お前なんて嫌いだ
日曜の昼下がり。俺は大嫌いなやつの膝に座り本を読んでいる。こいつ、高山聡は、何が楽しいのか俺を後ろから緩く抱え込み、俺の肩に顎を乗せてバラエティ番組を見ている。
「ねえ波瑠ちゃん」
「んー?」
「俺ね、彼女できた」
ページをめくる手を止めたのは一瞬。俺はへえ、と無造作に呟いて読書を再開する。聡はそんな俺を見て急いでテレビを消した。
「ちょっと、なんかもっとないの!?こう…おめでとうお幸せに♡みたいなさあ」
「いんや?俺お前嫌いだし」
「またもー素直じゃないんだから」
ページをめくる。なんだか内容が頭に入ってこなくて、同じ行を何度も何度も読み返す。
不意に何かが開いていたページに落ち、じわりと滲みを作った。雨漏りかと天井を仰げば頬を伝うものがある。
まじか。なんだこれ。
「波瑠ちゃん」
「なんだよ」
「何で泣いてるの?」
「…泣いてない」
別に悲しくないし。呟いてページをめくろうとする。が、視界がぼやけて何も見えない。くそ、むかつく。
「はーるちゃん」
「泣いてない」
「この可愛いお水はなあに?」
「……うれしなみだ」
「嘘つき」
聡が柔らかく微笑んだのがわかった。悔しくて俺は次々出てくる涙をこいつの袖に擦り付ける。
「彼女できたの嘘。びっくりさせてごめん」
「やだ」
「波瑠ちゃん、」
「あっちいけばか」
逃れようとじたばたもがくが、余計にぎゅっと抱き込まれる。こいつの匂いがふわりと俺を覆ってどこか安心している自分に腹が立つ。
「波瑠ちゃん、俺のこと好き?」
「…きらい」
「そっかあ」
むかつく。全然気にしてなさそうにしやがって。
「俺はね、波瑠ちゃん大好き」
「…………しってる」
「ふふ」
ゆっくりと背中を撫でる手が温かい。なんだか心地よくて静かに目を閉じれば、拭き損ねた涙が一筋頬を流れた。
むかつくんだよ、ばか。
だから、
俺の方がずっとずーっと前からお前のこと好きだったわこのドアホ、なんて、口が裂けても言ってやらない。