第三話 「4月17日 “天才”と“直撃加速” 後編」
「え? 爆弾を持っているだって⁉」
『そうなの! 今犯人が乗っている車両に乗り込んだまなるって人の録音機に』
「まなるだって⁉」
なんてこった、まなるがちょうど犯人と対峙しているだなんて。しかも爆弾……。
『起爆スイッチは犯人の手の中、爆破されると人質もまなるもどかんしちゃうの。だから彼女の能力も発動できないみたいなの』
「それじゃまるで身動き取れない彼女もまた人質……てことか」
僕は飛行をやめ、線路上に着地した。犯人にこれ以上刺激を与えてしまうと起爆されかねない。
「スノボー、何か打開策はないのか?」
『それが、あんな風に単純な脅しほど恐ろしいものはないの。最近の犯罪は複雑だけど、私が源になるデータにアクセス、書き換え、破壊すればすぐ詰ますことができるの。でも今回みたいなのには特に絡み手がない、だから私の専門外であって………………』
「そう、か。ごめんね」
『なんで謝るの?』
今回は確かにスノボーの出番はない。彼女はサイバー専門だ。こんな事件は全くの専門外であり、むしろ協力してくれるだけでありがたい。そう、彼女はこう見えてまだ中学生なのだ。なのにいままでの活躍からいつの間にか彼女の才能に甘え、頼りすぎていたのかも。
僕は線路の上を早歩きする。今の情報はほかの部隊にも連絡されているはず、なら自分から刺激するような真似は誰もしないだろう。でも、だからと言ってこのままにするわけにはいかない。まだまなるに能力の名づけしてないんだ。
地下のトンネルだからか少し肌寒い。鉄のにおいが鼻を刺激する。向こうまで続く線路。いままで電車の窓からしか見てなかった景色。その中を一人歩くのが少し寂しかった。駅間は思っていたより離れていて、ゴールはまだ先。
「シンプルすぎる」ゆえにこれといった打開策がない今回の犯行。むしろ回りくどかったほうが簡単だと、彼女は言った。彼女はそちら方面の人間だから。なら僕は何をすべきなのだろうか。
僕はスノボーほどの才能も、コンピュータやネットに関する知識を持っていない。だからと言って重二先輩やまなるのような決定的な火力を持ち合わせているわけでもない。
確かに僕はこの都市でも指折りの能力者だ。それは別に隠すことでもないし、自分でもわかっている。この能力がなす「翼を背に、空を自由自在に飛び回る」ことは他の誰から見ても手が出るほど欲しいものであるだろう。実際昔から僕は他の能力者からいじめられていたりした。仕方がないことだと思う。能力は持っている“能力粒子”によって決定されるが、種類はランダムだ。そして変えることもできない。
この理不尽なガチャのいわゆるSSRを引き当てた僕は当然嫉妬の対象になるはずだし、僕も実際自分よりも圧倒的に強い能力、特に完全上位互換のようなものを持っている人を見てしまった日には嫉妬してしまうかもしれない。
だから僕は母の言葉に従いながら、自分にしかできない“正しいこと”を探し続けた。その結果がここで、そして今だ。僕にしかできないこと、それがこの事件の解決に繋がってほしい。
そう思いながらただひたすら歩き続けること数分後、通信機に突然着信があった。僕はボタンを押し、応じるとスノボーの声がが再び耳を刺激する。
『翼、聞くの! 打開策見つかったの!』
「打開策⁉ それって……?」
通信機の向こうでは、興奮しているのかいつもより元気な声が聞こえてくる。それほどまでに彼女にとってその“打開策”が面白いものだったのだろうか……?
