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第一話 「4月16日 桜浜市の希望(特別警察委員会)」

 ふああああ、ねむいなあ……………………。


 放課後、僕、正義翼せいぎつばさは仕事場である特別警察委員会中央第八地区部署にて眠気に負けてしまいそうな自分を抑え込みながら背伸びする。そんな僕を見かねたのか、この部署の先輩である裁鬼重二さばきじゅうじが声をかけてきた。


「正義君、昨晩も大忙しだったんだって? 無理する必要ないし、休んだほうがいいんじゃないか?」

「いえ、僕まで休んでしまうと先輩しかいなくなってしまうじゃありませんか」


 昨日の深夜、突如爆破された東桜浜市行政ビル。僕はそこの調査と犯人の確保のために出動した。残念ながら犯人はすでに逃走、足跡などの証拠もなかなかつかめずに終わってしまったのだが。幸い深夜ということもあり被害者はいなかったらしい。


「しっかし、なんと言うか被害自体はひどかったってな。お陰で重要な機密データがいくつか飛んだ? とか。……俺っちも行きたかったな」


 「うーむ」と頭を掻きながら悔しそうに先輩は言った。昨晩の事件では混乱を防ぐためメンバーが限られており、俺とオペレーション担当の後輩以外は出れなかったのだ。その後輩は昨日いろいろな情報と格闘していたこともあり、現在自宅でぐっすりというわけだ。


「まあ、今のところ僕らしかいませんもの。もし非常事態があった時に…………」


 ジリリリリリリ! と警報が鳴る。ほら言わんこっちゃない。また事件のようだ。


「おお、またかよ! こんな時に!」

「しょうがないです、僕たちだけでも」


 そう話す俺らの横を、一人の成人女性が通る。彼女はやがてホワイトボードの前に立つと、大きなあくびをしながらペンを執る。


「おまえら仕事だよお、今回はどうやら東側を通る循環道路でワンボックスカーが銀行から巻き上げた大金を持って逃走中っぽい。今すぐ行ってねえ」

「「はーい」」


 僕らはここの指令官である花咲はなさきかおりのペースに従って緩く返事した後、部署を飛び出した。


 関東に位置するある都市、桜浜市。ここは国から指定された超能力開発都市でもあり、しかしその情報は外部に漏れないほど閉鎖的な場所でもある。人口200万人、超能力を持つ者、持たない者もこの都市に入ったからには出られない運命を持っている。なのでこの街は日本の中にありながらも独自の法を持つ一つの国家になりつつある。そしてもちろん犯罪も特殊なものが多く、それに足してもともと治安も悪いため、日々派手な事件が日常的に起きている。


 それに対して封鎖的なこの都市では警察という日本国家の機関を採用せず、その代わりに超能力を持つ者たちによる犯罪対応機関“特別警察委員会”が存在している。この都市の様々なところに支部を抱えており、日々起こる犯罪の対応に追われている。そして“能力粒子”を持つ者たちの年齢の関係上、15歳から25歳までのものが多いため、学生がほとんどなのである。


 僕は自身の“固有能力”である“翼”によって背に展開した羽で空をかけながら、目的地のワンボックスカーを追う。先輩は走りながらの為少し遅れてしまう。それまでの間、時間稼ぎすることが今回の僕の任務だ。


 速度を上げて追いつこうとするが、こんな時に限って眠気が僕を誘う。それにつけ足して“能力粒子”の消費も激しいためなかなか出せない。


「このままじゃ、追いつけない……っ」


 と、その時、僕の通信機に司令官からの連絡が入る。


「どうしましたか?」

『やっぱお前本気出せないようだねえ、そこで東部の支部から一人応援に来るらしいよお。そんじゃ、なかよく協力してねえ』

「え?」


 応援だなんて、聞いてない。僕が困惑していると、後ろからエンジン音が聞こえてきた。僕が振り向くと、確かにバイクに乗っている一人の女子が見えた。あの制服は……皆川(みなかわ)学園の生徒だろうか。


 そのバイクが俺の前に止まり、乗っていた生徒が僕に話しかけてくる。


「なんで追いかけないんですか?」


 開口一番、これだ。すこし威圧的で責めるような口調。


「昨日の任務の疲れが取れていなくて、本気を出せなくて」

「はあ? それで特警を名乗る立場の人間ですか? 疲れて動けないだなんて。ほんとにあの部署は優秀だと聞きましたが、司令官含めてみんな鈍っていますね!」


 ムカッと来た。この人うちのことについて()()しらない。司令官、起こった時はほんとに怖いのに…………。


「もういいです。この時間も無駄です、犯人は私だけで対処しますので」

「え、ちょっ……っ」


 そう言って女子生徒はバイクで走り去っていく。まずい、女の子ひとりを向かわせてしまうなんて。


 僕が戸惑っているところに、ようやく重二先輩が追い付いてきたようで、僕の横ではあはあ息を切らしながらたずねてきた。


「なあ、今のアイツが…………?」

「はい、応援の人のようですが……」 


 かくかくしかじかと話すと、先輩も憤りを感じたようだ。


「はあ? うちをなめるなんて言い度胸だな! よし、俺っちたちの手柄にしてわからせてやろうぜ!」

「わからせるって、そんな感じじゃ」


 しかし、僕の眠気のしぶといようで、なかなか動けない。そんな僕を見て「あ」と気づいたように先輩がガッテンする。彼は持っていた袋から何やらドリンクっぽいのを取り出し、僕に手渡した。


