第12話 VSダンジョンの主クリーチャー 前編
やがて数分も経たずに、私とコユミはヴェノムスパイダーを全滅させた。
戦場には大量の素材がドロップされているが、コユミが「ヴェノムのはそんな大したもんじゃないので放置していいですよ!」と言うんでそのままにしておいた。
そこから先に進む事になった私達だが、
「いやぁ、本当にありがとうございます狂拳先輩!! 先輩にはほんと感謝が尽きませんわ!! 先輩マジ最高です!!」
「……急にどうしたのアンタ? そんなキャラだったっけ?」
「いえいえ、私はただ狂拳先輩に助けられて尊敬するようになっただけです!! これからも先輩を慕っていきますので、よろしくお願いします!!」
「……ほんとにどうしたんだ、コユミ……」
コユミをヴェノムスパイダーから助けた後、彼女の態度がおかしくなった件について。
もしかして、ヴェノムスパイダーの毒にやられて錯乱状態に陥っているとか?
でも有名配信者がそんなヘマするとは思えないしなぁ。
「というかさすがにマズくない? 有名配信者が初心者ハンターを先輩呼びなんてしてさぁ」
「そんな事はありませんよ! こうしてリスナーさんの方々も先輩呼びしてますし! ですよね皆さん!?」
〈コユミちゃんの言う通りッス!!〉
〈俺達は狂拳先輩の舎弟であり続けたいです!!〉
〈パシリ、みかじめ、鉄砲玉、何なりと申し付けて下さい!!〉
〈虐殺!! 虐殺!! 虐殺!!〉
ヤベェ、何が何だか分からないがとにかくヤベェ。
リスナーは悪ノリしやすいとは聞いたが、これじゃまるでヤクザか半グレみたいだ。
これ一応コユミのチャンネル動画だよね? そんな裏稼業なテンションをしていいのか?
「……まぁ、本人達がいいのなら別にいいか」
「ん、狂拳さん今なんて?」
「何でも。それよりも次でラストだったよね?」
「ええ。そろそろ最下層……まぁ要は、このダンジョンの主のエリアが見えてくるはずですよ」
とりあえずこの事は放っておくとして、道が下り坂になっていくのがよく分かった。
さらにコユミが言うには、ゴールである最下層が見えてくる頃合いらしい。
そこにはダンジョンの主であり最強のクリーチャーが必ず待ち受けているとも。
最強のクリーチャーか……どんな奴なのか楽しみだな。
「……おっと、見て下さい狂拳さん」
コユミが足を止めたと思えば、前方へと指差す。
そこには人間1人落ちれるような大きな穴がある。
中を覗き込むも、暗くて全く見えない。
「この下にダンジョンの主であるクリーチャーがいるかと。しかも穴から落ちるので、《ワープ》以外の退路はありません」
「なるほど。いよいよ大詰めって訳なんだ」
「そうですね。準備はいいですか?」
コユミの問い掛けに、私は無言で頷く。
それから彼女と共に、主が控えているであろう大穴へとダイブ。
本来なら骨折不可避な高さがあるが、ここはゲームの世界。難なく着地する事に成功する。
空間は異様に広く、さらに光石が少ないながらも存在しているので、ほのかに辺りを照らしてくれているようだ。
私がそんな空間を見回していると、不意に前方から轟音が発してくる。
ズウゥウン……ズウゥウン……!!
足音みたいだ。
さらにその音が近くになるにつれて、にじり寄ってくる異形の影。
私とコユミが警戒をすると、最初に鋭い牙と鬣を備えたドラゴンの顔が見えてきた。
続いて甲殻に包まれた強靭な四肢、鋭い棘の生えた甲羅、そして数十メートルはあるだろう巨体。
――ギュオオオオオオオオオオオオオオンン!!!
概ねそれは、ドラゴンの頭部を持ったカメの怪物だ。
名前は表示されたウインドウを見る限り……《タラスク》。
〈な、何だコイツ!!? タラスク!!?〉
〈初めて見るぞ!? 新種か!?〉
〈うわああああああああ!! 見る限りにヤベェ!! ヤベェって!!!〉
〈しかもドラゴン系!? ドラゴン系クリーチャーは確か強いんだろ!?〉
〈それでいてダンジョンの最下層の主って!! 狂拳先輩とコユミちゃんを信じていない訳じゃないけど、勝てるのかこれ!!?〉
どうもコメントを見る限り、このクリーチャーは新種かつドラゴン系クリーチャーであるらしい。
他ファンタジー作品の例に漏れず、《クリワイ》においてもドラゴン系は希少で最強の存在だ。
そのドラゴンがダンジョンの最下層に位置する主……恐らくアイアタルなんて目じゃないだろう。
「一応聞くけどコユミ、ドラゴンと戦った経験は?」
「1回だけ。まぁそれなりに苦戦しましたが……むっ!?」
気配を感じたかのように後ろへと振り返るコユミ。
実を言うと私も同様だった。
――ジャアアアアアアアアアア!!
