誘引する小瓶
球形のガラス瓶の中に、小さな宝石の粒が雪となり降り積もる。
ゆっくりと、花が咲いた。
ほんの僅かに桃色の差す芍薬の花。
紫の花弁が1枚、ふわりと舞う。
同時に残り時間を示す、カウントダンが開始された。
<1:00>
画面中央に表示された時間が更新される様子を、眺めていた。
白い花弁が、桃色の花弁が、そして、雪の結晶が、星型の宝石が、ガラス瓶の中で舞う。
始めて見る<Herbarium>の配信待機画面だった。
前に利用していた配信のサービスでは、待機画面なんてなかったはずだ。
他を知っているわけではないが、これは思っていた以上に、随分と凝っている気がする。
<0:30>
かつてのラジオ配信では感じることの無かった緊張。
手元のお茶を飲み、今一度、自分の姿を手鏡で確認する。
この姿を、多くの人が求めている。コメントが目まぐるしく更新される。
配信用に準備したライトも、そしてカメラも、マイクも問題ない。
ショートパンツの下で、薄く小さな下着が、緊張と興奮にぴくりと膨らみ始めていた。
チョモラ★初配信!お待ちしてます
Chomolunmang
―おひろめ配信★チョモラとおしゃべりしよっ♪―
画面には、<Peony>に設定した名前とID、そして、配信のタイトルが順々に表示された。
カウントダウンが終わる。待機画面が暗転する。
カメラの映像に切り替わり、コメントがより一層激しく更新された。
まってました、かわいいとこいっぱい見せて、生チョモちゃん!
青緑が買ったシースルーのブラウスに身を包んだ、
アイドルのように扱われる『チョモラちゃん』として姿。
「みんなっ、今日は来てくれてありがとう! 始めましての方もいるかな?
チョモラって言います★ はじめてなので、今すっごく緊張してるんですけど、
今日はチョモラの事を知ってもらえるように頑張ります!
一緒に気持ちよくなろうね~っ★」
普段の投稿よりもさらに多くの過激なコメントが投稿されている。
そのまま乳首触って。はやく服を脱いでほしい。マスク越しでいいから咥えて。
「いいよ、チョモラがみんなのためにぃ、何でもしてあげるね」
上目遣いに見える様に、カメラの位置を調節し、れろ、と舌を出す。
指を這わせ、ほんの少し息を吸って、ちゅぱり、艶めかしい水音をわざと立てながら、指を唾液で湿らせる。
いつか自分を犯した叔父たちは、こうするのが、好きだった。
「そんなに乳首が見たいの? でも焦っちゃダメだよ、まだ始まったばっかりだし」
見せつける様にカメラにより、ブラウス越しに自らの乳首に触れる。
唾液はブラウスを湿らせ、その向こう側にぴんと立つ、小さな蕾をのぞかせた。
焦っちゃダメ……これは、自分に言い聞かせないと。
「はひぃっ……、んっく、あッ……」
多くの人に、『チョモラちゃん』を見られている。
どうしたのチョモラちゃん。もっと欲しいんじゃないの。
そんな姿見せられたらこっちも我慢できなくなるよ。もっとよく見せてよ。
そして多くの人が、チョモラちゃんの身体で、昂った獣の欲望を吐き出そうとしている。
こちらの気持ちを見透かすように、そして、もっと過激な姿を求めるコメントで溢れていた。
でも、まだ。
「うんッ、もっと……みんな、もっとチョモラを見てぇ……」
おひろめ配信は、始まったばかりだった。