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勇者召喚の悲劇

勇者召喚の悲劇 その3

作者: 蟹蔵部

「魔王を打倒できるものをここへ呼び寄せ給えー!」


 魔法陣が輝きを増し、空から一条の光が差し込んだ。

 朧げな影が像を結び、ひとりの人物が浮かび上がる。


「「おおぉ! 成功だ!」」


 見守っていた騎士や魔術師からどよめきが起こった。


「よくぞおいでくださいました勇者様」

「な、なんだここは!?」


 泥にまみれた勇者は、なるほど屈強そうな見た目であった。

 黒曜石を思わせる肌にスラリと伸びた手足、王国の騎士を上回る程の大きな体躯。それでいてまとう雰囲気は野蛮とは程遠く、荒事など経験した事がないようだ。


「どうか魔王の脅威から、私たちをお救い下さい」


 王女の真摯な願いに、勇者は魔王討伐を決意した。しかし、戦いについては全くの素人であるので、まずは王城で訓練を行うことにした。

 勇者はすぐにでも訓練を開始したかったが、武器や防具、訓練教官の手配など準備があるので明日からとなった。


  「浴場も準備してありますので、本日はどうぞゆっくりしてください」


 全身泥まみれであったのを思い出し、勇者は王女の提案に従った。浴場へ行くまでに廊下を泥だらけにしてはいけないと、召喚された部屋の近くの庭で泥を落とした。


 身を清め、宛がわれた客室で勇者は思案する。

 地球では困難に立ち向かう力がなかった。自分の両手が届く範囲は狭く無力であった。だがこの世界では、何かができるかもしれない。人々の助けになれるかもしれない。

 勇者としての力を確かに自覚して、魔王を打倒するのだと決意を新たにしたのだ。


 訓練を開始してから早3か月。恵まれた体躯と秘めたセンスで、勇者の力量は王国随一となった。そして今日、魔王討伐の旅に出発する。


 大々的なパレードが行われ、街中を勇者を乗せた馬車が行進した。希望を見出した人々の顔は、疲れを感じるものの明るく、勇者の活躍を少しも疑っていない。

 この人たちの思いに答えるのだと、勇者の心に熱い炎が宿った。


 そしてパレードの終着点、街と外とを隔てる門へと到達した。

 いよいよここから始まるのだ。遠くを見据えた勇者の目が捉えたのは――。


 それは茶色い悪魔であった。

 群れて飛び、飛んで貪り、残るのは荒廃した大地だけ。


「あ、ああっ……」


 勇者の顔が絶望に染まる。あの茶色い悪魔の名は『サバクトビバッタ』。地球で猛威を振るったバッタだ。

 この世界にはいないはずであった――、勇者が持ち込むまでは。


 勇者の体に付着していた卵は、訓練を続けていた間にふ化し、繁殖を続けていた。

 さらに、魔王の侵攻により農地が荒らされていたことで、サバクトビバッタは群生相へと相変異を起こしたのだ。

 群生相となったサバクトビバッタは、農地から農地へ飛び回り、その悉くを食べ尽くした。

 一日の間に数百キロメートルも移動するバッタに対して、人々の対策は全くの後手。情報が到達するより速く、茶色い悪魔は飛来する。


 人間の生存圏を食べ尽くしたバッタは、そのままの勢いで魔王の支配領域へと侵攻した。

 植物系の魔物を食べたバッタは、取り込んだ魔力によって魔物化し、さらに雑食へと変貌した。

 草、木、肉、目につくものをひたすら食べ、やがて魔王をも食べ尽くした。


 寄せては返す波のように、魔王の支配領域から翻って来たバッタは、人類をも食べ尽くした。

 大きなうねりの中で、勇者の出来ることなど何もなかった。


 バッタが過ぎ去った後には、もう何も残っていない。


群生相のサバクトビバッタは怖いなぁ。卵のうちから駆除しよ。

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