『とにかく、翼の助けが必要なの! 翼にしかできないことなの!』
思わず息をのんでしまった。僕にしかできないこと、今最も求めていたもの。それがさっそく向こうから来てくれるなんて。僕は向こうからは見えないことは知りながらも、うなずいて同意を示す。
『それは……』
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「爆弾…………」
私、弐重玖保まなるはこの絶体絶命な状況に自分は何もできない無力感を感じながら手にしていたボールを握りしめます。今回は特に厄介です。周りにはたくさんの人質、他の車両にも。
そして犯人の手には爆弾。彼が言うにはすべての車両を一瞬で吹き飛ばせるらしいですが、それが誇張された嘘であっても、見た感じ爆弾は本物のようなので、少なくともこの車両に恐ろしい被害をもたらすのは確実でしょう。
「あれぇ? さっきまでの威勢が嘘のようだなぁ! そこまでしてこれが怖いか?」
「あなた、それを起爆すると自分がどうなるか承知の上で?」
「もちろん。だからこれを選んだのさ」
犯人が爆弾を目の前に差し出し、それをなめだします。きもいです。
「俺の人生はもう限界なんだ。だからここでみーんな不幸にして死んじまったほうがいいと思ってな」
「自ら命を絶つことも法で禁止されています。第一、それに私たちを巻き込まないでください」
「いやだね。ひとりで死ぬのなんで嫌じゃないか」
なるほど、この日と寂しがり屋さんなのですね。ひとりは嫌だと、勿論それは誰でも持つ感情です。基本ひとりで日々任務に勤しむ私だって、時折寂しいと感じることもあります。
「でも、あなたの死に私らがお供する道理はないです」
「でもあるんだよなぁ、そ・れ・が。……特にお前」
彼は苦虫をすりつぶしたような顔で私をにらみつけてきました。
「俺はなぁ、お前みたいな才能あるやつが嫌いなんだよ」
「私?」
「ああ、その超能力とやらがな。この都市の“優秀能力者生活保障システム”って知っているか?」
優秀能力者生活保障システム…………確かこの都市で優秀と認められた能力者は毎月給付金が振り込まれるシステムだった気がします。私はまだ能力が目覚めたばかりなので振り込まれておりませんが、先輩によると毎月20万ぐらいだった気がします。
「俺の家は代々大きな地主だったんだ。でも俺の父が投資で大負けしたことでうちは没落。父は家を出ちまったのさ、女と共にな。母も見捨てて。だから俺はこの都市に来た。優秀だと認められれば、母を楽させることもできるからな」
「そんな訳が………………」
「でも俺の能力は結局目覚めず、母は死んじまった。もともと病弱だったのに、こっちに仕送りまでしてたからな。もう俺が生きる意味なんてないのさ」
「確かに、ひどい思いしてきたのですね」
もしこの人に才能、いや、強力な“能力粒子”さえあればこんな思いしなくて済んだのでしょう。能力の優劣は偶然与えられた粒子の出来で大体決まります。生まれつきでもなく、本当に偶然の産物で。
なのに本当に必要な者には与えられず、それで人生が、自分がどれだけ上の立場になるのかが決まってしまいます。
「あなた、本当は優しいのですね」
「うるさい! 慈悲の目ぇ向けられるほうがつらいんじゃ! お前も、俺を下に見て!」
彼は爆弾に取り付けられている起爆スイッチを押し込みました。私はとっさにボールを投げましたが、間に合いません。そのまま爆弾は起爆、この車両の命を一瞬で奪い去り――
――ませんでした。うんともすんとも言わず、その爆弾はそのまま。
「え? な、なんで? どうして!」
ボタンを連打する彼。でも爆弾は当然というようにただあるだけ。爆発する気配すらないです。
「そんな! これは本物のはずなのに!」
「そうだ、それは本物」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきました。私ははっとなり振り向くと、そこには“翼”を生やした少年がひとり。なんとあの正義翼さんです。
「正義さん!」
「待たせたな、まなる。それと、そこの爆弾野郎」
「なぜ、爆破しないんだ!」
「そんな答え、簡単さ」
正義さんは得意げに口角を上げ、告げた。
「あの爆弾はネットに繋がっていたのさ。しかもどうやらそこにアクセスしてほんのちょっとプログラムするだけでロックをかけることができるんだと」
「…………うちの情報担当が言ってたよ」と続ける。
「なんでそんな細工……っ! アイツの仕業か! くそっ、もうめんどくせぇ、死ね!」
