エピローグ「春を呼ぶ声」
数年後の春。
今日は、年に一度の「大節分祭」の日だ。
かつて赤鬼たちが我が物顔で歩き回っていたこの日は、今では最も賑やかなお祭りとなっている。
村の広場には櫓が組まれ、その上からハルトとセシリア、そして彼らの子供である小さな男の子が豆を撒いていた。
「鬼はぁ、外ォ! 福はぁ、内ィ!」
子供の元気な声が響く。
集まった人々は、我先にと豆を拾う。この豆を食べると、一年間無病息災で過ごせるという言い伝えがあるからだ。
人々の顔には笑顔しか見当たらない。
ハルトは櫓の上からその光景を眺め、目を細めた。
「平和になったな」
「ああ。だが、油断は禁物だぞ。祭りの後の片付けも戦争だからな」
セシリアが笑う。彼女の腕の中には、二人目の赤ん坊が眠っている。
空からは、マメゾウとその仲間たちがキラキラとした鱗粉を振り撒き、祭りを演出していた。
異世界に転生して、大豆を握りしめたあの日。
不安しかなかった荒野は、今、温かな幸福で満たされている。
ハルトは子供の頭を撫で、自分も一粒の豆を口に放り込んだ。
素朴で、噛みしめるほどに味わい深い、命の味。
物語はここで一区切りだが、彼らの「美味しい生活」は、これからもずっと続いていくだろう。
春風が、どこまでも続く緑の畑を渡っていった。