奇声を上げながら突進してくる何かが現れたのだが、私達はそれを難なくかわす。
突進してきたのは2体のアイアタルのようで、私達へと敵意の睨みを利かせてくる。
――ジュウウ……
――ジャアアア……。
「横やりとはさすが高難易度ダンジョン……。狂拳さん、コイツらは私がやりますので、アナタはタラスクを!」
「大丈夫なの?」
「はい! こうなれば別々に行動しての撃破がいいでしょう! コイツらを倒したらすぐに駆け付けますので、どうか持ちこたえて下さい!!」
そう言って、2体のアイアタルに向かうコユミ。
これで私は必然的に、1人だけでタラスクと戦わなければならなくなったようだ。
〈ああ、分断させられた!!〉
〈相手はドラゴン系の最強クリーチャー……コユミちゃんでも苦戦する相手を1人で戦うとは!〉
〈ヤバい……変な汗が出てきた……〉
――グルウウウウ……。
タラスクが1人になった私をしっかり見据えている。
間違いなく敵意の感情むき出しだし、逃がすつもりもないだろう。
……ならば、相手をしてやるまで。
私は整うように一呼吸を入れ、両足をどっしりと地面に付かせつつ構えを取る。
空手を習っていた頃によくやった試合前のポーズ。
つまり今の私は準備万端であり、いつでも掛かってきても構わないという意志がある。
「来なよ。動画に映れないくらいグチャグチャにしてやる」
〈いやアカンでしょうそれは!!〉
――ギュオオオオオオオアアアアアア!!!
私の挑発に乗ったのか、咆哮を上げながら迫りくるタラスク。
それから奴が前脚を振るってくるので、私は横っ飛びで回避。
前脚は私のいた場所に振り下ろされ、轟音と瓦礫を発生させる。
「ドラアアア!!」
次は私の番。
すかさずタラスクの顔近くに潜り込み、その頬を殴り付けた。
……が、手応えがない。
奴の顔全体に強靭な甲殻があって、私の攻撃を防いでしまったようだ。
〈アイアタルをボコボコにした先輩の虐殺パンチが!!〉
〈↑虐殺パンチとかいうパワーワード〉
〈↑いやいや、それ言っている場合じゃないだろ!!〉
――ギュアウアア!!
タラスクが顔をよじらせ、私を軽く飛ばしてしまう。
それで私が後方に着地した後、奴の大口が大きく開く。
――キィイイイイイイイ……バアアアアアアアアア!!!
直後、タラスクの口から鼓膜を破かんほどの大音量と歪みが発生。
私が瞬時に避けると、その背後にあった壁が豪快に吹き飛んだ。
〈ヒイイイイイイイイイイ!! 壁が吹っ飛んだぁああ!!〉
〈咆哮の衝撃波だ!! あるいは超振動波!!〉
〈こんなんアリかよおお!!〉
――ギュオオオオオオオオオオオオオオンン!!
気を良くしたのか、タラスクが再び衝撃波を放ってくる。
私がかわすと背後の壁が粉砕され、さらにタラスクが追加とばかりに放ってくるのでそれもかわす。
そしてまたもや壁が粉砕。
あの攻撃でまともに近付けられないみたいだ……さて困ったな。
〈やっぱりだ!! この新種クリーチャー相当TUEEEEEEEE!!〉
〈どうします、狂拳先輩!! このままじゃヤバいですぜ!!〉
〈ここは一旦、コユミちゃんと合流して連携を……〉
「少し黙ってほしいんだけど。気が散るんで」
〈あっはい〉
〈やべ、狂拳先輩を怒らしちまった!〉
〈すいやせんでした!〉
――ギュオオオオオオオオオオ!!
コメントが静かになったと思えば、タラスクが衝撃波の準備をしてくる。
いよいよもって業を煮やし、私を葬り去る気でいるようだ。
もっとも、大人しくやられるつもりないけどさ。
「いっちょやってみっか!!」
〈えっ!?〉
〈先輩何を!?〉
私はこの時、あるものを取り出していた。
先ほど《ビルド》で作成したリザードメイルだ。
それをバカらしく開けているタラスクの大口へと、サッカーボールのように蹴り飛ばす!!
「プレゼントぉお!!」
〈〈〈ぼ、防具を蹴ったああああああああああああああああ!!??〉〉〉