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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編(シリアス)

ドッペルゲンガーを見たら本物は殺されるらしい

作者: 裏道昇

企画なので挑戦してみました!

よろしければ読んでやってください。※遅刻ですが……。


「ねえ、陽斗はると……」

「? どうした? さくら


 恋人である桜の不安げな声に訊き返す。

 俺たちは地方の大学生だった。


 桜は黒髪が綺麗な娘で、俺とは釣り合わないような美人だった。

 研究室が同じだったことから付き合い始めた。今も研究室で二人きりだ。


 ……こう言うと楽しく遊んでいるように聞こえるが、実際は周囲を林で覆われた山奥に拘束されているようなものだ。そもそも遊ぶ場所が少ない。


 良くも悪くも暇を持て余している。大した事件もない。

 だからこそ、桜の深刻そうな雰囲気は意外だった。


「……あのさ、ドッペルゲンガーって知ってる?」

「……自分とそっくりな奴がいるって話か?」


 俺は少しだけ馬鹿馬鹿しく思いながら、話を合わせるように首を傾げた。

 冗談かと思ったが、どうやら真面目な話らしい。


「うん。それで……昨日、見ちゃったの」

「ドッペルゲンガーを?」


 まるで漫画のような話だが、桜は大真面目に頷いた。

 他人の空似だろう、と思いつつ先を促す。


「ドッペルゲンガーを見たら本物は殺されるらしい、っていう噂があって……」

「なるほどな……」


 確かにそういう話があった気がする。

 迷信の類だとは思うが、こういうものは信じている本人にとっては大事だ。


「どうしよう? 私、殺されるのかな?」

「うーん……それだけの情報じゃ、何ともなぁ」


 否定するのは簡単だが、それでは安心できないのだろう。

 俺は腕を組んで考える。現状だと、自分と似た人を見かけたというだけだ。


「…………」

「じゃあ、研究室から家まで車で送り迎えしてやるよ」


 思い詰めた様子の桜に、俺はこう提案した。

 ただの勘違いだと思うが、安心できるまで送り迎えをすれば良い。


「ありがとう!」

 桜が微笑んだ。

 

 研究室から桜の家は遠くない。これくらいなら安いものだ。

 俺は車で来ているから、途中で立ち寄るだけで良い。




 雲行きが怪しくなったのは、次の日からだった。

 俺の車から降りて自分の家に入る直前、桜が俺にしがみついた。


「……誰かいる」

「……っ」


 桜の言葉にちらりと振り返る。確かに誰かが後をつけているようだった。

 俺の視線に気付いて物陰に隠れた姿は、桜に似ていた気がする。

 

 ――まさか、本当に?


 それから三日ほど、この研究室と桜の家を往復する日々が続いた。

 その間、桜によく似た姿を何度も見かけた。


 流石に偶然で済ませるには不自然だった。

 それからは可能な限り、桜と一緒にいるようにした。




 その日も研究室から車へと向かっていると、桜が急に立ち止まった。

 見れば、俺の車の前に誰かが立っている……遠目には桜と同じ背格好だった。


「いや……!」

「おい!?」


 桜が車から逃げるように走り去ってゆく。

 俺は急いで追いかける。桜は校舎を囲む雑木林に入っていく。


「くそっ! 待て、桜!

 どこに逃げてんだ……!」


 思わずぼやきながら、俺は桜を追って林に足を踏み入れた。

 後ろから誰かが追いかけてくる足音に背筋が凍った。

 

 ――追いかけてきた!?


 逃げる桜を追いかける俺。さらに俺を追いかける誰か。

 奇妙な状況になった、と思いながら走り続ける。


「はあ、はあ……。やっと、追いついた」

「…………」


 肩で息をしながら、樹の根本で蹲る桜に近づいた。

 桜は震えながら、俺の背後を見ていた。釣られて、俺も振り返る。


「――!」

 思わず、息を呑む。桜の言う通りだった。


 俺を追ってここまでやって来たのは、桜と瓜二つの姿だった。

 まさにドッペルゲンガーという奴だろう。


「……あんた」

「……!」


 ドッペルゲンガーが桜に一歩だけ近づいた。

 桜の体がぶるりと震える。


「ふざけんなっ!」

 その瞬間、俺はドッペルゲンガーに飛び掛かった。


 そのまま首を押さえつけて、馬乗りになる。

 首を掻き毟るように、ドッペルゲンガーが俺の手に爪を立てた。


 離すものか。

 俺は荒く息を吐きながら、必死に首を絞めた。


 ドッペルゲンガーは口をパクパクと動かしている。

 やがて、その手がぽとりと落ちて、俺は恐る恐る首から手を離す。


「……助かったの?」

「…………」


 桜の呆然とした声。

 俺は返事も出来ずに動かなくなったドッペルゲンガーを見ていた。


 不死身の化物みたいに、もう一度襲い掛かってくるかもと思っていたが……どれだけ待っても、動き出すようなことはなかった。




 動かなくなったドッペルゲンガーはそのまま林に埋めた。

 墓というわけではないが、野ざらしにするわけにもいかない。

 

 学内のスコップを使って、最低限の穴だけ掘った。桜は俺に感謝しきりだったし、死体が見つかるようなこともなかった。俺たちは助かったということだろう。


 ただ、今でも夢に見る。

 ドッペルゲンガーは最期に口をパクパクと動かしていた。その時の口の動きが忘れられない。


 ――まるで「どうして『偽物』の味方をするの?」と言った気がして。


読んで頂きありがとうございます!

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