混濁する蠱惑
じっとりと汗ばんだ身体を、既に湿ったシャツで拭い、きつく、目を閉じた。
煙草と酒の不快な臭いが、まだ鼻腔の奥に残っている気がする。
自宅の車庫に、父のものとは別の、大きな車が止まっていた。
まだ夕方だと言うのに、食卓には沢山の酒類が並び、そして、下品な笑い声で満ちていた。
ただいま。どうせ聞こえてはいないだろうと思った。
濛々とした煙草の煙に顔をしかめ、思わず口元を覆う。
振り返ったのは父だった。おお、帰ったか。父と飲んでいた叔父が、そして、知らない男達がこちらに視線を向ける。
一緒にどうだという誘いの言葉に軽く会釈だけして、2階にある自室に向かう。
じゃあおれも、と彼らの輪に混ざるつもりはない。何か返事を返す必要もない。
どうせもう、おれが顔を見せた事も忘れている。
また潰れるまで飲み、そして部屋を汚し、いつの間にかいなくなるのだ。
後輩から、メッセージが届いていた。
――今日はお疲れさまでした。明日はネクタイくらいちゃんと締めてきてくださいね。
明日。そう、明日の為にも、眠らなければならない。
相変わらず下の階の喧騒は続いている。それを極力耳に入れまいと、布団を被りなおした。
「やあ、こんばんは。ごめんねえ、煩いだろう」
何も聞こえない。何も言わない。寝なければならない。
布団が剥ぎ取られ、叔父の、ぬるりとした掌が、頬に触れる。ツンとした臭いが鼻に付く。
「寝たふりを続けるんだね。あぁいいとも、分かってるさ。
好きにしていいってことなんだろう?」
酒と、煙草と、生ごみの様な、ねっとりとした生暖かい吐息が顔を撫で、ぬめぬめとした何かが這いまわり、耳から脳へ、じゅぷじゅぷと、淫らな水音を響かせる。
ああ。これは。だめだ。
目を開ける。叔父は、裸で、愛撫を続けていた。
寝なければならない理由があったはずだった。
だが、それよりも、今は。
誘うように。求めるように。
――いいよ。きて。
熱を持った言葉が、自然と発せられた。