17.
暫くしたら奴(失礼ながら名前は知らない)が歩き出した。彼は一切僕らを見ずに、横を抜けて歩いてゆく。
本当に結城さんの事忘れたようだ。堕ちたといっても一応神様、やっぱり我々とは術のレベルが違う。
ちなみに、今の僕は、僕の仙域に住み着いた山神様の事は一切バラしてません。
だって怖いじゃないですか。成り行きで迎え入れたんだけど、神様を仙域に住まわせている仙人聞いたことないし。それに、まだチョ〜初心者のくせにチートしてることになるのが自分でもわかるし。
師匠にバレたらなんと言われるか・・・だから、今回、祓える力はあるんだけど一切無能を貫いた僕でした。
もと田の神様もきた時と同じように、杖をついて歩き始める。 なんにもなかったかの様に。
僕たちは、頭を下げて神様を見送った。神様はそう遠くない未来、力を失い妖怪と化すだろう。
自身の権能を発揮出来ぬ神様はいずれ消え失せる。神様御本人のせいではない、人間が田畑を家屋敷、工場などに潰してゆく事で神様の居場所を奪い、神様への信仰心を失う事で力を奪ったんだ。
なぜか、じんわりと涙が出てきた。
そして、僕らの師匠も落ち込んでいた。
あれ程大見得切ったのに、良い所が無かった師匠は、見るからに憔悴している。
大丈夫ですよ、僕ら全員同じようなものですから!
とりあえず他力本願になっちゃたが、問題解決と言うことで気分を変えよう。
結城さんの提案で天神界隈を散歩、買い物しようとなった。
異次元だけどお金は僕の次元と変わらない。でも、偽札になるかもしれないので、お金の面も結城さんのご厚意に甘えることにした。
今度、僕の次元に招待した時にお返しする約束で、一人五千円をもらいショッピングなど楽しんだ。地下街をはじめ九州一の繁華街だ。時間はあっという間に過ぎてしまった。
結城さん、確かに知的な美しさがあってその上行動が若干幼く見えるところがかわいい。あいつが惚れたのが判る、師匠も横にいたけど僕の眼はいつの間にか結城さんを追いかけている。
結局、結城さんの魅力に僕もころびそうになっているのを自覚。
で、師匠の世界へ帰還。
屋敷で今日一日の事を蒼さんに話しながら、何故か罪の意識に苛まれる僕でした。
師匠の世界で修行再開。
今回は、師匠がしんけんだ! 結城さんの次元世界での失敗が堪えたのだろうな。
気合が違う師匠に引っ張られる様に、僕も、結城さんも毎日クタクタに絞られた。
じっちゃんの山の、山神様との約束も果たさないと行けないけど、こう毎日精魂尽き果てる迄修練してたら帰る気力がわかない。
橘山の山神様(橘山様)との連絡も取りたいけど、これも今の所、無理だわ。
朝早く、修練前に抜け出せば行けるけど・・・現し世にかえった時、何があるか判らないしなぁ〜。
早朝出発で向こうは夕方、戻る時は何時出発しても早朝着って、絶対時差ボケおこすわ!
ちゃんと気力充実で戻ってこれるかな?
そういえば、あの狐小僧が怯えたのは、想定外の力を見たためだと、いまでは判る。
僕単体の気がまだ微弱なんで、あいつは遊び相手に選んだのだろう。それが、なぜか桁違いの気それも神気を放出して、仙人ではできないはずの悪霊祓いをおこなったからね。
全て橘山様の力なんだけど、あいつから見たら化け物に見えたかも。
今度、また見かけたら僕のほうからタップリと遊んであげよう!
と言うことで、朝の散歩と蒼さんに伝えて転移門へ向う。師匠は誰が何処に転移したか判っているが、僕が僕の次元世界に帰るのだから文句は出ないだろう。戻ってくる時は、必ず出た時間に帰ってくるのだからネ。
前と同じく夕方に帰り着く。さっそく橘山様と意識を繋いだ。
じっちゃんの山の、山神様の場所へゲートを開き移動。神様は眠らないから何時に行っても怒らないよね、たぶん。
神様から右手の谷の左岸がわを削って欲しいとの要望を聞いて、さっそく行動開始。
基本凸凹の凸の繋がりが気の流れ易い道になり、凹は気が溜まり淀むポイントに成りやすい。で、これを勘案して地形の修正を行う。
気の淀んでいる処を盛上げ、あるいは削り、草木、土砂、岩などを回収する。
一時間程度で作業終了。
挨拶に行くと、山神様からタップリと感謝の言葉をいただいた。いや、資材いただけたから、こちらも感謝です。
それから神様と交渉して、山の家周辺(小さいけどじっちゃんの田畑も含む)と、家の裏からあの鉄塔の建つ尾根周辺までの領域を貸してもらった。
橘山様が管理して良いとのことだ。
さっそく橘山様に出てきてもらい、確認していただいた。
確認して回ったあと、橘山様は満面の笑みで僕に抱きついてきた。よっぽど嬉しかったのだろう。
いただいた資材は、仙域の山の裾野に組み込まれた。
仙域の家の横にも、田畑や林となる土地を作ろう。
橘山様に聞いた。
「田畑の管理は橘山様、出来ますか?」
「わたしにには水を操る権能はないので、田畑の神にはなれない。残念だが権能は、神である限り生まれた時から決まっているから、いかんともしがたい」
ふと思いついた。
「橘山様、もし、この仙域に別の神様を招聘した場合、何が不都合が生じるでしょうか?」
「別の権能の神か? 別にわたしの橘山を侵すような神でなければ構わないが、あてがあるのか?」
「橘山様も知っていると思いますが、あの時空を異にする世界で交わった、かっての農耕神で、人がおこなった田畑の破壊のため権能を奪われてしまった放浪神様ではどうでしょう」
「権能を奪われるは神にとって死と同じ。現し世から消えるが早いか妖怪に堕ちるが早いか。あの神、救えるならば文句はない」
「では、チョット行きましょう」
あの次元、結城さんの時空間の座標は覚えているので、ゲートを繋ぐ。
初めて、別次元の宇宙に繋いだので、チョットどきどきしたぞ!