5.ドラマみたいな
遅ればせながら注意。
この作品はほのぼのからのシリアス、といった急降下・急上昇を楽しむものとなっております。
さて、気を取り直して帰ります。
なんかこの状況、逃げ帰ってるみたいだな。
まあ事実、ではあるだろうけど。
イリスは「何かおかしいぞ、この子供」みたいな顔でこっちを見てくるし、こっちはこっちでなにが起こったのかまだ理解できていないし。
馬車の中にはいまだかつてないほど気まずい空気が流れていた。
*****
地味にきつい時間を経て、ようやっとサヴァルミスコに帰りましたと。
ああいう時はひたすら窓の外を眺めて現実逃避するに限る。
まあそんなこんなでやっと我が楽園、そうつまり住処に帰ったわけですが。
「…何があったん?」
もうすれ違う人々がみんな慌ただしい様子。
宮殿の雰囲気もなんか落ち着きがないというか。
いや、本当に何があったのよ。
私が何があったのか理解できずに突っ立っている間に、何やらもう一つ馬車が到着した模様。
…いや、馬車じゃないな。出迎えは馬車が帰ってきたときと同じくらいの量だけど、馬一頭ほどの足音しか聞こえない。
なんだなんだ、誰がわざわざ馬に乗ってこっちに来るんだ、なんて思ってたらでっかい砂嵐と共にこの国で一番偉い人間が来た。
「いや父様がなぜここに!?」
「ああ、セーレか。母様が産気づいてると言うのでな、急いでやったきた!」
「執務はどうしたんですか?」
「…ああ、部下に任せた」
「部下さんが哀れですよ」
まあ父様でしたというオチ。
しかし、この慌ただしさはそろそろ子供が生まれそうだからか。
そういえばサファナが生まれたときもこんな感じだったなあ。
あのときは私も大分小さかったから半分寝てたけど。
「ところでセーレ、今すぐ母様のところに行きたいんだ、ということで父様と一緒に来るか?」
一応血が繋がっているからか、私と父様、もといライオスの思考回路はかなり近いようで。
「…連れてってください」
そして父様にお姫様だっこされながら移動していくなかで考えるのだ。
この人、こんなに脳筋だったか?と。
「あ、父様止まってください、あそこを右に曲がった辺りの部屋だと思いますよ」
「おお、セーレはまだ五歳なのに賢いな!」
あ、そうだった私今五歳なんだった。
やばいやばい忘れてた。そういえば五歳がこんなに流暢に話してることとかないよな、気を付けよう。
そして母様が頑張っているだろう部屋についたが。
「ちょ、陛下!まさかそのままの汚いお姿でこの部屋に入るとか考えている訳ではありませんよね!とりあえず手でも洗ってからいらっしゃってください!」
だれも逆らえる人間はいないだろう侍女長に鬼の形相で止められた。
この人、影で他の侍女に「年増婆」とか言われてるけど大丈夫だろうか。
「あ、セーレお嬢様。おかえりなさいませ、さっそく母君に会わせてさしあげますね」
「あ、ありがとー」
この扱いの差よ。子供で本当によかった。
ちなみに父様は手洗いだけでなく着替えもしろと言われたよう。めちゃくちゃ急いでました。
まあ私だって妊婦の部屋に汚い姿で入るわけにも行かないからね、さっそく自分が使えるらしい魔法創作なるものを使ってみる。
「洗浄」
対象は私の体。とりあえずバイ菌とかを全部落として欲しい。
なんてやってみたらあら不思議。お風呂にはいったかのようにきれいになった。
とりあえず父様から移った汗臭さはなくなったのでよかった。
「母様、大丈夫そうですか?」
と言うまでもなく、汗でびっしょりのその体は大丈夫そうではなかった。
…うん、出る幕ないな私。
サファナは別の侍女にあやされて寝てるし。
なんというこの部屋の密度よ。
なんか、思ってたんと違うけどまあ王の子供が生まれるところだからそりゃあこんな感じか。
空気になることに徹していると、扉が勢いよく開いた。
「アメレ!大丈夫か?」
「…陛下、こんな私にわざわざありがとうございます…」
「家族なんだからそれはそうだろう、頑張れよ」
「はい…」
母様が涙目になり、対して父様はおろおろしだした。
…ロマンチックですなぁ。
まあ今は好きなだけドラマみたいなやりとりをしてください、私はその他大勢になってますから。
ただちょっと、両親がどっかの物語のような感動的なやりとりをしていると子供としてはまあ微妙な気持ちなわけで。
…赤ちゃん頑張れ。
と応援するしかなくなってしまうのだ。