第10話「終わりなき始まり」
朝。
夏の光がカーテンを透け、目蓋に差し込んでくる。
俺は、いつものように目を覚まし、天井を見つめた。
だが、もう心臓の痛みも、吐き気もなかった。
ただ、隣から聞こえる穏やかな寝息だけが、俺の心を満たしていく。
俺は、そっと隣を見る。
そこにいたのは、ほのかだった。
柔らかな黒髪、白い肌、そして、安らかな寝顔。
彼女は、俺のTシャツを借りて、まるで大きなスモックを着ているようだった。
俺とほのかが、二人で創り直した世界。
この世界は、もう七月三十一日ではない。
時計を見ると、八月一日、水曜日。
俺たちは、あの絶望のループを、完全に乗り越えたのだ。
ほのかは、目を覚ますと、俺を見て、にっこりと微笑む。
「おはよう、拓海くん」
その声は、もう震えていなかった。
そして、その笑顔には、もう虚無の影はなかった。
「おはよう、ほのか」
俺は、彼女の頭をそっと撫でる。
彼女は、まるで子猫のように、俺の手のひらに頬を擦り寄せた。
リビングへと向かうと、そこには朝食の匂いが漂っていた。
ほのかが、俺のために、朝食を準備してくれていたのだ。
俺たちは、二人で食卓を囲み、他愛のない話をした。
それは、俺が何度も繰り返したループの中で、決して叶うことのなかった、穏やかな日常。
「ねえ、拓海くん」
ほのかが、ふいに俺に問いかける。
「私たち、これからどうなるんだろうね」
その言葉に、俺は少しだけ考える。
確かに、俺たちの物語は、これで終わりではない。
絶望のループを抜けただけで、これから二人が歩むべき道は、まだ、始まったばかりだ。
俺は、ほのかの手を握る。
「大丈夫。俺たちが、二人でいれば、きっと大丈夫だよ」
俺の言葉に、彼女はゆっくりと頷く。
その瞳は、未来への希望に満ちていた。
俺は、ほのかを一人にした。
彼女は、俺を失った悲しみから、絶望のループを創り出した。
だが、その絶望のループの中で、俺たちは再び出会い、そして、お互いの存在の尊さを知った。
これは、誰かの死でしか変わらない世界ではなかった。
これは、「愛」で、世界を再構築する物語だったのだ。
そして、俺たちの物語は、今、始まる。
終わりなき、始まりの物語が。
お試し版なので、ここで完結済みにしておきます。