13.
そろそろ実家に顔を出しついでに買い出しをしよう。
昨日のカレーを温め直し朝飯を食べながら考えていると、仙域で山神様が何かしたようだ。
仙域に入ると山裾にじっちゃん家と瓜二つの家が!
山神様がニコニコしながら話しかけてきた。
「切り倒された木々が可哀想だったので、あなたの家をここに造ってみた。
完全な再現にはなっていないが、気に入ってもらえるだろうか?」
家は実際の物と違い少し小さい。
台所は改装されたキッチンではなく、改装前の土間とかまど、流し台の古いスタイルになっている。
風呂は、無いんだ。鉄が無いから風呂釜作れない、そうなんだー。
電気も無い。井戸も無い。
無い無い尽くしだけど、仕方ないか。
僕の世界は資源不足だからね。
「ありがとうございます。 仙域で寝泊まりする事が増えると思うのでとても助かります」
「うむ」
完成披露だということで、山神様に連れられ橘山の祠に向かった。
祠につくと、山神様の案内で僕と山神様の世界を眺める。イチイガシの切り株の上には木霊が浮かび、まだ芽は出ていないが、多くの木々、草花の生命の息吹が感じられた。
あそこにいるのは山彦と呼ばれる妖怪か? 毛むくじゃらの塊が丸くなって寝ているようだ。
動物達も一仕事終わった所だろう、各々の巣に引っ込んでいる。
「ところで山神様、山神様の山には橘は一本も無いようですが、何故橘山との呼び名を我々人間達はしていたのでしょう?」
山神様はニカッと笑いながら
「その昔、橘という流浪の山伏が、ほら、そこに草庵を作り住み着いたことから、麓の村人が呼び始めた名前だ。 わたしは人間に絡む様なことはしなかったので、橘の下の名前は知らぬ。 ただ、長くその草庵で暮らしておったの」
確かに何か建物が立っていた跡がある。
「そうだったんですね・・・」
そういえば、じっちゃんの山を統べる山神様にはまだ挨拶してなかったな。近いうちに挨拶しに行こう。
なんか、しないといけない事が増えてきてるな。
仙域から戻り、朝飯の後片付けをした後、久しぶりに車上の人となった。
実家に顔を出すのは、じっちゃんの四十九日法要以来だ。
山下りは楽しかった。今まで気付かなかった自然霊達、妖精達が思った以上にそこら辺を徘徊しているのだ。
途中の新興宗教の布教所の周りには、あれは狐か?
師匠がいっていた、人を引っ掻き回して楽しむっていうあの仲間か?
一瞬、狐が此方に視線を向けたが、興味なさそうに布教所へ入っていく人に纏わりつきながら建物の中に入っていった。
さて、まずは母さんの所に顔を出してからだ。父さんは自営業なので、年中家にいない。
だから幼児の頃の僕は、朝早く家を出て、へたしたら職場に泊まってくる様な生活してた父さんを、親戚のおじさんと思ってたらしい。
今に至るも、事あるごとに蒸し返され皆んなからイジられる僕です。
母さんと最近の話題を話しながら昼飯を食べて、仏壇に手を合わせてから買い出しにいった。
鎮座しているじっちゃんとばっちゃんの位牌を見て、これ絶対バレたら大変な事になるな、と、思った事は秘密です。
さて、僕の世界に不足している資材や道具なんかを買わないと。
今回はじっちゃん家の軽トラックで来ている。
実は、この車は唯一僕の財産なんだ。じっちゃんが僕の名義で買ってくれたもので、実家に帰った時もよく使っているものだ。
母さんから譲ってもらった軽自動車の名義は、まだ母さんのままだから・・・保険も母さんに掛けてもらってるので、母さんにおんぶに抱っこの状態から抜け出せていない。まったく、頭が上がらない。
じっちゃんの遺産相続については、じっちゃんの遺言書を保管していた弁護士さんと、父さん夫婦、叔父さん夫婦で話し合いが持たれている。
ま、どうせ、僕に遺産がまわって来るわけがないので、正直な話し、相続税問題なんか皆さんでよろしくやってください。
五分ほど走った所にあるホームセンターには、ペットショップ、植木などを販売しているグリーンセンターなどが同じ敷地に建っている。
これだけあれば、ここで大概の物は手に入る。
まず、動物達の餌は大事。
仙域の山神さまと頭の中で会話しつつ、必要な餌を購入していく。仙域で動物達が餌を取れるようになるには相当かかると思うので、今後も何回か買い出しが必要になるだろう。
買った荷物を軽トラックに積んだら、次は釘などの鉄、銅、亜鉛などでできた小物を箱買いする。
橘山にはほとんど金属がないので、取り敢えず金属を手にいれる事が先決。
もとになる元素がないと転写などつかえない。
水も大事だ。
じっちゃん家と仙域との間で水が循環できるように出来ないか? 少し考えてみよう。
各種肥料、各種用土、コンクリート、煉瓦等々。
野菜や草花の種。
とりあえず、軽トラックに積めるだけ積んだところで買い出し終了。
結構使った。貧乏な今の我が家では暫く耐乏生活だ。
軽トラックにガソリンを満タンにして山へ戻ることにした。