第8話 視聴者との距離
ボス討伐の配信をやった翌日。部屋を出てギルドルームに入ると、賢者がスマホを掲げてニヤリと笑っていた。
「君たち! 初回配信とボス討伐配信が――トレンド入りだ!」
モニターにはSNSの画面が映し出され、切り抜き動画が大量拡散されている。タイトルには**「リオの落下芸」「泣きながら戦うユナ」**など、俺の顔から火が出そうなワードが並んでいた。
コメント欄も賑やかだ。
『新人ギルドやばいな』
『ユナちゃんの泣き声尊い』
『リオの落下芸マジ笑った』
「見たか!? 再生数20万超えてるぞ!」
「ファンレターきてる…!」
「悪くないな。こういう注目も、悪くはない」
リオ、カレン、レイナがはしゃぎ、ギルドの空気はお祭りムードだった。俺も嬉しさはあるものの、「見られている」という事実に落ち着かない気持ちが混ざっていた。
そんな中、ミアが冷静な声で言った。
「称賛だけじゃない。アンチも増えてる」
彼女がスマホを差し出すと、そこには刺さるようなコメントが並んでいた。
『ユナって女のフリしてるだけの元男だろ』
『泣き芸で人気稼ぐとかキモい』
『どうせすぐ解散する』
視界がじわっと滲む。その場では笑って誤魔化したけど、胸の奥に黒い重りが沈んだままだった。
夜。
俺はベッドに横になりながら、延々とコメント欄をスクロールしていた。褒め言葉もあるのに、なぜか悪口ばかりが頭にこびりつく。
「…やっぱ、俺、向いてないのかな…」
小さく声が漏れた。泣きそうになるが、応援してくれている人の顔が脳裏をよぎる。
――投げ出すわけにはいかない。
翌日。
沈んだ気持ちを引きずったままギルドルームに入ると、レイナが声をかけてきた。
「ユナ、お前気にしすぎだ」
「アンチなんて燃料だろ! バズってる証拠だぜ!」
リオも笑いながら肩を叩いてくれる。その勢いで少し笑いそうになるが、まだ胸の奥は重い。
「距離感も大事。配信は“演じる場”だと割り切ったほうがいい」
「でもユナちゃんの自然体が好きって人も多いよ」
ミアとカレンも、それぞれの言葉で支えてくれる。そんな中、扉が開いて賢者が入ってきた。
「答えは一つじゃない。君が“見られること”をどう楽しむか――それだけだ」
その言葉が、不思議と胸に残った。
昨日までのざらついた感情が、少しずつほぐれていく。
俺は深呼吸をして、ぽつりと呟く。
「…俺は、どうありたいんだろう」
まだ答えは出ない。けれど、この仲間たちとなら、見つけられる気がした。
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