17 ハンバーガー
まあ、翌朝になってみれば見事に二人に起こされる俺がいるわけだが。
いやだってさあ、五時半を夜明けとしてこの子達四時過ぎには行動開始するんだよ。
まあ、暗くなったらすぐ寝るからそれでも八~九時間は寝てるんだろうけど。
俺ってば前の世界でもこうやって誰かに起こされてたのかね。
まあ、記憶がない俺はそのことで嘆きも悔やみもできないのだが。
「ねえ、マサト兄ちゃん、今日も寝ぼけてるけど昨日言ってたお弁当の準備は大丈夫なの?」
「そうだよ、マサトさん。ミーナ、新しいことを教えてもらえるってワクワクしてるんだから」
「だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと準備してあるよ。二人はこのデビルボアのもも肉をこのミンサーを使ってひき肉にしてほしいんだ」
食堂内にあったミンサーは手動のものだったので適当に肉を放り込んだらできるわけではなくきちんとハンドルを回さなければならない。
「とりあえず、手本を見せるな。この上の四角く開いているところに肉を入れて、ここのハンドルを回す。一応吸盤で作業台に固定はしてあるけど気をつけてな。ひき肉が出てくるところにはボウルを置いてあるから全部回し終わったらもう一回同じようにしてくれ」
「すごいっ、なんかお肉が細かくなって出てきたよ」
「やるのはいいけど、マサト兄ちゃんはその間何やるんだ?」
言外に二人に雑用を任せてまた何か一人で料理をするんだろうという響きを感じる。
「俺は、その間に顔を洗ってくるよ。今日の料理は肉が重要だから二人の作業が終わらないうちには先に進まないよ」
俺がシンクに向かうと二人は安心したように作業を始めた。
まあ、ここなら何かあったら対応もできるし、二階の洗面所を使うまでもないだろう。
あと、なにより二階の洗面所はお湯が出るまで時間がかかる。
「マサト兄ちゃん、一回目が終わったよ」
「おう、そしたら置いてあるゴムベラでもう一回流し込んでまたハンドルを回してくれ」
顔をタオルで拭きながら返事をする。
顔を洗い終わったからフライヤーの電源を入れつつ他の具材も準備を始める。
付け合わせはフライドポテトにするから、斑芋と味付け用のガーリックバター。
ハンバーグにはパン粉とコンソメ顆粒と塩コショウとマヨネーズ。
パンは保管してあるのから三個準備して、挟むための具材と調味料にバターと緑菜、紫トマトも準備しておく。
「二人ともできたか?」
「できたよ、マサト兄ちゃん」
「マサトさん、これからどうするの?」
「まずは二人が作ってくれたひき肉に準備していたマヨネーズ、塩コショウ、コンソメ顆粒、パン粉を入れる。入れ終わったらこれをよく混ぜ合わせる」
「なんか、ねちゃねちゃしてるけど……」
「こんなにぐちゃぐちゃで料理になるの?」
確かにここだけを見ていると肉で遊んでいるようにしか見えないんだろうな。
「これを捏ね続けると肉の油とかパン粉、マヨネーズなんかの油分で肉が固まってくるんだ」
とりあえず簡単に一塊になるまで捏ね続ける。
「で、固まったこれを人数分に分ける。今回は三人だから三等分だな。これを両手で形を整えながら両手の間を行き来させて中の空気をなるべく抜く」
二人にもやらせてみるが、刃物を使った作業ではないからかレイジはたどたどしく、ミーナは最初ひき肉の感触に顔をしかめていたがすぐに慣れたようで俺よりも手際よくやっている。
「これ、形を整えるのは分かるんですけど、中の空気を抜くのなんでなんですか?」
「これからこの肉を焼くんだけど、中に空気が入っているとひび割れちゃうんだよね。だからそのための空気抜き」
しっかりと形を整えたハンバーグを油をひいたフライパンに並べる。
「フライパンに並べた時に必ず真ん中を押して軽くへこませておくこと」
「せっかくきれいにしたのにつぶしちゃうのか?」
「焼くと真ん中のほうが膨らんでくるから、へこませておかないと形が不格好になるし真ん中に火が通りづらくなるんだ」
「いろいろ理由があるんですね」
「で、こんな感じに片面に焼き色がついたらひっくり返して少し水を入れる。すぐに蓋をして蒸し焼きにすればハンバーグは完成だ」
言いつつ、水を軽く入れてから蓋をする。
これから数分間は蒸し焼きの時間だから先にパンにバターを塗っておこう。