「ほらよ、これ」

「はい?」

「エナドリだよ、ここに来る途中に買ってきた」

「いや、こんな時に悠長にコンビニ寄ってんじゃ……っ」

「お前の為だからな」

「……………………じゃあ、いただきます」


 僕はそれを受け取ると、ぐぴっと一息に飲み干す。するとたちまち眠気が収まり、羽も調子を取り戻したのが伝わってくるのを感じる。


「先輩、ありがとうございます! なんか悔しいですが」

「確かにさ、任務っつー時に悠長に買い物するのはまずいけどよ。でもさ、俺っちにできることは何かなと思った時、その答えにたどり着いたんだ。……まあ、答えって決めたわけじゃないけど……って聞けよ最後まで!」


 その時僕はすでにワンボックスカーとバイクが向かったほうに飛んで行った。まあ、聞こえてましたよギリギリ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 へへ、ここまで逃げてしまえばもう追いつけないよな。と俺は隣のひょろがり相棒と笑いあっていた。


 俺たちは先ほどまで謎の“翼”の生えた学生に追われていた銀行強盗。さっきのはたぶん幻だと思いたいが、いつの間にか消えていてその代わりに一つのバイクが追いかけてくるだけになった。


「あれどうするんすか?」

「まあに、アイツらでも都市の外には出れまい。そこまで行ってしまえば俺たちの勝利だ」

「なあんだ、かんたんじゃないっすかあ」


 さっきまで寝ていたし、のんきな奴だ。まあ、逃げきれたところで邪魔だから早めに()()する予定なのだがな。そんな俺の気も知らず、「それでっすね」とそいつは話し始める。


「なんかさっき、かなり急いでたようでしたっすけど、なんかあったんすか?」

「そうか、おまえぐっすりだったもんな。そうだな、なんつーか“翼”?が生えた男子生徒みたいなやつが追いかけてきたのよ、ちょっと怖くてさ」

「はい? “翼”? それって超能力の?」

「超能力なのか?」


 確かにこの都市の持つ超能力者は様々いるが…………“翼”を生やすものもあるのだろうか。と横をふと見ると、相棒ががくがく震えていた。


「まずいっすよ、もしかしておらたち、とんでもないものに手を出してしまったかも……っ」

「なんだって? とんでもない?」

「はい、たしか“翼”の能力を持つ人ってこの都市最強の特警と呼ばれる……あっ、ミラー! ミラーを見てくださいっす!」


 最強? と眉をひそめる俺だったが、反射的にミラーを見たとき、それは一瞬で恐怖にすり替わった。


 そこに映っていたのは、猛スピードで追いついてくる“翼”の能力者だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 追いついた! 僕はそのまま並行的に車の上を飛ぶ。これだけで威嚇にはなるが先輩もオペレーターもいないので決定打を使えない。


「あなた! そんなに速く⁉」


 後ろで走っていたバイクの少女が、大声で驚いたような声を出す。へへ、どんなもんよ! と言いたいところだが、なかなか確保までは至れない為、まだ言えない。


 その少女はそのまま大声で僕に話しかける。


「ならその車の運転を真っすぐにしてもらえないですか? 蛇行運転じゃ()()が定まらないのです」

「狙い? 君、飛び道具系なの?」

「はい、私の力でそのタイヤをパンクさせられます。少なくともあなたの能力よりかは役に立つはずです」


 一言余計だな、と思いながらも、今の状況を打開するためにはそれしかない。僕は車の上を高速で左右に移動する。この車は僕の飛行を避けるように移動するからこうすれば完全ではないにしろ、的として当たりやすいようになるはず。


 そうしていくうちに、だんだん車体が真っすぐに走りだす。今なら絶好の的になるはず。背後でバイクの音が止まった。どうやら狙いを定めているみたいだ。そして後ろから少女の叫ぶような声。


「とりあえず感謝します。食らいなさい!」


 その瞬間、空気が震えと共に、車の後ろに衝撃が走る。見ると後方が大きくへこんでいた。恐ろしい威力、これを彼女が…………?