犯人がナイフを片手に、正義さんに襲い掛かります。しかし彼は“翼”を展開させるとそれでナイフを受け止め、その羽でからめとりました。
それと同時に羽は犯人の身体さえも拘束し、動けないほどに抑え込みました。
「皆さん! 早く逃げてください!」
「は、はぃぃ……」
とりあえず今は人質たちの救出が最優先です。何とか今のうちに全員車両外に移動させることができました。
「畜生畜生ちくしょう!」
そんな様子に犯人は悔しいのか地団駄を始めました。そんな様子に対し、正義さんは冷徹に言い放ちます。
「無駄な抵抗だ。………………まなる、やれ」
「はい、今度こそ…………」
私はボールを握りなおすと“能力粒子”を込め、投げる動作を始めます。
「放て! “直撃加速”を!!」
「えい! ……は?」
放ったのも束の間、正義さんの放った意味不明な言葉に戸惑い、力が抜けてしまいました。しかしそのころにはボールが犯人に直撃していたので関係ありません。
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「で、なんですかそのダサい名前……」
「ダサい⁉ なわけないだろう。僕の渾身の名づけだよ?」
「ラブラブでございますなぁ、まるで夫婦だ」
「「ちがうわ! まだ二回しか会ってないわ!」」
「夫婦は否定しないんだ」
「それも含めて否定していると思うの………………」
てなわけで僕たちは事件解決の戦勝祝いとしてファミレスでお茶している。ちなみに料金は司令が出すみたいなので本来は気を使ってあまり高いものを食べないのだが……。
「まなる、食べすぎなの」
「おごってくれるんですから………………もぐもぐ………………目いっぱい食べるのが“正義”です」
「お前が“正義”を語らないでほしいな」
僕はパフェ三種を順番につつくまなるを横目に重二先輩のほうを見る。彼もまた“容赦がない”人間なので、ビッグパフェを貪っていらっしゃるが……。
「うぇぇぇん……、私の財布がぁ」
おお、かわいそうな花咲司令、財布に効果抜群だ。
そんなこんなしているうちに、プルルル、と着信音が聞こえてくる。
「あ、私なの」
同席していた“スノボー”こと若葉ぼたんはスマホを片手に、お手洗いのほうに小走りで向かっていく。
「………………にしても“直撃加速”なんてダサすぎます。もう少しいい名前は……、まあ頼んだのは私ですが」
「何言ってんだよ、最高じゃないか。“直撃加速”とかいて“ストライク・ジェット”だよ」
「諦めろ、まなるさん。こいつはもう“手遅れ”だ」
「……そう、ですか」
残念そうに、でもどこか満足げな顔のように見えたまなるさん。その表情が何を表してるのか理解に苦しむがまあ悪い気はしなかった。
「お姉ちゃんたちに呼ばれたの。今日はみんなでご飯だって、だからここで私は帰るの」
「じゃあ、ここで解散しましょう。キリがいいし」
僕は立ち上がってみんなに提案する。このまま続けていたら司令の生活費が危ない。司令も僕をあがめるように手を組んでるし。
――フェミレス前から見た空はすでに夜になっていて、ビル群の電灯がまぶしい。すでに司令、重二先輩、ぼたんはそれぞれ別方向に帰っていった。残っているのは僕とまなるだけ。
「あのですね、その……私の部署、廃部になるんです」
「ふぁ⁉」
突然のカミングアウトに僕は思わず声を上げてしまった。
「え? 廃部?」
「はい、もともといた先輩が引き抜かれて今私一人なんです。だから統合することになって」
「そうなんだ。でも特警は続けるんだね」
「はい、勿論。だからこの能力名ともずっと一緒になってしまうんですけど」
「な、なんか……ごめん」
やっぱり、あの名前あまり受けないのかな。思わず謝ってしまった。
「でも、変えなくていいですよ」
「え?」
彼女は僕から離れ、自分の方向に向かって歩みだす。
「じゃあ、今回はありがとうございました…………じゃあね」
「うん………………」
「それと、」
まなるは「あっ」と声を漏らし、こちらに振り返る。
「あの名前、悪くないですよ……」
「え?」
「まぁダサいことに変わりはないですが。じゃあまた」
彼女はすたすた人混みの中に消えてしまった。僕はそれを追うわけにもいかず、立ち止まったまま、暫く硬直した。
一言余計だな……。でも拒絶されないだけよかった、かな。
~続く~
次回は新たな事件が……?
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