8.
茶の間にはじっちゃんもいて、配膳を頑張っていた。すまぬ、じっちゃん。
僕も参加して器を出したりテーブルを拭いたりしている横で、ばっちゃんは持ってきたバッグの中から得意のお煮しめや吸い物の入った鍋を次から次に出して(どんだけ出してくるの? ひょっとしてそのバッグ、ファンタジー小説に出てくるアイテムバッグなのか? 現実に存在するんか、そんなの?)テーブルの上に置いた。
目を白黒させている僕を見て、してやったりとニカッと笑うばっちゃんだった。
ばっちゃんとじっちゃん、そして僕
昔の様に食卓を囲んで、色々昔ばなしに花を咲かせながら、ばっちゃんの料理に舌鼓をうった。
「ところで、ばっちゃんのバッグ凄いね」
「これはただのバッグだよ。 見てごらん」
ばっちゃんはバッグの口を広げて中を見せてくれた。 たしかに、じゃあこれらの鍋はどうやって入ってたんだ?
「バッグの中に私のとこの台所と繋いだ門を作ったんだよ。 師匠がよく使う光る門じゃなく、台所の配膳台の上と繋いだ透過する門をね」
「へ〜、そんなやり方があるんだ」
じっちゃんが横から口を挟んだ。
「お前が好きなファンタジー小説でいえば、儂らが自分の仙域外で使う力は空間魔術に近いからな」
「自分の世界ではやりたい放題できるって師匠言ってたけど、師匠の世界じゃ言うほど師匠は力使って無かったよね。 まったく普通と変わらない暮らしをしていたし・・・」
僕の疑問に対し
「そらそうだ、自分と自分の世界は一心同体、大事にしなきゃな。 いつも天変地異やってたら誰も居着いてくれないぞ 」
「やっちゃんも、修練積んだらこんな事できるようになるわよ」
ばっちゃんが言いながら右手を伸ばした。と、右腕が無い? えっと目を瞬かせると、居間の座布団の山のところに手が! 次の瞬間、右手に座布団を手にしたばっちゃんが微笑んでいた。
「転移門の応用ね」
ばっちゃんの仙域を経由して、普通なら絶対手の届かない場所へ届かせたのか。 そして物を掴んで持ってきた!
「雷鎚を落とす技は多くの仙人が使えるんだが、師匠の雷鎚乱れ打ちは見物だったろう 」
じっちゃんも言った。
「儂はその応用技を開発したから今度見せてやるよ」
御殿の広場で師匠が見せてくれたあの技
空一面を雷鎚が覆い、ゲートの先の異次元世界へその雷鎚を雨霰と投げ下ろす!
師匠曰く、雷鎚を降らせている世界は、冷戦で終わらず大国同士の熱い核戦争となり、多くの国が核の炎に包まれてしまい国の形を保てなくなった所。
特に此処は爆心地として遺棄地となっている場所なので、この世界への干渉にならずに思い切り力を振るえると楽しげだった。
師匠が大技を使ったのを見たのは、後にも先にもその一回だったけど・・・
夕食の後は、ばっちゃんの世界へ行ってみることにした。ワクワク^_^
納戸の北側の壁がじっちゃん、ばっちゃんの世界への門となっているとばっちゃんが教えてくれた。
門がある場所に向い、門の存在を感じられるか気の流れを探ってみる。気の流れが朧気にわかるようになってきているおかげか、言われた通りに門の存在がわかった。
目でみただけでは、門は見えない。其処に門があると言われても普通の壁にしか見えない。こんな門も創れるんだ。
師匠の門の様なキンキラキンばかりじゃないんだ。
2か所存在する門は、奥の方からばっちゃん、じっちゃんの世界へ繋がるとのこと。
ばっちゃんに連れられて、奥側の門へ入る。
入ると、眼の前に襖が有った。 あれ、いま転移門とおったよね? じっちゃん家に戻ってきた?
転移に失敗したのか?
続けて入って来たじっちゃんが笑いながら言った。
「カズの家は、泰光が管理している儂らの家とまったく同じものだよ」
仙域に物質を移す方法は三つ、転移、転写、置換だ。
転移は外部世界からそのまま仙域に持ってくる方法。
転写は元の世界の物を写し取って此方にコピーを持ってくる方法。
そして、置換は等価交換、同じ質量の同じ物質で入れ替えを行う。
どちらにしても、他の時空世界から転移させた物質が仙域にあって始めて出来る事だ。
すると転写を使ったのか?
「この家は、最初私達の家を転写で持ってきたんだけど、その後やっちゃんの家と置換の練習で移したから、今はこちらがオリジナル」
台所からばっちゃんが顔を出してそういった。
「すると、今僕が住んでいるほうがコピーになるんだ。 頭こんがらがる〜」
そのうえ、ばっちゃんの仙域は現在昼だ。現し世は夜だったはずなんだけど。
ようするにアレだ、時間と空間は自由に繋げられるちゅうことだな!
これは時間感覚、空間感覚めちゃくちゃになるわ。時差ボケ起こしそう・・・
本物のばっちゃんに連れられて、ばっちゃんの世界を見物することになった。
家の周辺も忠実に再現、いやいやこちら側の方がオリジナルだった。
ただ、眼の前の田圃の広いこと広いこと!
ばっちゃんの世界は今初夏みたいだ。水をはった田圃に青空が反射して、美しい田園風景を作り出している。
本当の山の家はちっちゃな盆地の中なんだけど、こちらは平野のど真ん中みたいだ。
家の背後に林に覆われている小高い丘が一つ。
ばっちゃん家の前から立派な道がまっすぐ伸びている。道の先には・・・町が在るのか、家々の影が遠目に確認できた。
じっちゃんが言った。
「カズは、田舎風景が好きだからな〜。 農作業では、儂の作った自動耕うん機なんかをコピーして一人で楽しんでるし」
それに対し、ばっちゃんが答える。
「おじいちゃんの作る自動機械は、自分で考えて動いてくれるから好きよ」
これだけの世界を作り上げるのに、現し世時間で二十年ほどかかったそうだ。あの木彫のお地蔵さんを祭り始めてから間もなく、師匠との邂逅があり尸解仙の修行を始めた計算になる。
全然気付かなかった!
「やっちゃんが眠たくなる前におじいちゃんの世界も見せてあげなよ」
じっちゃんがニカッと笑いながら言った。
「見て驚くなよ」
さて、次はじっちゃんの世界か。