06 ウィリアムとアイリーン ウィリアム視点
「で、彼は一体何なんだ?」
「私だって知らないわよ。初めて会った時に料理とかいう獣の肉を食べられるようにしたものを持ってきたことと、神様の依頼でそんなことをしているって言われたくらいよ」
私の前でアイリーンがふてぶてしく、そう答える。
アイリーンは調合師として働き始めた時からシェリルバイト領に来ていたから、当時騎士団の新人騎士だった私ともそれなりの付き合いだ。
基本的に調合師が各地に派遣される際には騎士団が護送をするし、今回のように何か必要なものができた際や各地の徴税の際にも顔を合わせるからな。
「神様云々というのは本当のことなのか? 彼はまさか神聖王国の人間か?」
「さあ? 聞いたことはないけれど違うんじゃない? 神聖王国の人間なら王国上層部が知っていそうだし単独では行動しないでしょう。それに王国に対して有益な情報をあんな簡単にばらまいたりはしないだろうし」
確かに、この国に限らず周辺国家では食料の供給不足が深刻だ。
それがわかっていても食料の栽培量をいきなり増やすことは難しいし、森や山で新しい食料を見つけるというのも魔獣や獣の存在が邪魔だ。
それにポーションさえ飲んでいれば何とかなってしまうというのも、現状を維持した原因なのだろう。
「彼が作ったという料理は本当に獣の肉を使っていて、本当に食べられるのか?」
「ええ。私も食べたけれど美味しかったわよ。体調も崩さなかったし、普通の人でもあれと同じものが作れるようになればまさに革命でしょうね」
にわかには信じがたいが、調合師であるアイリーンがそういうのなら本当なのだろう。
「それよりも、アイツ。騎士を倒しちゃったけど大丈夫なわけ?」
「ああ、それか。殺された騎士は私の命令を無視しただけではなく、任務を放棄したからな。いくら領主様の縁戚とはいえ処刑が妥当だ。何の問題もない」
正確には問題はある。
だが、アイツの死に関しては荷を狙ってきた魔獣との戦闘で殉職したことになると新人騎士たちと口裏を合わせてあるから問題はないことになる。
さすがにジョシュア様には正確に報告しなければならないが、彼の有用性と問題児の普段の行動、それに今回の任務放棄の件を伝えれば賛同してくれるだろう。
「それならいいけどね」
「アイリーンにしては肩を持つな。そんなに彼を気に入っているのか?」
アイリーンは基本的に他人に対して興味を持たない。
というよりも、ポーションや薬草に対しての好奇心が先に来るので、人間に対する執着心が少ないのだろう。
「別に気に入っているわけでもないけど、アイツには料理とやらをこの国に広めてもらわないとならないからね」
「料理を? 確かに食料が増えるのは歓迎だがそこまで君が気にすることか?」
「料理が広まればポーションの需要が減るでしょう? そうしたら私が新しいポーションの研究をする時間がとれるじゃない」
なるほど、アイリーンらしい。
彼の方を持っていたわけではなくて自分の研究のためか。
「それに、悔しいけどアイツの作る料理は美味しいからね。村で剣を抜くような馬鹿のせいでアイツの料理が食べられなくなるのは嫌だし」
「君がそこまで言うほどなのか? 調合師の君なら王族や貴族と同様の食事が手に入るだろう?」
「根本的に今まで食べてきたものとは違うのよ。確かに貴族が食べるような果物は美味しいけれど、アイツの作る料理は温かくて複雑な味がするの」
貴族と同様の食事をしたことのあるアイリーンがここまで褒めるとは、少し彼の作る料理とやらを見くびっていたかな。
材料が獣の死体や毒のある植物だと聞いていたから、食うのに困る平民に対しては有用なものと考えていたが、アイリーンがここまで褒めるのならばジョシュア様も気に入るかもしれない。
「アイリーン、彼に料理について詳しく聞きたいのだが……」
「いいわよ、ついていってあげる。……といっても、私は彼がどこに住んでるのかも知らないから案内は村長にお願いすることになるけどね」
「ああ、それなら良かった。村長にも問題児の件を謝罪しておかなければならないからな」
いきなり騎士が村の中で暴れだしたのだ。
直接関係がなくても団長の私の管理責任だし、謝罪はしておかなければならない。
「そうね。ああ、鍋のほうは適当に交換しておいて。彼には古い鍋を料理用に提供することになってるから」
「古いほうは外に出しておけばいいのだろう? 何やら君の家のそばに不格好なかまどらしきものがあったからね」
「あれも彼が手作りしたものよ。かまどなんて普通は土魔法で作るものなのに河原の石で作るなんて……どこでそんな方法を知ったのかしらね」
なんと!?
確かに石が組んであるように見えたがまさか魔法なしで作られていたのか。
「ふむ、聞きたいことが増えたな」
彼は料理以外にもいろいろな知識を持っているようだし、興味が尽きない。
なるほど、アイリーンが彼に肩入れするわけだ。