「さ、ここに用意したパンを横に二つに切って中になる側にバターを塗ってくれ」
やはり、刃物を使うのはレイジが圧倒的にうまい。
パン切り包丁という、いつも使ってる刃物とは形状も使い方も全く違うものを手にしても目に迷いがない。
「簡単に言うとこれは、半分に切ったパンに野菜やハンバーグを挟んで食べる料理だ。紙に包んでおけば普通の料理と違って持ち運びが楽だし、食べるときにも片手で持って食べられてテーブルや食器も必要ない」
もちろん、包み紙は食堂の備品として常備されている。
本当にこの食堂には驚かされてばかりだ。
神様がどんな事態や状況を想定してるのかわからないが、ケーキ用の箱やタコ焼き用の舟もこの間発見してしまった。
たこ焼きはタコが、ケーキは牛乳と卵がネックだから作れるとしてもだいぶ先になると思うのだが。
「ほら、二人ともハンバーグが焼けたみたいだぞ。こんな感じで串を刺してみて中から透明な肉汁が出てきたら中まで火が通ってる証拠だ。デビルボアの肉は生で食べると腹を壊すこともあるから火が通ってるかは必ず確認すること」
この竹串も食堂内の備品だが、この世界の、というかこの村の住人は器用のステータスだけは異様に高いから串程度なら簡単に再現して見せるだろう。
聞けば農具として使ってる木製の鍬や鋤も自分たちで作っているらしいし。
農具を作るよりも木を切り倒すほうが大変って言ってたし。
「マサトさん、これとやさいを挟んだら完成ですか?」
「そうだな、今回はハンバーグ用のソースを作ってそれにハンバーグを絡めようか」
一時的にハンバーグを皿に移し、肉汁や油が残っているフライパンに赤ワインとソース、それに醤油を軽く入れてひと煮立ちさせる。
二人にアルコールはさすがに早すぎるので、コンロの火をフライパンに移してフランベする。
「マサト兄ちゃんっ、フライパンが燃えてるよ」
「危ないですよマサトさんっ」
「大丈夫大丈夫。さっき入れた赤ワインとかよく使ってる料理酒なんかは火が付きやすい成分が入っているからこうやって火に近づけると簡単に燃えるんだ。でも、その成分が燃え尽きてしまったらついてた火も簡単に消えるから大丈夫だよ。……ほらね」
「びっくりしたよ」
「悪い悪い、でも肉の臭みを消すために酒をかけて火をつけるのはよくある手法だからミーナにはそのうち挑戦してもらかもしれないな」
「が、がんばります」
今は臭みの少ない肉ばかりだから、正直フランベなんかしなくても食べられているが、この先この村から出た時には臭みの強い肉にも出会うかもしれないから教えておく。
「さあ、軽く煮詰めてトロみが出てきたら、さっきのハンバーグを戻してこのソースに絡めていく。あとは火を止めてこのまま放置しておこう」
「まだ何かするんですか?」
「昨日作ったフライドポテトを付け合わせとして持っていこうかと思ってね。昨日も言ったけどフライドポテトも手でつまんで食べられるから外で食べるのに向いてるんだ」
「あ、僕作ったことないから作ってみたかったんだ」
「じゃあ、お兄ちゃんにはミーナが教えてあげますよ」
「ああ、ミーナ。斑芋は切ってあるのが冷蔵庫に入っているからそれを使ってくれ。俺はその間に緑菜と紫トマトを切っておくから」
「もう、ミーナが最初から教えたかったのに」
「さすがに朝から斑芋の下処理は時間がかかりすぎるから勘弁してくれ」
「じゃあ、片栗粉を使いますね」
「いや、今日はガーリックバターを味付けに使うから片栗粉は使わずにそのまま揚げてくれ」
「昨日のとは違う味なのか?」
「そうだよ、昨日のは塩味にケチャップを付けるので割とスタンダードな作り方。フライドポテトはそれ以外にもガーリックバターやコンソメ、明太子パウダーやのりしおなんかがあるな。今回はハンバーガーと合わせるからケチャップがいらないがっつり系でガーリックバターにしようかなって」
「よくわかりませんけど、今度他の味も教えてくださいね」
「僕にもちゃんと教えてよ」
「わかってるよ」
二人の必死な様子に思わず苦笑してしまう。
緑菜だけで生きていた二人にとっていろいろな料理は今や楽しみになっているのだろう。
他の村人もそうなってほしいと思いながら、俺は緑菜をちぎり、紫トマトを輪切りにする。
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