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異世界節分ライフ~外れスキル【豆まき】で荒野を楽園に変えたら、空腹の女騎士が住み着きました~  作者: 黒崎隼人


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第11話「災い転じて福となす、勝利の朝」

 光が収まると、そこには静寂だけが残っていた。


 黒い泥流は完全に消滅し、空には雲の切れ間から満天の星空が顔を覗かせていた。


 村の北側に広がっていた荒野は、浄化の余波を受けて、一面の白い花畑に変わっていた。


 その花畑の中心に、黄金の鎧を解いたセシリアが立っていた。


 彼女はゆっくりとこちらを振り向き、ふらりと倒れそうになった。


 私は慌てて駆け寄り、彼女を支えた。


「セシリア! 大丈夫か?」


「……腹が、減った」


 彼女は私の腕の中で、力なくつぶやいた。


 あれだけの巨大恵方巻を食べた直後に、もう空腹とは。あのエネルギー変換効率は燃費が悪すぎる。


「ああ、わかった。すぐに何か作るよ」


 村人たちが歓声を上げて駆け寄ってくる。


「勝った! 勝ったぞぉぉ!」


「ハルト様、セシリア様、万歳!」


 男たちが私とセシリアを胴上げしようとするが、セシリアは「今は揺らすな」と弱々しく拒否した。


 翌朝。


 村は祝祭の空気に包まれていた。


 大厄を退けたことで、この土地の呪いは完全に解けたらしい。空気は澄み渡り、作物の成長速度はさらに加速していた。


 私は約束通り、勝利の宴を用意することにした。


 今回の主役は、もちろん大豆だ。


 だが、ただの大豆料理ではない。私は、日本が誇る最強の発酵食品、「納豆」を解禁することにした。


 実はこっそりと藁づとを作り、煮豆を発酵させていたのだ。


 糸を引く、あの独特の香り。


 好き嫌いが分かれるのは承知の上だが、この栄養価とスタミナ回復効果は、今の疲弊した村人たちに最適だ。


 大広間に集まった村人たちの前に、白米と味噌汁、焼き魚、そして小鉢に入った納豆を並べる。


「なんだこれ? 腐ってるのか?」


 誰かが鼻をつまむ。


「腐ってるんじゃない、発酵してるんだ。騙されたと思って、醤油をかけてかき混ぜて、ご飯に乗せて食べてみてくれ」


 私が手本を見せる。


 箸でかき混ぜると、空気が入り白く粘り気が出てくる。そこに刻みネギとカラシを少し。


 熱々のご飯の上にとろりと乗せる。


 口へ運ぶ。


 ……美味い。大豆の旨味が爆発的に増幅されている。


 恐る恐る真似をする村人たち。


 一口食べた瞬間、彼らの反応は二分された。


「うわっ、なんだこのネバネバは! でも……癖になる!」


「臭い! 無理だ! ……あれ? もう一口食べたくなるぞ?」


 セシリアは、最初こそ眉をひそめていたが、一口食べると目を見開いた。


「……濃い。チーズのような、深みがある。このネバネバが、白米と絡み合って喉越しを良くしている……ハルト殿、おかわりだ」


 どうやら彼女は何でもいける口らしい。


 宴は大盛況だった。納豆論争で盛り上がりながら、誰もが生きている喜びを噛み締めていた。


 その最中、村の入り口に見慣れない豪華な馬車が到着した。


 紋章がついている。王家の紋章だ。


 馬車から降りてきたのは、恰幅の良い初老の男性。王都からの視察官……いや、その威厳のあるたたずまいは、もしかして。


「よい匂いがするのう」


 男は護衛を制して、ずかずかと広場に入ってきた。


 セシリアが飛び上がり、最敬礼をする。


「こ、国王陛下!?」


 村中が凍りついた。


 国王自らのお出ましとは。どうやら、昨夜の黄金の光と浄化の波動は、王都にまで届いていたらしい。


 国王は私の前に立ち、ニカッと笑った。


「そなたが、この奇跡を起こしたという農夫か?」


「は、はい。ハルトと申します」


「うむ。堅苦しいのはよい。それより、その糸を引く奇妙な豆料理……余にもくれぬか?」


 まさかの納豆リクエスト。


 私は震える手で、国王陛下に納豆ご飯を差し出した。


 陛下は豪快にかき込み、そして唸った。


「見事じゃ! 余の疲れた胃腸に染み渡るわ!」


 どうやら、この国のトップもグルメだったようだ。


 こうして、私の作る「豆料理」は、国家認定の味となることが決定した。

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