羽化する揺籃
『Peonyはじめました。よろしくお願いします★』
タイムラインに、設定したアイコンと、入力したばかりの投稿が追加される。
<Peony>はSNSの一つであり、チャットやメッセージ送信の他、音声や映像を共有し配信や会議機能が利用でき、それらは全て、Peonyユーザの間で完結する。
いわばクローズドSNSであり、現在の利用者はそう多くないものの、各サイトや他SNSでも紹介され始めた、これから認知され始め、伸び始めると言われているサービスだった。
登録してすぐに投稿したなんの捻りも無いシンプルな投稿に、数分も経たないうちに多くのアカウントからコメントが届く。
特に、配信を求めるものが多く、中にはPeonyの配信機能<Herbarium>の利用方法を纏めたイラストまで載せられているものもあった。
よろしくお願いしますと記載されたコメントや、絵文字やスタンプだけのコメント、それらをざっと流し見て、思わず笑ってしまう。
まだ誰のアカウントにもリンクしていないのに、こんなに多くのコメントが届くなんて考えてもいなかった。新規ユーザーだからなのか、それとも。
Peonyに登録したのは、配信するなら、と紹介されたのがきっかけだった。
たまに行っているラジオ配信を聞きに来てくれる事もある、よくやりとりのあるユーザーだった。
『たまにラジオ配信やってるけど、これ使う方が絶対良いよ。それにさ……』
少しばかりPeonyの紹介を受け、送られてきたリンクからトップページを開く。
白を基調とした淡い色合いで構成されたモノトーン風なデザインの中に、ピンクや紫系統の色が、テキストの一部等に差し色として利用されている。
洗練されたデザインから女性向けサービスであるような印象を受けたが、そんな事は無いのだろう。
登録すべき項目も少なく、すぐにアカウントを作成する事が出来た。
アカウントの顔となるアイコンは、新しく撮影する事に決めた。
別のSNSで使用しているものを使い回すのでは面白くない。
せっかく新しい場所に踏み込んだのだから、どうせなら新しいアイコンにしたい。
今から半年ほど前だったか、人物の写真を異性のように加工できるアプリ<Reincam>が流行った時、自分もその流行に乗り、男性である自分を、『女性』へ加工してみた事がある。
加工した本人なのだからさすがに女性化していても自分だと分かるが、ただ、これは思いの外かわいく出来たのではないかと思った。
他の人が女性化した姿を投稿している中に、自分も同じように、女性化した自分を投稿した。
思いの外かわいく出来たのでは、という思いは、間違いではなかった。
さほど繋がりの無かった人たちからの反応も、心地よかった。
新しい場所でのアイコンとして相応しいのは、これしかない、と思った。
Reincamでの女性化の後、女性用の服を、ウィッグを、コスメを、いくつか購入した。
これまでの自分にはなかった、新しい欲求。
生まれ変わった自分の姿を撮影し、調整し、そしてアイコンとして満足のいくものが完成した。
コメントやメッセージを眺めていると、あるメッセージから、目が離せなくなった。
Peonyを紹介した彼からのコメントを思い出す。
――たまにラジオ配信やってるけど、これ使う方が絶対良いよ。それにさ……
――アレを送ってくるようなのも、ちゃんと、たくさんいるから。