6.
橋を渡るとすぐ左手の屋敷二棟が、じっちゃん達。 対面の右手が結城さんの、そして僕がもらった屋敷は結城さんの隣になる。
屋敷の設備は僕向けに調整してあるそうなので、念じれば門や扉は自動ドア宜しく開閉してくれると教えられた。いつの間に?
みんなと別れて門の前に立つ。
開けゴマでいいのか?
あ、師匠の真似をしよう。 右手を上げて開けと念じてみた。 ゆっくりと門が開いてゆく。感動だ!
屋敷の中は、奇麗に整っている。掃除が行き届いている玄関から廊下に上がり、屋敷の中を探検しようと歩き始めた。
と、奥から誰かが走ってくる。 子供のようだ?
「お帰りなさいませ!」
彼女は僕の前に来るとちょんと正座をして頭を下げた。
「はいっ?」
僕の声に彼女は
「私はこの屋敷のお手伝いを申しつかっている蒼といいます。新しいご主人様ですね?」
ドギマギしながら挨拶を返す。
「よ、宜しくお願いします。 相良泰光です」
彼女は微笑みながら、返事する。
「宜しくお願いします。 この屋敷内の管理は任せてください。 頑張ります」
彼女、蒼さんは僕の世界とは異なる世界で生まれ、両親と共に師匠の仙域に招聘された。
街外れの呉服店で育った彼女は、15歳になったので成人して不老不死の存在に成るまでの間、色々な仕事を経験しているとの事。
師匠の世界では、子供は大人になるため輪廻転生者の形で招聘され、大人になると希望者は不老不死を与えられるそうだ。
もし大人になる前に事故などで輪廻転生する事態になった場合、一般人として不老不死を望まない人達の間の子供として転生できる。
ただし師匠の世界の魂の数は外から招聘しない限り増えない為、冥界にて魂のクリーニングを終えないと子供として誕生出来ない。
しかし冥界時代は十分長いので、知り合いがそのまま生まれ変わってくるインシデントは防がれているそうだ。
蒼さんが茶漬けの準備をしてくれた。
アルコールが抜けていないので、お風呂は明日にした。
居間で茶漬けをいただき、歯を磨き寝室へ。
「おやすみなさい」
蒼さんが襖を閉めて下がる。
なんか流れに任せてしまいこんなところまで来てしまった。 明日はどうなることやら・・・
今日一日のことを思い出していたらいつの間にか眠っていた。
・ ・ ・
気付いたら朝だった。と言う普通の事に驚いて目覚めた。
縁側に出てみたら、奇麗に手入れされた枯山水の庭があり、石造りの灯籠が朝日のなかで露に濡れて輝いていた。
縁側に腰掛け庭を見ていたら、後ろから蒼さんが声をかけてきた。
「おはようございます」
「おはよう、おかげでグッスリ眠れたよ」
顔を洗い、身支度してから朝食をいただく。
蒼さんの料理は、これまた美味い。
ご飯、味噌汁、玉子焼き、アジの干物、香の物、納豆、一般的な朝食なんだけど絶妙の味付けなんだな。
食べながら、将来、僕が一人前に成ったときに、蒼さんをスカウトしようと心に決めた。 師匠との交渉が要るけど許してくれるよね。
朝食後、お茶を飲みながらまったりしていたら、じっちゃんとばっちゃんが訪ねてきた。
自分達の仙界(じっちゃんとばっちゃんの仙域も連結してるそうなので、小さいながらも仙界だ)に帰るそうだ。 また、来週此方に来るので心配するなと言われたが、もっと心配して欲しい。初心者なんだぞ。
そうそう、じっちゃんの仙界と師匠の仙界の時間は同期しているそうなんで、現し世と行き来する僕と違い、門を通って自分の仙界に戻りまたこちらに来た場合も、ちゃんと時間が進んでいるんだって。
だから、行き来しても混乱することはないって・・・そうなんだー。
「ところでじっちゃん、叔父さん初め僕らはじっちゃんの死体見てるし触ってるんだけど、どんな手品したん?」
「あぁ、あれは現し身の応用だよ。有機物で儂そっくりの人形を作ったんだ。生き物を作れないことを逆手にして、死体を作ったんだな。
ま、死因もちゃんと仕掛けといたから解剖されても偽物とは判別できんだろうな」
「僕らは人形相手に悲しんで葬式だしたんだ、じっちゃんもひどいなぁ」
「一度死なんと、しがらみから抜け出せないから・・・皆には悪いことをしたとは思っているぞ」
「じゃあ、3年前のばっちゃんの時も?」
「あれは最初だったから出来がイマイチでな、バレないかとハラハラだったがな」
「あの時、おじいちゃんは大変だったのよ。 何体も試作してはボツにして」
ハァ〜、この人達は、と呆れたが、あとで尸解仙人がこの世から消えるパターンの標準は死体を残さないと知り、二人共、自分の葬式と言う区切りを付けてしがらみを切ったのでヤッパリ誠実なんだなと思った事だった。
屋敷を出て、修行場となる武道場へ向かう。
武道場には既に結城さんが来ていた。 そして師匠だ。
まず、午前中ミッチリと柔術の受け身、剣術の形、木剣を持っての素振の稽古をさせられる。
流石、結城先輩の動きは滑らかで無駄がなかった。聞いたところ、もともとタ●捨流兵法を習っていたらしい。
素振りの後は、デカい木の棒の様な木刀で、教えられた様に八相の構えから蜻蛉を取って(構えて)走り込み横に寝かせた木の束をひたすら袈裟斬りに叩く練習をさせられた。
これは、ひょっとして野太刀自●流、
蜻蛉の構えと言わないところから、師匠は野太刀自●流の門弟だったんだ。薩摩(鹿児島)出身者か?
もしや、師匠の本名、有名な桐野利秋(中村半次郎)だったりして・・・
いやいや、それはないな!
とか、考えながらひたすら叩く。
師匠が手本として見せてくれた打ち込みでは、例の猿叫と言われるキェ―と言う掛け声が響きわたる。やっぱり野太刀自●流(薬●自顕流)じゃないか!
猿叫は、チェスト―とは言わないんだ。
結城先輩は別メニューで、タ●捨流の形をひたすら繰り返す。こちらも凄いな。
昼食を取るために一度屋敷に戻り、蒼さんが作ってくれる食事をいただく。
軽めのツナマヨパスタだ。古風な出で立ちなのに現代風のパスタも作れるんだ。
凄いぞ蒼さん!
師匠の周りにいる人達、全員めちゃくちゃハイクオリティな方々ばかりだ。
僕やじっちゃん、ばっちゃんが一般人すぎるので、凄く眩しく見える。
蒼さんにお礼を言って、午後の修行へと再び武道場に向かう。