ってくれ」


「俺の作る野菜を、一番美味しく食べてくれること。そして、俺の農作業の邪魔をしないこと。以上だ」


 セシリアは顔を上げ、きょとんとした。


「それだけでいいのか?」


「それだけが重要なんだ」


 こうして、私と女騎士の奇妙な共同生活(と領地復興)が始まった。


 さて、今日の本題だ。


 スキル【節分】には、「恵方」という概念がある。


 空中に浮かぶコンパスのような表示が、今年の吉方位を示している。


『今年の恵方:北北西』


 この方角に向かって事を行うと、ボーナス補正がかかるのだ。


「セシリア、ちょっと手伝ってくれ」


「何をすればいい?」


「そこの新しい畑に、この方向を向いて種を撒いてくれ。一言もしゃべらずにな」


「……? また何かの儀式か?」


 彼女は不思議そうだが、素直に従った。


 北北西を向いて、黙々と種を撒く女騎士。シュールな光景だ。


 しかし、効果は絶大だった。


 彼女が種を撒いたそばから、土が盛り上がり、芽が吹き出していく。


『【恵方植え】成功。成長速度500%アップ。病害虫耐性付与』


「な、なんだこれはっ!」


 しゃべるなと言ったのに、セシリアは驚きのあまり声を上げてしまった。


「ああ、しゃべっちゃったか。まあいい、効果は出てるみたいだし」


 目の前で急成長するのは、大根だ。白い肌が土から飛び出す勢いで太くなっていく。


「まるで生き物だ」


「魔物じゃないぞ。立派な野菜だ」


 私は引き抜いてみた。私の太ももくらいある極太の大根だ。


「よし、今夜はふろふき大根だな」


 セシリアの喉がゴクリと鳴る音が聞こえた。


 彼女はもう、私の料理の虜だ。


 そんな平和な時間を破るように、マメゾウが土から飛び出してきた。


「アルジ! タイヘン! アッチカラ、デカイノクル!」


 マメゾウが指差したのは、北の山の方角。


 セシリアの表情が険しくなる。


「あの山は……『赤鬼将オーガ・ジェネラル』の住処と言われている場所だ」


「将軍様のお出ましってわけか」


 どうやら、昨日の私の派手な乱れ撃ちと、今の急激な植物の成長による魔力の変動が、親玉を刺激してしまったらしい。


 地面が微かに振動し始めた。


「ハルト殿、逃げよう。ジェネラルは通常の赤鬼とは桁が違う。一軍で当たるような相手だ」


 セシリアが私の腕を引く。しかし、私は動かなかった。


「逃げる? せっかく育った大根を置いてか?」


「命のほうが大事だろう!」


「農家にとって、作物は命と同じくらい大事なんだよ」


 私はポケットの中の豆を確認する。残弾は十分。それに、今の私には強力な味方がいる。


「セシリア、剣は使えるか?」


「……侮るな。空腹でなければ、遅れはとらん」


「よし。じゃあ、今夜は大根料理に加えて、特別に『勝ち豆』も振る舞おう」


 私はニヤリと笑った。


 節分といえば、豆まき。そして、豆まきといえば、鬼退治だ。


 私の【節分】スキルの真価を見せてやる時が来たようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