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目が覚めると妻が死んでいた

作者:

♫〜♪

何十年と聞いてもこの音は苦手だ。

私はまだまだ眠たい目をこすりながら携帯のアラームを止める。

携帯には6:00と表示されている。まだ仕事に行くまで時間はあるがここで寝てしまえば確実に寝坊するだろう。

そんなことを思いながら携帯を触り無理矢理脳を起こす。

ん?それにしても今日は妻が起きてない。

いつも私より先に起きている妻がまだ寝ている。

私は妻を起こさないよう静かに布団を後にした。

トイレに行き歯を磨き顔を洗う。自分なりに順番がある。

本気を出せば用意なんて5分で終わるがまだ脳が完全に起きていないのだろう、ダラダラ準備を進める。

6:20

やばい。ダラダラしすぎてしまった。今日はゴミ出しの日。ゴミ捨て場まで遠いわけではないが少しのタイムロスにはなる。

急いで着替えを済ませ、ゴミをまとめる。

ガシャガシャ

「くさ」

なんとも言えない臭い匂いが鼻を攻撃してくる。

6:35

もうこんな時間だ。家を出ないと。

まだ妻は寝ている。起こすのは心苦しいが妻も仕事がある。

「おはよう。もうすぐ6:40になるよ。」

おかしい。

いつもなら声をかけるとすぐ起きるが今日は微動だにしない。

身体を揺さぶってみる。

「おはよう」

それでも起きない。身体がひんやりした。

一日中エアコンをつけていたからだろうか。

.

.

.

.

.


違う。私は現実で何が起きているか理解したくなかった。いや、理解などでできるはずがない。

つい何時間か前に「おやすみ」

と言葉を交わした妻が冷たくなっているのだから。

何度も呼びかけたが一向に返事はない。

頭が真っ白だ。

どうしたらいい。

.

.

119

そうだ救急車

震える手で119にかけた。

.

.

.

.

.

「8時5分死亡確認」

無慈悲にも医者から言い放たれたこの言葉を受け止められないでいた。

「他のご家族の方にご連絡されますか?」

「お身体キレイにするのでまた声かけてください」

「この後は霊安室にお運びするので葬儀の方に連絡を」

.

.

周りの声がうるさい。

頼むから静かにしてくれ。妻がゆっくり寝れないだろう。

それでも妻の両親には連絡しないと。

そう思い携帯電話を取り出す。

.

.

数十分後、両親が駆けつけ泣きじゃくっている。

それもそうだ。妻は両親から愛されていた。

お義母さんから「ママにとってあなたはいつまでたっても3歳の子どものまま」

と言われ、

「私もういい歳した大人だよ!」

と少し不満げに、でも嬉しそうに会話する姿を見て微笑ましいと思った。

お義父さんは妻の誕生日にプレゼントを持って家まで来てくれた。

その時の妻といったら、

「こういうことしなさそうなパパがわざわざ持ってきてくれた」

の満面の笑みで話してくれた。

こんなにも愛されている妻がなぜ、、、

私は妻がいなければ生きていけない。

抜け殻の私の姿を見てお義父さんが色々と準備してくれた。

「後のことは俺がするからゆっくり休みよ」と声をかけてくれた。

とてもありがたいが今は妻のそばを離れたくない。

.

.

.

.

.

病院から葬儀場へと移った。

今日は一日葬儀場で過ごすらしい。

通夜は明日、葬儀は明後日と言われた。

妻の両親も妻と一緒にいたいだろうに、私に気を遣い2人きりにしてくれた。

私はひんやりする妻の手を握りたくさんのことを話した。

もう二度と帰ってこない返事を待ちながら。

気がつくと外が明るくなっていた。

トントン

妻の両親だ。

「眠れんかったん?お通夜まで時間があるから少し家に帰っておいで」と言われたが帰る気にならなかった。

.

.

.

その後のことはもうあまり覚えていない。

元々華奢だった妻の身体がもっと小さくなってしまった。

妻を抱えて家に帰る。妻はとても軽かった。

家に帰ると、出し忘れたゴミ袋があった。

「もーゴミ捨て忘れてたの?」

と妻からの小言がとんできそうだ。

妻をベッドに寝かせ、そこまで汚れてない部屋の片付けをする。

冷蔵庫の中には前の日の夜ご飯が残っていた。

もう何日も経っているがどうしても食べたくて電子レンジで温める。

.

「美味しい。やっぱり君が作ってくれるご飯が1番美味しいよ。」

私は初めて涙を流した。

今日は妻のそばにいよう。

そう思い妻が待つ寝室へ。

体温も心音も感じられない妻を抱きしめる。

コツン

手に何か当たった。

これは妻の携帯。

結婚して妻の携帯の中をみるなんて初めてだ。

ロック画面は私と妻のツーショット。

ホーム画面は、、、私の寝顔だった。

涙が止まらない。

私はこんなにも妻から愛されていたんだ。

写真フォルダを開く。

一枚一枚に思い出が詰まってる。

そこに妻が1人で携帯の画面に映っている動画があった。

そういえば結婚当初

.

.

.

.

.

「ねえねえ、何かあったときのために動画撮っとかん?」

唐突にそう言われた。

妻は影響されやすい人できっと映画かドラマを見て同じことをしようと思ったのだろう。

「そんな縁起でもないこと言うなよ」と私たはあいてにしなかった。

.

.

.

まさか本当に撮ってるなんて。

もしかしたら妻はこうなることをなんとなくわかっていたのかもしれない。

私はそう考えながら携帯を閉じた。

妻の動画をみる勇気なんてない。

いつか現実を受け入れ妻からのメッセージを見れる日がくるかもしれない。

、、、いや、そんな日はこないだろう。

なぜかって、私はまだ妻が亡くなったと思っていないのだから。


      

                       完









「あーあー、なんかこうやって携帯に向かって喋るって緊張するー。

あなたは縁起でもないって言ってたけど、絶対残しておいた方がいいと思って今動画を撮ってます。

まず、私と結婚してくれてありがとう。

私はあなたと出会ってとても幸せです。いつも私のことを優先してくれて私が欲しいって言うものは必ず次の日に買ってきてくれるあなたが大好きよ。

直接言う勇気がないからこうやって動画で言うことにするね。

でもいつかあなたに直接言えるようにがんばるね!

いつまでも愛してる。これからもよろしくね。」

                     妻より





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