第3話 賢者と出会う
賢者タワー訪問当日。俺は荷物を背負い、新幹線に揺られて都心へ向かっていた。
「...緊張してきた」
胸の鼓動が爆発しそうだ。やがて車窓に高層ビル群が現れ、現実感がじわじわ押し寄せてくる。
「ここが...賢者タワーか」
都心の真ん中にそびえるそのビルは、まさに摩天楼。首が痛くなるほど見上げても先端は霞んでいる。
自動ドアをくぐった瞬間――空気が変わった。天井から吊るされた巨大なシャンデリアが磨き抜かれた大理石の床に星屑のような光を散らしている。壁は金縁の額に囲まれた絵画で埋め尽くされ、香水のような上品な香りが漂っていた。
「...え、ホテル?」
場違いで足がすくむ。正面には重厚な木製カウンター、その向こうで受付の女性が笑顔を浮かべていた。
「お待ちしていました、水瀬悠様。賢者様が最上階でお待ちです。どうぞエレベーターへ」
促されるまま、ガラス張りのエレベーターに乗り込む。階数表示がどんどん上昇し、やがて''最上階''の文字で止まった。
ドアが開くと、そこには奇抜なインテリアの空間だった。壁はパステルカラーで塗られ、巨大なぬいぐるみや、意味不明な形の家具が並ぶ。
その中央に――白銀のロングヘア、派手なローブ、そして中性的な笑みを浮かべた男が立っていた。
「君は今日からボクの駒だ!」
「は、はじめまして...水瀬悠です...」
圧が強すぎて、自己紹介がままならない。
「君が最後だ!もう全員揃っているよ」
案内された部屋にはすでに4人の冒険者が集まっていた。
「全員揃ったところで自己紹介だ。まずはボクから。ボクは''賢者''。ダンジョン生成技術を生み出した冒険者だ!」
「じゃあ次は俺だな!佐伯蓮。剣士をやってる!C級冒険者だ!」
――蓮は豪快な笑みとガタイのいい体つきでいかにも兄貴肌。
「私は篠原透。魔法使いC級だ」
――喋りながらメガネをクイっと上げる仕草。絶対インテリだろこれ。
「オレは赤城悠馬。タンクをやっている!冒険者ランクはC級だ!」
――声がデカい。筋肉でモンスター押し返してそう。
「僕は日向真。僧侶をやっているよ。冒険者ランクはCだよ」
――おっとりとした口調、癒し系。僧侶って感じだ。
そして俺の番が来た。
「...水瀬悠です。後方支援をやっています。ランクはDです」
緊張で、情けないくらい声が小さくなった。ていうか俺だけD級...
「さて――自己紹介も終わったことだし、君たちを集めた理由を話そう!」
賢者は一呼吸おき、声を張り上げた、
「配信でバズるギルドを作るためだ!攻略だけじゃつまらん!視聴者を楽しませる、これが新時代の冒険者だ!」
...やっぱり配信か。募集要項に''配信活動に興味がある者''って書いてあったし、予想はしてたけど。でもこのメンツ、全員男だぞ?本当にバズるのか?
「んでもってさ――配信ウケするように、見た目も変えておこう!」
「「「「「は?」」」」」
賢者が指を鳴らす。瞬間、俺たちの体が眩い光に包まれた。体が軽くなり、視界が少しずつ高く――いや低くなっていく。光が収まると、そこには――女しかいなかった。
「これ...俺なの?」
鏡に映ったのは、黒髪ショートで小柄な、華奢な美少女。声も高く、胸までついてる。
「な、何だこの声!?」
「ちょ、待て!これは倫理的に...」
「オレ、胸...ついてる!?」
「...わぁ、かわいい...」
全員が動揺する中、賢者は満面の笑み。
「大丈夫!気にするな!今の方が可愛いしウケる!配信でバズったらすぐ慣れるって!」
「気にすんなじゃねえ!こんなのは絶対おかしいだろ!」
透が声を荒げるが、賢者はまるで聞いてない。
――でも俺は。
心のどこかで「これで変われるかもしれない」と思ってしまった。
賢者は高らかに宣言する。
「君たちは今日から『フェアリーテイルズ』!世界一可愛くて最強の配信ギルドになるのだ!」
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