16.
と、言うことで、やって来ました次元を超えて。
で、余計なお世話なんだけど、ゲートくぐる前に結城さんに聞きました。自分の世界(仙域)で寝れば、どこからも邪魔入らないんじゃね?
結城さん曰く、結城さんの仙域の大きさはまだ家一軒分くらいらしい(いやいや、素の僕より遥かに凄いんですけど)
その上、まだ力が足らず何も生み出せないので空虚な空間があるだけ。
なので、とても寝れる状態ではないとのご返事
また、創れるゲートは入退出が同一時間設定のものだけなんで、仙域入った時間に戻って来る形になってしまう。
結局、夜は実家で過ごさないとならない(たしかに僕ら尸解仙が創れるゲートはそれだけだよな 汗 汗)
師匠の世界に、ずっといるわけにもいかないし、、、
そしてこちらの福岡は、僕の現し世の福岡と変わりませんでした。あっ、でもプロ野球チームが西鉄ライオンズのままらしい。で、南海ホークスが大阪か?
やっぱり、チョット違った! 異次元感覚。
福岡城の堀だった大濠の公園、そのそばに結城さんの家(実家)はある。
もちろん、僕達は訪ねるようなバカなことはしない。結城さんも、今回は僕達に同行して実家には顔を出さないと言っていた。
で、師匠のデート作戦は却下した。
あれ下手したら血の雨が降る。 ストーカーは簡単に諦めないし、自分のものにならないならばいっそのこと・・・って怖い展開になりかねない。
幻を襲わせて、現行犯逮捕ってのを目指そう。
師匠と打ち合わせで、単純な呪詛返しでなく、そこに幻惑をのせられないかと相談した。
幻を見せる案に師匠もノッてきた。ルンルンで呪文を展開し始める。
ちなみに眼の前の師匠はアバターです。
仙人の 仙域が大きく強固になると、本体(仙人)が仙域の中に取り込まれる形になり、仙域の外には出られなくなってしまう。そのかわり中にいる仙人は不老不死となる。だから、仙域外での活動をする場合は必ず現し身を使う。 これが天仙。
地仙はまだ仙域と一体となっていないが、本体(仙人)が仙域外で活動すると、現し身で活動するより力の消費が激しくなるため、天仙に近くなる仙人ほど現し身で活動する場合が多くなる。
尸解仙の本体(仙人)は原則現し世にいる。このレベルの仙人では長寿ではあるが不老ではなく、もちろん不死でもない。
奴はすぐ判った。めちゃくちゃマイナスの波を出してやがる。結城さんちが見える路地に隠れて見張っている。まんまストーカーを続けている!
ちゃんとすれば、そんなに嫌われることなさそうなルックスのくせに、なぜ犯罪紛いの行為するのかなぁ? 少なくとも僕より男前のくせに!
奴の周りには、奴の怨念が形を持った形容しがたい魑魅魍魎が渦巻いている。それは真っ直ぐ結城さんちに向かっている。
これでは、結城さんはじめ家族が体調崩すのは当たり前だ。
結城さんは心底嫌そうに顔をしかめている。
師匠が術を発動した。呪詛返しだ。
結城さんちが淡い光に包まれると同時に、奴から結城さんちに向かっていた魑魅魍魎の流れが逆転して奴の周りにそして奴の内部へと侵食していく。
見えない、感じない一般人であっても、これだけ濃密なマイナスエネルギーを受ければ無事では済まない。
師匠の話では、奴の眼の前を結城さんが歩いていくのが見えているそうだ。 幻術というのか。
師匠はどうしても、僕と結城さんを恋人同士に見せたいみたいだ。
あの案は却下したはずだよ、師匠。
僕と結城さんが仲良く手を繋いで、奴の隠れている路地の前を横切って行く。 奴の目にはそう見えている。
楽しそうに話しながら歩く二人。 嫉妬心は凄まじいだろうな。 ある意味、奴には同情する、モテナイ男同士、わかるよその辛さ。
でも、ストーカーはあかん!
奴の嫉妬心を舐めてかかってたことを、次の瞬間後悔する事になった。強い嫉妬からか、呪詛返しかけられているはずなのに、奴から幻の僕達に向かっておぞましい魍魎の群れが流れ出した。
え、不味くない、これ。
師匠が慌てる。これが、よく言う想定外ってやつ。
魍魎の流れが幻に接触した瞬間、弾けるように術がほどけ、奴の前から幻が消滅した。
何なのこいつ、地仙の師匠の術を破りやがった!
奴が建物の陰に隠れている僕ら三人を見つけた。
これは不味い!
ここは逃げるしかない。師匠がすかさずゲートを開く・・・
僕らの方へ、悪鬼の表情で奴が駆けてくる! え、怨念って、こんなに強いものなの?魑魅魍魎が僕らを包む。
そんなアワアワしている僕らと奴の間を、悠然と杖をついて歩いてくるお爺さんが一人。
杖を一閃、奴やこの辺り一体を覆っていた魑魅魍魎が光と共に弾け消滅。
僕らに向けて走ってくる奴が横を通り抜けようとした瞬間、奴に触れた手から火花の様なものが飛び、奴は走っている姿勢のまま硬直して固まった。
お爺さんは僕らに顔を向け、満面の笑みを浮かべた。
「仙人らよ、そなた達の術では、此奴の怨念には対処できぬよ。危ない処であった」
師匠に向かいお爺さんは話しかける。
「仙術の呪詛返しは、術をかけた瞬間向けられている呪詛にのみ有効。そなたらを見て生まれた新しい呪詛に対しては、それに対応した呪詛返しを新たにかけねばこうなるのは自明の理」
「ま、此奴の誤った情念と記憶は消した。もう、そちらの娘子に呪詛がかかることはないじゃろ」
神様だ、このお爺さん!
師匠は凄くしおらしかった(落ち込んでいるとも言う)
「誠にありがとうございます。 よろしければ貴神のお名前を教え願いますか。 お礼に伺いたく思いますので」
お爺さんは首をふるふると振った。
「吾は、社を持たぬ。 かっては田畑見守り豊穣を約束する楽しき日々があったが、いまや もう田畑なく、吾を祀る人々も遥か昔に絶えて久しい」
「田の神様でございますか」
「田畑なき故、田の神とはもう名乗れぬ。 人の祈りも受けられぬため、今は呪詛や怨念を喰らう妖怪に近しき物でしかない」
確か妖怪の中には神様から零落したものがいたような。大陸の長江から海を渡り熊本県の八代にたどり着いたガラッパだったか?
川の神様だったが、力を失い妖怪の身になりながらも一族を生かす為に海を渡って来たんだったっけ?
他にも神から堕ちた妖怪は多いよなぁ~。