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追加EP:二週目

 カメラを仕掛けてから嘘みたいに手紙が来なくなった。

 次に手紙が入っていたのは翌週の金曜日。

 金曜日に手紙とか、エナみたいなタイミングでちょっと笑える。


『海外遠征中はスマートフォンの所持禁止なんだ。デジカメは許可されてたから、写真一杯とってきてあげるからね。あと……連絡取れなくても、浮気したら泣くからね? 死んで化けて呪っちゃうからね? 分かった?』


 美恵は昨日オーストラリアへと旅立ってしまった。

 一番手紙の件を気にしてたから、報告出来なくて残念だ。

 浮気か……美恵の方がスター選手に囲まれてるのだから、僕の方こそ心配だよ。


「んー、かなり背が小さい子なのかも」

「そうだな、手しか見えないとなると、百五十ないくらいか?」


 健斗と二人、録画された映像を確認する。

 映っていたのは女の子であろう小さな手、他は何も映っておらず。

 録音機能は搭載していなかったみたいで、音声とかは皆無だった。


 時刻は朝の六時半、運動部の生徒が来るにしても相当に早い時間帯だな。

 無音のまま下駄箱が開き、ぽいっと手紙が置かれて、そのまま閉じる。

 わずか一秒にも満たない犯行は、もはや手練れと言っても過言ではない。


「実在する人間だったのか……しかも女の子だとすると、無視し続けるのは可哀想かも」

「幽霊だったら、写真部的にはネタゲットで良かったんだけどな」

「実際どうなの? 心霊写真とか心霊動画って」

「映る訳ねぇだろんなもん。大抵影かなんかだよ。今はタッチ一つで人間消せる時代だからな、ああいうのはダミーと割り切って楽しむのがベストだぞ」

 

 夢がないなぁ……でもま、その方が僕も楽しめていいかな。

 美恵とホラー映画とか見たら楽しそう、きゃーとか言ってくっついてきそうだし。

 ……そうじゃなくても、くっついてきそうだけど。


 

――――放課後



 今回指定されたのは、前回同様、放課後の講堂裏だ。

 もうすっかり冬景色になった鼠色の空を見ながら、美恵との思い出に浸る。

 

 講堂裏か、煤原先輩に呼び出されたのもこの場所だったっけ。

 二か月前か……時間が経つのは本当に早いな。

 色々なことが重なりすぎてて、何もかもに必死だった気がする。

 

 美恵と国見さんは今頃合流したのかな? 国見さんとの連絡は生きているのだから、メッセージ送ってみるのも……んー、でも「二人の間に挟まないで、迷惑だって考えられないの?」とか言ってきそうな気がする。


 メッセージが来たら返事するか、うん。


「……あ」


 枯れ葉を踏みながら現れた一人の女の子。


 背が小さい、画像での予想的中といった感じかな。手入れされていないボサッとした長い髪は背中くらいまであって、それになにより特徴的なのは瓶底メガネだ。多分、視力相当悪いぞ。輪郭が歪む程のメガネということは、視力0.01以下の可能性大。

 

「あ……あ、あれ? な、なんでいるんですか?」

「なんでいるんだは随分だな、君が手紙出してくれてたんじゃないの?」

「そそそ、そうですけど、でも、ずっと来なかったのに」

「ずっと来なかったのは無記名だったからね。無記名の場合、イタズラと判断して捨てちゃうからさ」

「そう、ですか…………じゃ、じゃあ、せっかく来てくれたので…………あの、空渡さん」


 告白とかじゃなさそうだな。

 というか、あれだけ騒ぎになった結婚式を知らない生徒はいないだろうし。

 おかげ様でこの子以外の手紙は一枚も来なくなったんだから、結婚式の効果は絶大だ。


「空渡さんって、メガネ外して会話練習、してたんですよね?」

「……誰からそれを?」

「人伝です、結婚式で有名になる前から耳にしてました」


 そうなんだ……僕達三人の秘密だったはずなのに、いつの間にやらだな。

 そもそも教室だし、誰かしらに見られててもおかしくはないか。


「それで? 僕を呼び出してまで、何がしたいの?」


 小さな彼女は、両手をぎゅっと握り締めて、瓶底メガネの底から僕を訴える。

 そしておもむろに外したメガネ、その中から現れた素顔に、僕は驚きを隠せないでいた。


「私、一年一組の青葉(あおば)(しずく)っていいます! 私、私も、貴方と同じように会話練習がしたいです! 異性に慣れたいんです! 今のままじゃ会話も何も出来なくて、何も出来ないままに一年生が終わっちゃって、恋愛とか何にも出来なくて、そもそもメガネしてるだけでメガネブスとか言われて、もう自信の自の字もないんです!」


 ……嘘だろ、ボサボサ頭の中に輝く原石が見える。

 これが、国見さんや高橋さんから見た、僕だったって事か?

 誰が見ても可愛い、いや可愛すぎる、異常なまでに可愛いぞ。

 この子がもしモデルやアイドルを目指したのなら、多分秒でトップに躍り出る。


 どうする、いきなりマネージャーの田中さんに紹介するのもアリか?

 いや、この子はまだ異性になれていない、いきなり業界入りさせるのは酷か。

 だとしたら、まずはこの子の言う通り、異性になれさせるのが先決か。


「こうしてメガネ外さないと、視線が怖くて会話も出来ないんです。だけど『目を見ないで会話とか失礼だよ』って友達に怒られちゃって、だからもう私、どうしていいか……」

「……分かった」

「分かってくれましたか!」


 ぱぁっとした表情も可愛いな、歌って踊れるんじゃないか? 

 鈴を転がしたようなアニメ声だし、動画配信でも映えそう。

 可能性しか見えてこないな、この子、絶対に逃しちゃダメだ。


「えっと、そうだね、毎週金曜日の放課後、メガネを外して教室で待っててくれるかな」

「毎週金曜日、ですか。え、でも、メガネ外してたら見えないんですけど。それって結局空渡さんの眼が見えなくて、また『目を見ないで会話してる』って怒られそうな」

「いいんだよ、最初はこうして会話する事が大切なんだからさ」

「そうですか……でも、教室で結婚式挙げちゃう空渡さんのアドバイスですもんね!」


 思わず苦笑。

 無駄な説得力の上げ方だけど、まぁよしかな。

 

「ではでは、来週から会話練習、宜しくお願いします!」

「うん、こちらこそ宜しく」

「は、はは、はい! …………いっ、うにゃぁ!」


 手を差し出すと、その手を掴もうとして空振りして、そのまま倒れちゃう。

 そんな視界の子が僕以外にもいたんだなって思うと、どこか安心する。

 

 ぼやけた視界で生きるのは、僕だけじゃないんだ。

 何も見えない世界で生きている彼女を、今度は僕が導いてあげないといけない。


 沢山の人に助けられた僕がどこまで出来るのか分からないけど。

 それでも……はっきりと見える道が、そこにはあるのだから。

夕方頃『エピローグ:二年後』を投稿して最終話になります。

是非とも最後までお付き合いのほど、宜しくお願い致します。

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