「どんなものです! てああ!」


 ふと見た彼女の顔ははじめどや顔だったが、そのあと一瞬で驚きに変わる。なんと車がまた走り出したのだ。


「く、しぶとい奴らめ!」


 僕は急いでトップスピードになっていない車の前方に飛び、正面から抑え込む。中から驚いたような二人組の顔が見えたが、止まったのは一瞬。またアクセルを踏んだようで、タイヤがキキーッっと音を立てて僕を吹き飛ばそうとする。やってしまえば罪を重ねることになるのに、愚かだ。


「早く! もう一発タイヤに!」


 僕は少女に指示する。よほど命令されるのが嫌なのか彼女はしかめっ面になったが、やがて腰に巻いていたナイフを持つとに狙いを定め始めた。


「行きますよ! それ!」


 そのナイフは彼女の手を離れるとどんどん加速していき、やがてタイヤに着弾。一瞬で破裂させる。


「さあ! 降伏しろ! もう退路は」


 しかしいまだにアクセルを踏み続ける犯人。僕は“翼”を羽ばたかせ抵抗するが、押され気味になっていく。


「もう一発! 早く!」

「だめです! もうナイフはありません!」


 そんな、一発だけなのか。なら手を放して動き出した時すれ違いざまに“能力粒子”で形作った剣でタイヤを切りつけようと思ったが、リスキーな手段だ。ウィールが地面に接触して嫌な音を出し続ける。不快だ。


 どうすれば、と悩む僕。そろそろ粒子の残量も限界近い。負けそうになる自分を鼓舞する。


「こんなところで、正義のヒーローがやられるもんか。絶対に、悪を裁かなくちゃ……っ」


 そうだ、僕は“正義”そのもの。悪をこの世から消し去るためにここにいるのに、負けてたまるもんか。僕は決意を新たに全力で押し返していく。


「すごい、あんなに出来るエネルギーがあるなんて」

「…………あれが、アイツの原動力なのさ」


 突如、重二先輩の声が聞こえた。やっと着いたようだ。


「先……輩、早く」

「ああ、お前の信念、無駄にはしないぜ」


 僕は手を放す。するとたちまちその車は不快な音を立てながら道路を走り出す。それに対し、先輩は目を閉じると、手を出し、それを車の位置に移動する。


「何する気なのですか?」

「………………ショータイムさ」


 そう軽く答えた先輩はその手を左にスライド。すると車は急に左に傾き続け、道路のガードに当たり、擦り続けた。きいいいいと側面が削られる音がする。


 先輩の能力“重心移動”。対象ひとつの重心を自由に変えられることができる。車はそのまま側面のタイヤをパンクさせ、止まった。


「そんな、強い能力……っ」


 少女は絶句し続けた。よほど先輩の能力に感心したらしい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後、僕は確保に来た別動隊から話を聞いた。


「そうですか、ふたりとも軽傷で済んだ、と」


 犯罪者の命なんかどうでもいいが、死んでしまったら取り分が減らされるらしいし、何より札束は無傷だったようなのでミッションコンプリートといったところか。僕は隣にいる少女の顔を見る。いまだ驚いているようだ。(ちなみに先輩は向こうで指令に報告中だ)


「信じられません、あの状況から一撃でなんて」

「君もすごかったよ、あの時タイヤひとつつぶさなかったら、僕は吹き飛ばされてお陀仏だった」

「そうですか、まああなたがそんな風に無様に死んでしまうのもなんか癪なのでよかったです」


 冷たく返事する少女。その様子に僕は溜息を吐くが、一番聞きたかったことを聞くことにした。


「ねえ、その能力ってどんな名前なの?」

「……決まってません」


 真顔で当たり前のように少女は言った。


「決まってない?」

「はい、発言したばかりなのに対してこの能力と同系統のものがないので、私自身が決めるようなのですが」

「そうなのか、どんな能力なの?」

「自身の“能力粒子”が触れた物体を加速させ、対象にぶつけるものです。……まああなたには何もわかりませんだろうとおもいますが」


 加速、直撃か。


「君の名前は?」

「私ですか? 教えませんよ。もう会うことはそうそうないですし」


 確かに別の区を担当する特警とはそうそう会わない。今回はレアケース、たまたま応援に来たのが彼女だっただけ。でもひとつ提案したかったのだ。


「でも、名前を教えてくれれば検索して会いに行ける。だから教えてほしい」

「え? なんですかストーカーですか? すいませんあなたに興味ないんで消えてください」


 冷たくののしるような声の少女。にしては少し顔が赤いような。


「だから! 違うんだよ」

「なんですか! 検索して会いに行くって時点でじゅーぶん……っ」


「君の能力を名付けたいんだ!」


「へ?」


 自分のネーミングセンスには自信がある。彼女が決められないなら僕が名づける。一生の相棒になる能力だ。名前がないと残念だろう。彼女は目を白黒させていたが、やがてピタッと止まるとそっと一言。


弐重玖保にじゅうくぼまなる。私の名前」

「まなる、ね。オケオケ」

「すぐ呼び捨てはどうかと思いますが…………あ、もう時間です。行かなくては。それでは」

「じゃ」


 僕は去っていく少女に手を振る。それに対して彼女は立ち止まると、微笑みながらこちらを向いて


「名前、楽しみにしてますよ。………………一応」

「一言余計だなあ」


 お互い手を振り、それぞれの場所に帰っていく。その背を夕陽が照らしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その夜、僕はエナドリのせいで眠れない代わりにさえた頭で、まなるの能力名を考えていた。こりゃ明日も眠気と戦うことになりそうだな、と考えながら。


~続く~

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