扇動する情欲
四方智里は、男の劣情に無自覚に触れてしまうような男だった。
記憶の中で最も古い相手は、叔父だった。
まだ小学校に通っていた頃だったか、いつかの親族で集まる日。
辺りを焦がすような熱を、太陽が放っていたのをよく覚えている。
父親や祖父たちはいつものように酒を飲み、付けっぱなしのテレビに対し大声で文句をつけ、かと思えば歓喜の声をあげ、智里の事など気にも留めていない様子だった。
酒の臭いが苦手だった智里は、つまらないテーブルから離れ、ぬるい風を吹かせる扇風機のそばで、すっかり氷の解けたお茶を少しずつ飲んでいた。
身近な大人たちの明るい声に取り残された智里は、もう家に帰りたいと思いながら、また一口、お茶を飲む。テーブルまで継ぎ足しに行かなくても済むように、ゆっくりと。
そんな見るからに詰まらなそうな智里の姿を見かね、声を掛けてきたのは叔父の吉嗣だった。
父親の弟にあたる吉嗣は、昔から智里を気に掛けていた。
家族で叔父を訪ねた時には「秘密のお小遣い」を、ポケットに忍ばせてくれたし、誕生日には智里の好きなヒーローに関連した玩具をプレゼントしてくれた。
「どうだ、おっちゃんと、こっそりオヤツでも買いに行くか」
智里は顔を輝かせ、叔父の後について行った。
叔父が向かった先は、車だった。あれ、と思う。確か、叔父も酒を飲んでいたはずだ。
ちょっとまって、車は駄目なんじゃ……。
言おうとしたその刹那、智里の身体は叔父に抱かれていた。
「くるし……ど、どうしたの」
「言っただろ、オヤツでも買いに行こうって。これはな、その準備なんだよ」
狭い車の中、荒い息が聞こえる。ごくりと、つばを飲み込んだ音が聞こえた。
叔父の手は、智里のシャツの中に強引に潜り込み、汗ばんだ素肌を撫で始めた。
「智里は本当に可愛い男だよ。おれはずっとこうしたかったんだ。いいだろ、おれは、お前によくしてやってたじゃないか。そうだろ、智里」
智里は、叔父が何を言っているのか分からなかった。押し付けられる体重が苦しかった。
夏の暑さのせいだったのか、酒のせいだったのか、叔父の身体は、やけに熱く感じた。
小柄だった智里の身体では、何もできない。叔父は智里を抱いたまま、ゆっくりと体勢を変えた。
叔父は自らのズボンの膨らみを、智里のその部分に押し当て、腰を動かしていた。
食べられる、と思った。
叔父は腰を痙攣させながら呻き、にまりと笑いながら、自身の下着の中に指を突っ込んだ。
智里の顔に突き出された指先には、嫌な臭いのするゼリーが付着していた。
「舐めなさい」
いつもの優しい声だった。智里は叔父の言う通り、目の前の指を咥えた。
嫌な臭いが広がるのに耐えながら、指にこびりついたゼリーを、舌で舐め取り続けた。
やがて口を離すと、叔父の指と自分の口との間に、唾液が糸を引いている事に気付いた。
不快だったはずの叔父の指が、たまらなくいとおしく思えた。
もっと、ください。叔父さん。
肉親としての一線を越えたのは、その時だった。
熱と痛みと、そして、頭から溢れ出すような快楽の痺れを知った。
それ以来、智里は大人の男の目を気にするようになった。
ある時は通学中に。またある時は、電車の中で。様々な施設の中で。
すれ違う男性の何人かは、叔父と同じ眼つきで、智里の身体を眺めていた。
始めは不快に思っていたが、それは間違いだった。
そう見られているなんて、こんなに気持ちのいい事が、他にあるだろうか。
――今日の配信では、皆さんから頂いたオモチャで遊んでみますね!
机上に並んだ男性器の形を模した玩具に触れる。
コレが、『チョモラちゃん』に向けられたモノなんだ。
<Herbarium>のカウントダウンが『0:01』から『0:00』へと更新される。
智里に『チョモラちゃん』としての、スイッチが入る。
「こんチョモっ★ みなさんお待たせしました、チョモラです~!」