03 フライラット
というわけで、謎の羽の生えたネズミ、フライラットの調理に入る。
しかし、記憶がないのもそうだが普通の人間はネズミを捌く経験はないだろう。
もちろん俺の知識の中でもネズミの捌き方の知識はない。
とりあえず食材鑑定でフライラットを詳しく鑑定してみると
『個体名: 種族:フライラット 性別:雄 年齢:二歳 食用:可 肉は淡白で年齢を重ねるほどに固くなる。寿命は二十年ほどで背についている翼は羽ばたくものではなく滑空するためのもので骨と皮しかない。毛側を剥ぎ腹から内臓を取り出してから焼くのがおすすめ』
まあ、こんな感じで鑑定結果が出たわけだ。
個体名が空欄なのは野生の動物で識別する名前がないからで肉は食べられるが翼は無理と。
軽い捌き方の説明は食材鑑定でも出ているが、詳しくは載っていない。
つまり、前の世界のインターネットから引っ張ってくるレシピ……長いな、異界のレシピとでも呼ぶか。
この異界のレシピで検索をかけてみよう。
どうやら、まずは内臓を取り出して、毛皮は引っ張ればとれるようだ。
まずは内臓を取り出すのだが、これがすごい。
調理台の中に入っていた包丁を使っているのだが、さすが神様印、皮も肉もすすっと刃が入っていって簡単に切れる。
記憶がないから正確なことは分からないが、俺の調理スキルの低さを補って余りある。
まあ、なんでこんなに神様を上げてるかって言うとあの空間で人の心の中をいとも簡単に読んできたからこれからもちょくちょく神様上げをしようってだけなんだけど。
全部終わった後に、お前は私への感謝の念が足りないだとか文句が多すぎるとか言われてもあれだし。
んで、毛皮は尻尾のほうに軽い切れ込みを入れるとするすると剥げる。
いや、マジでこれ気持ちいくらい簡単に剥げるわ。
まあ、これは異世界の謎の翼つきネズミ、フライラットならでは何だろう。
レシピには吊るして剝ぐとか、包丁でこそげるように剥ぐとか書いてあるし。
あ、ちなみに羽は必要ないし皮をはぐときに邪魔になるのであらかじめ切り落としてある。
まあ、そのせいで毛皮の中央にはそこそこの広さの穴が二つも空いているわけだが。
……まあ、使い道もないのでこの毛皮と取り出した内臓はゴミ箱行きで。
本当は鞣したりして羊皮紙とか毛皮製品にするべきなんだろうけどやり方知らんし、異界のレピでも料理関係のもの以外は検索結果が出ないので無理だ。
「しかし、ここまでやってようやく肉らしくなったな」
いわゆる枝肉という奴だろうか。
「すごい、なんかピンクですね」
「きれー」
そうか、前の世界ならグロ画像とか言われそうなこの状態もこの世界では綺麗か……。
さて、このあとは切り分けの作業。
とりあえず四肢は関節から外す形だからわかりやすいが、腹回りはほとんど肉がないうえに骨がたくさんあるからここは骨ごと食べるのかな。
まあ、スペアリブみたいなものだと思えば……。
で、顔のあたりは頬肉が筋肉がかなりあるからそれを外して……。
「なんとか固まり肉を確保できたな」
まあ、初めての作業だから結構ガタガタなんだけど、それを指摘する人もいないしいいよな。
「これで食べられるのか?」
「いやいや、肉は果物なんかとは違って火を通さないと食べられないんだよ」
厳密には保菌量が少ない肉で新鮮なら食べられるものもあるらしいがこの世界ではどうだかわからないし。
少なくとも捌いたフライラットは改めて鑑定しても生食ができるとは出ないし。
「火を使うのか?」
「じゃあ、ポーション?」
「ん? ポーション? いやいや違うよ。ポーションは火を使って作るのかい?」
「火を使えるのは調合師のばあちゃんだけだよ」
「薬草とか乾いた根っことか入れた容器を火でぐつぐつするんだよ」
ほうほう、ポーションは薬草なんかを煮ることで作られるのか。
「その調合師の人を真似て野菜なんかを煮たりした人はいないのかな?」
「火は魔法使いの人しか使えないから野菜には使わないよ」
「野菜は生で食べるのが美味しいよ?」
「あー、そうなんだ。……俺はこれから火を使うけどこれは魔法じゃなくて神様からの加護だからね」
まさか、火を使うこと自体が魔法とは。
それとも魔法があるから火の熾しかたや持続法も伝わらない……とか?
いや、それって調理技術以前の問題じゃないか。
「火を使えるの?」
「すごいすごーい」
コンロの前までぶつ切りにした生肉を持っていって火にかけると二人は大はしゃぎだ。
しかし、火でこれほどはしゃげるなんて娯楽のない村なのか……いや、この世界自体に娯楽がないのかもな。
とりあえず、骨を取り出したもも肉を塩コショウで味付けしてみる。
まあ、この食堂作成、調味料の類が充実しているのだ。
砂糖、塩、酢、醤油、味噌はもちろんのこと、小麦粉、バター、パン粉。
油はオリーブオイルに菜種油、ごま油と種類がたくさんなのだ。
というか、付属の調味料だけでもパンとか作れるレベルだ。
「まずはフライパンに菜種油を引いて、フライパンが温まってきたらあらかじめ胡椒をまぶして置いたもも肉を並べる。この時、油が跳ねやすいので注意すること。最後に塩で味を調えたら完成っと」
生食不可の食材なので熱の入れ方は念入りに、途中で蓋をして軽く蒸し焼きにするのも忘れない。
「ほえー、これが肉か」
「なんか嗅いだことない匂い」
「実は俺もフライラットは初めて食べるからどんな味かわからないんだ。二人も食べるかい?」
「いいのか?」
「食べてみたい」
おお、斯くも好奇心旺盛な子供たちよ。
まあ、それだけ未知のものがこの村にはないのだろう。
「じゃあ、三人で一緒に食べようか」
二人にはフォークを、俺は箸をもって焼きあがったもも肉を食べる。
もちろん、調理に使った菜箸は有害な菌がついてる可能性があるので使わない。
「……おお、これは」
「……美味いっ」
「柔らかいっ」
そうこの肉、年齢が若いからか肉がものすごく柔らかい。
しかも鶏肉とも魚肉ともとれるようななんとも不思議な香りがするのだ。
これがフライラットだからか、前の世界のネズミたちもこんな感じなのかは記憶がない俺には判断できないがうまいから良しとする。
「どうだい、ふたりとも。これが肉料理さ」
「すげーよ、お兄さん」
「すごいすごい」
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