1.懐古
「でかしたぞ!アメレ!」
この日、王宮で一人の女の子が生まれた。
母は聖女・アメレ、父はこの国の若き王・ライオスだ。
つまるところ、この女の子は王女となるのだ。
*****
…さてさて、ここはどこだろうか。
少々の倦怠感と空腹感を感じる。
目の前には知らない女性が。
構図的に私を抱きかかえている、みたいな。
巨人の住処に入り込んだみたいな状況なのか?
いやいや、エルフとか獣人とかはともかく、巨人なんて聞いたことがない。
現実的に考えるなら、私は今赤ちゃんだ。
…いや、まったく現実的ではないけど。
少なくとも、これまでの状況とかを考えるに私が赤ちゃん姿になっているというほうが現実的だ。
いわゆる生まれ変わりって奴なのか?
私は確かに死んだ。それは分かっている。
首に落ちる鉄の感覚。
あの恐怖は今でも忘れられない。
まあ、私は死にましたと。
そして謎の空間に行き、女神らしき人物に会い、今に至る。
多分生まれ変わったんだろうなあ。
「復讐してきなさい」みたいなこと言われたし。
「あなたの名前はセーレよ、生まれてきてくれてありがとう」
母にあたるだろう女性が私を「セーレ」と呼ぶ。
私の新しい名前は「セーレ」らしい。
…セーレ?
この名前、どこかで聞いたような…。
あ、好きだったゲー■のキャラ■ターの名前…
あれ?
ゲ■ムって何?キ■ラクターって、どういう意味だ?
わからない。頭の中がぐるぐるする。
何か、私ではない人の記憶が流れ込んでくるような。
…。
*****
苦しい。
なんで私だけが、私だけがこんな目に会うの?
私、いい子だったよね?なのになんでこんな事しか起きないの?
おかしいよ、どうかしてるって、ねえ辛い苦しいだれか助けて救ってください神様なんで__
*****
父は母を早々に捨ててどこかに行った。
泣いても泣いても何も口にできず、涙はとうに枯れていた。
私を何とか世話しようとしてくれていたのだけはありがたかった。
じゃなきゃ飢え死にしてただろう。
ただ、毎晩部屋が荒れ果てていくのは悲しかった。
衛生環境は本当に悪かったよね。母の精神状態を考えると仕方ないことかもしれないけど。
あの頃の私は、普通に危なかった。
生まれてから二年、三年経っても環境は一向に変わらず、多分あのまま行けば思いっきり犯罪者になってただろう。
でも、その頃から母は元気になっていった。
多分誰かと付き合い始めてたんだろう。
母が私に優しくなったのは嬉しかった。
あの人は俗にいうメンヘラなのだろうか。
知らない男の人がうちに来て、そのあとからまた前の母に戻ってしまった。
勘弁してよ、って今の私なら思ってるだろう。
そのあと、大分珍しいことに親子二人で散歩に行った。
久しぶりに外で歩けて、楽しいなあなんて思ってたら隣に母がいないんだもん、びっくりするよね。
前を見ると寝そべった母がいて。
何度か見たことのある赤い液体がとんでもない量溢れていて。
なんか臭いし、でもちょっと危ない雰囲気を感じるし。
「あヵ、り?」
初めてその名前を呼んだからちょっと発音おかしいけど。
「お母さん」みたいな呼び方は聞いたことがなかったから、ついこの前初めて知った母の名前を口にした。
その直前の母の顔は生気がなくて、仮面みたいに笑顔を張り付けた感じがしてすごく怖かった。
そうして孤児院に入った、かなり強烈な記憶。
トラウマ。
それを。
私は思い出した。